女神アスタルテ
「潰しましょう」
「へ?」
「潰すと言ったのよ、智大」
表情の消えた伶が冷たく言い放つ。これは本気で怒っている時の表情だ・・・
「随分過激だね、それでその目的は」
「調べられる限りの拠点を潰していけば、奴らが最終的に行くのは邪神の封じられた地に成る筈です」
普段とは違う伶の発言に苦笑いのタンドさんが疑問を呈す。まぁ邪教徒と言っている以上、そこが最終的な拠点になるのは何と無く判るけど、本当にそこに奴らがいるのか?
それに邪神を封じてのは八柱の神さま達だ。その封印された場所に簡単に邪教徒達が入れる筈無いんじゃないか。みんなも同じ考えなのか疑問の表情が浮かんでいる
「此処までする教祖が邪神の封じている場所を知らない?そんな事は無いでしょう。何かしらの目的が有るのは確かでしょうし、それが邪神に係る事なのは間違い無い筈です」
確かに邪神を利用しないのならば邪教徒達を掌握して邪神に有利な事をする筈が無い。伶のいう事は筋が通っているのは判るが、聊か突飛過ぎる気がする。もう少し冷静になった方が良さそうだが・・・
「智大。私は怒っているのよ。」
はい。重々承知しています。その表情の伶に逆らって散々痛い目に合ってますから・・・
「目的の為に他の人間を犠牲にする、しかも仲間である筈の邪教徒ですら巻き込む。でも目的がはっきりしてこないのは自分自身の為に行動してるからよ」
伶の怒りは教祖に向いているようだ。相手の考えや目的が見えて来ない理由を教祖自身の個人的な欲望のせいだと考えているようだ。普段から論理的な思考を好む伶だが、相手の主義主張が理解できない場合は多々ある。それでもそれは何らかの事情なり考えが透けて見えると彼女は考えている
しかし、邪教徒達の、いや教祖の目的が邪神の復活では無いとしたら・・・
邪神の復活を目論む邪教徒達。そこには色々事情があるのだろうが目的が決まっている以上は行動もはっきりしてくる。俺達が最初に考えていた様に民衆に不安の種を植え付け、混乱と恐怖を邪神に捧げる事で邪神の力を取り戻すという行動を第一にする筈・・・
だが最初から考え直してみると、まずは謎の盗賊集団。俺達は召喚魔法の実験ではないかと思っていた、しかし召喚魔法の実験ならばもっと人目に付かない所でやれば良いだけだし不安の種を蒔くにしては事件自体を隠そうとしていた。
「しっかりと準備をして、各地で神出鬼没の盗賊を演出した方が効果的だった筈よ」
「確かにな」
「最初のスチル近郊の時も海からの襲撃にしてもおかしいわ」
女神がいるとされる街の近くで、あんな判り易い騒動を起こす必要性が有ったのかどうか?単純に海の魔物を召喚できるかの実験ならば他の場所でもいい筈だ
「アンデッドを生み出す新しい呪術だって、キュベレー様に気付かれるのは判っていたのに対処が適当だったわ。」
そう言われれば、墓地を荒したり帝国の反主流派の貴族が行方不明になったりと、ナティさんの調査が優秀だと思っていたがそれにしても痕跡を残し過ぎだ。実験に使うにも帝都近くの村と言うのもやはり目立ち過ぎるのだ
「大森林の拠点も放棄するなり隠蔽するなり出来た筈よ。でも判り易く痕跡を残している上にクビトの街のあちこちに拠点を残している」
俺達が解決してきた事件や見つけた拠点。その全てがまるで見つけて欲しいと言わんばかりだと伶は言う。まるでシーソーの様に邪神に力を付けさせ、八柱の神たちの力も取り戻させる・・・遊んでいるようだと感じられるのだ。
「ふふ~ン。教祖の目的はともかく、陰でコソコソするような男は好きじゃないわね~ン」
「手っ取り早くやっちまうのも良いと思うのです」
アッティスさんの発言はらしいと言えばらしいのだが、ハルカさん?もう少しハイエルフらしい発言をお願い出来ますか??
