神域の一軒家
若干不穏な気配を残しつつもアッティスさんがキュベレー様に連絡を取ってくれたので収穫祭巡りをしているアスタルテ様の居場所が判明した
「今は南部の街を回ってるみたいね~ン。丁度一週間後くらいに商業都市ルクテに着くらしいわよ」
「一週間後って・・・」
世界の危機だという認識はあるのか?主神代行だろうに・・・
「まったく。飲み食い目的としか思えないな」
「収穫祭に出るのも仕事なのよ。確かにちょっと出過ぎだとは思うけどね」
収穫祭にアスタルテ様が出て、供物と引き換えに祝福を授けると来年の実りが変わるらしい。その為なるべく収穫祭に出る事が求められるのだが、出過ぎれば御利益の有難味が薄れる。その匙加減が難しいのだが、アスタルテ様はあまり考えてはいない様だ
それでもアスタルテ様が各地の収穫祭に出てくれる事で豊作が続き農民たちは餓える事無く感謝感激状態らしく人気の高さと共に信仰も厚くるので、アスタルテ様の力が強いのもその為だ
表向きは慈愛と豊穣の神さまという事になっているが、実際には狩猟や家畜、結婚や子育てにと司る部分は非常に多岐に渡っている忙しい神さまだという事をユースティティア様が説明してくれる
「本当に思ってます?」
「いや、凄いなと思っているわよ?」
「何故に疑問系!?」
まぁ大変なのは本当なのだろう、しかしドジっ子補正のかかった女神さまなんて勘弁して欲しいのは俺だけだろうか・・・
「丁度良いわね。ゴヴニュ様の所で剣も作らなければならないし少し時間が欲しかったのよ」
伶の言う通り少し時間が有った方が色々と助かるのも事実だった。ポンタさんやタンドさんも長老衆への根回しも必要だろうし、ナティさんも魔王様と色々話もあるだろう
「それじゃ各地へ送って貰えるかな」
「なんか便利使いしていないかしら・・・一応神さま限定の力なんだけど」
「はいはい。判ったからキビキビ動く!」
ブツブツ文句を言っているユースティティア様。言いたいことは判るが知った事じゃない、こちとら態々異世界から世界の危機を救いに来たのだ。少しくらいは優遇されても良い筈だ
この世界の神さま達は案外人間臭いと言うか、何だかんだで言う事を聞いてくれる。神々しさとかは無いがそこに魅力が有るのも確かだ。でも流石にもう少し神さまらしくして欲しい、実際本当に使徒が必要だったのか最近疑問に思う場面が多々あるのだ
「少年。これもまたこの世界の理じゃ。勘弁して欲しい」
「いや、ローラさんが謝らなくても・・・」
ふと周りを見ると伶以外の皆も申し訳なさそうにしている。
「そうよ、智大。私達とは神さまとの距離感が違うのだから、そこは受け入れないと駄目よ」
そういう事か・・・距離感か、元の世界で神さまに触れる事なんてなかったからな。この世界の神さまは万能では無い代わりに距離が近いのだろう。だからこそ願いや感謝を捧げる事が普通になっているし、神さまも可能な限りそれに応えてくれるんだろうな
まぁそれはそれで置いておいて、便利な能力が有るんだからやれる事はやって貰おう。モソモソと転送の準備をしているユースティティア様には気合を入れて欲しい。まぁ実際に凄い力を使うらしいのだが・・・
アッティスさんとナティさんは自分で移動できるらしいので、先にポンタさんとタンドさんを目的地に近い神殿に送って貰う。当然いきなり現れると神官さんが驚くので神託付きだ。今回はハルカさんもタンドさんに同行するので暫しのお別れ、シトールさんもナティさんと一緒に魔王様の所へ行くようだ
久しぶりに三人となった俺達、おっとブルーベルとスラちゃんもいるな。計五人をゴヴニュ様の神殿に送って貰う。そこからの移動はまた相談だ、剣が出来る時間によって馬車で帰るかゴヴニュ様達に転送してもらうか決めなければいけないだろう
何はともあれ剣を用意してもらわないといけない。刃毀れをしている状態で使ってしまった刀が流石に限界にきている。ゴヴニュ様作のアーティファクトも悪くは無いのだが、やはり手に馴染まない気がするのだ。
やっぱり伶の作った刀じゃいと駄目だと言ったらそっぽを向かれてしまった。しかし耳まで真っ赤になっているのを見逃さない。なにコレ可愛い・・・けど褒められて喜ぶポイントが創った武器って女子高生として如何なんだろうと思ってしまう
と、イチャコラしているタイミングで転送の準備が出来た様だ。
「それではユースティティア様。また後で」
「え?何かあったかしら?」
転送用の魔方陣の上でユースティティア様に告げると、本当に判ってい無い様で疑問を浮かべた表情だ。態と転送の魔方陣が展開されてから言葉を続ける
「スチル防衛の分のギフトが有りますよね」
「ちょっと!有償なの?、神さまが使徒を遣うのって有償なの??。そんな~」
涙目の女神さまを残して無情にも転送が完了する。少しからかっただけなのだが良い反応をしてくれた
「にゃはは。少年、やるではないか」
お主も悪よの~って感じの悪代官の様な笑みを浮かべるローラさん。正直言ってイシスさまに調整してもらったスキル達が優秀過ぎてギフトは要らない状態だ。貰ってもユニークスキルクラスでないと意味が無い、でもあまりスキルばかりあっても使いこなせないし、これ以上はスキルだけでは身体能力も上がらないだろう。後は地道に身体を鍛える事とスキルを馴染ませることの方が重要だ
「おう。戻って来たな!で、成果は?」
「無事、邪教徒達の撃退に成功しました」
伶の返事にニカッと笑うゴヴニュ様。この人もどちらかと言うと、レシェフのおっさんの様に脳筋系なのだろう。どうやら男の神さまはそっち系になるようだ。まぁ世の中は女性が廻していると偉い人も言っていたのでそれくらいの方が平和なのだろう・・・
「炉の準備は出来てるわよ。早速使うかしら?」
「はい。まずは素材の練成から始めます」
スチルの防衛を徹夜で戦って、睡眠なしで武器作りか。少しくらいは休んだ方が良いと思うのだが・・・
「智大は休んでいて。私は戦闘には参加していないから大丈夫よ」
「でも、休んだ方が良い物を創れるんじゃないか?」
「大丈夫よ、炉に入れてすぐ出来る訳じゃないから、適当な所で休憩するわ」
まぁ言い出したら聞かないだろうな。ローラさんはサッサと横になっているし俺も休ませて貰おうか
出来上がりを期待しつつ仮眠程度のつもりだったが結局、朝までぐっすり寝てしまった
翌朝、目の下に隈を作った伶は満足そうな表情で、リビングでお茶を飲んでいた。
詳しい事は後のお楽しみという事で教えて貰えなかったが伶とゴヴニュ様の表情を見る限り、期待しておいても良いと思う
「智大にも手伝ってもらうからゆっくり休んでいてね」
「おう。大丈夫だから、伶も少し休んでくれな」
ヘスティア様がお風呂を沸かしてくれていると言うので、一汗かいてから仮眠を取るそうだ。俺も寝すぎて怠い身体を動かす事にする
神域の一軒家には小さな庭が付いているのでそこで素振りでもして待っていよう
伶が休んでいる間、まだ見ぬ相棒の姿を想像しながらゆっくりと身体を動かすのであった
ちょっと書きたいことが纏まっていないような気がする・・・
二つの小説を同時に書くって難しいです。三つも四つも連載されている方って凄いと改めて思いました
読んで頂いて有難うございます