「我らも情報だけという訳にはいかなくなりましたね。魔王様とも相談いたしましょう」
「そうだな獣人達も各地にいる事だし、長老たちにも相談しよう」
「そういう事ならエルフも協力するよ」
おう、随分と話が進んで行くぞ。まぁ難しい事を考えずに済むならそれの方が助かるのだが・・・
「アスタルテの元へ向かってください」
ユースティティア様がお願いしてくる。残す神殿はアスタルテ様と主神の神殿だけだしどの道向わなければならないので構わないのだが、このタイミングでのお願いと言うのは何か意味が有るのだろうか?
「八柱と言われているけど、ずっと主神であるマルドゥック様は姿を見せていないのよ。今私達を取りまとめているのはアスタルテよ」
「はい?あの駄女神さまが??」
「そ、そうね。一部否定できない所もあるけど私達の中で一番の力のある神と言えばアスタルテなのよね。残念だけど・・・ホントに残念だけどね」
ここにきて意外な事実が発覚したぞ。まさか元祖駄女神であるアスタルテ様が主神代行?てっきり役立たずの雑用係が俺達に召喚時の説明をしたのだとばかり思っていたぞ。それにしても二回言う程残念なのか?ユースティティア様よ・・・
そんな残念な女神様がまさかの主神代行とは・・・だから邪教徒だの邪神の封印が弱まったとか起きてるんじゃないのか?今、会いに行ったら主神代行って書かれた襷を付けてドヤ顔している姿しか想像つかないぞ
「アスタルテ様の神殿はどちらに?正直、逸話が多すぎて何処に居らっしゃるのか判らないのですが?」
そう、教団にしては珍しくアスタルテ様の神殿は複数ある。まぁ沢山あった方が観光収入は上がるのかもしれないが、他の神々は神託を出す神殿も一つだし、教団でここが○○神の神殿ですと明言しているのだ。しかしアスタルテ様だけはそれが沢山あるのだ
「いや、あやつも八方美人と言うか、あちこちで神託を出したりするのでな・・・」
八方美人な神さまって・・・
そこは慈悲深いとか、各地で信仰されてるとか言いようが有ると思うのだが・・・
「じゃが収穫祭の時期だ。おそらく収穫祭の行われる街に行っている筈だから、その街の神殿に行けば会える筈だ」
「いやいや、神さま同士で転移できるんですよね。連絡取って下さいよ!」
「めんど・・・色々事情があって大変なのじゃ。スチルの後始末も有るし・・・」
「面倒って言ったな!本音はそれか駄女神二号!!」
「二号は辞めてと言ってるでしょう!」
ユースティティア様が役に立ちそうもないので、自力で探すしかないのか・・・これで他の収穫祭に出ていますので留守ですなんて言ったらキレるぞ。どうせ収穫祭の貢ぎ物で食ったり飲んだりしてる姿しか想像できないぞ!?世界の危機って意識は無いのか神さま達には・・・
「お母さまに聞けば大丈夫よ~ン。きっと連絡を取って下さるわ」
おお。流石は神さまらしさ№1なキュベレー様だ!ってかなんでキュベレー様が主神代行じゃないんだ?やっぱり息子があれだからか?それともファンキーな部分が有るからなのか?
「あら~ン失礼な事考えてるわね?ちょっと裏でO・HA・NA・SIしましょうか~?」
「い、いやいや。何も考えてないです!大丈夫です!勘弁してください!!!」
流石は神の子だ。まさかこちらの考えを読まれるとは・・・
「少年よ。お主は心の声が駄々洩れなのじゃ・・・」
ローラさんが呆れた様子で額に手を当てている。さっきまで冷たい怒りのオーラを発していた伶も呆れている・・・
「きゅ・・・」
おう、スラちゃん・・・
久しぶりに慰めてくれるんだね・・・
進化してもスラちゃんの癒し効果は抜群だね・・・って、スラちゃんも呆れてる!?
読んで頂いて有難う御座います