スチル防衛戦~後始末編
すっかり朝日も昇り辺りも明るくなってくると、周囲の惨状も目に入ってくる。城壁の鬨の声は沈まったが、代わりに街の中から歓声が聞こえてくる。ユースティティア様を称える声と衛兵さん達を褒め称える声に溢れている。そんな中、俺達は門の前で辺りを見渡しながら途方に暮れていた
「ところでコレどうするんだろう・・・」
「まぁ、街の皆さんにお任せやろな」
「きゅ~?」
浄化されたアンデッド達は仮初めの肉体と共に消え去ったので問題ないが、邪人や魔獣たちの死体はそのまま残されている。早く片付けなければ匂いも凄い事になるだろうし疫病も心配になってくる。少しくらいならスラちゃんにお願いしてもいいのだが、流石にこの数ではお腹を壊しそうだ
「タンドさんが燃やさないのが悪いのです。だから私の方が凄いのです」
「いや、エルフが炎とか使わないでしょ普通は」
門の上で魔法を放っていた三人が下まで降りてくる。ハルカさんとタンドさんが微妙に言い合いをしているのだが、子供が大人に言い掛かりをつけているようにしか見えないのは何故だろう・・・
「みな無事か?。ポンタも良くやってくれた」
「・・・ローラよお前こそ無事か?何処かに頭をぶつけたのではないか?」
珍しく素直に褒めたローラさんにポンタさんが不思議そうに答える。
「なに、愛しの枢機卿殿の前に儂が誉めてやろうかなと思っての」
「なっ!」
ローラさんに言われて咄嗟に俺の顔を睨みつけるポンタさん。無言で顔を振って俺じゃないとアピールをするのだが、その顔には疑問が浮かんだままだ
「にゃはは、やはりか。どうりで王都から帰ってこぬ筈じゃ」
「はぁ~駄目じゃないですかポンタさん。折角私達も必死に隠していたのに・・・」
同じく降りてきた伶が溜息交じりに呟く。すっかりローラさんのかまかけに引っ掻かてしまった事に気付いたポンタさん。顔に縦線が三本入ったゲンナリとした表情になってしまっている
「詳しい話は後でゆっくりと聞くとしよう。ほれ、お迎えが来ておるぞ」
親指で後ろを指すローラさんに門の向こうを見てみると、神官長と領主が此方に向かってくるのが見えた
「お久しぶりです使徒様。この度はスチルの危機を救ってくださり有難う御座います」
「いえ。貴方達の普段の行いにユースティティア様が感動なさり神託によって我々を呼び寄せたのです」
伶が余所行きの笑顔で当たり障りのない返事を返す。しかしスチルの改造計画を指揮した伶の言葉に神官長と領主は感動したように打ち震えている
「ぜひ、礼拝所にて我らの女神とお話しいただけますかな」
「はい。判りました。神殿へと向かいましょう。此方はお任せしても?」
「後始末は我らで大丈夫でございます。幸いけが人もいませんので総出で片づけますのでご心配なく」
どうやら面倒な片づけはお任せできそうだ、此方はお任せして神殿へと向かう事にする。ユースティティア様も無事邪教徒達を撃退出来て感謝してくれるだろう
襲撃を受けたというのに相変わらずのゴミひとつ落ちていない綺麗な道を神殿へと歩いて行く。しかし何故いきなり邪教徒達はこの街を襲ったのだろう?違う時期、違う場所でも良かったと思うのだが・・・
途中、感謝の言葉を掛けてくる町の人に手を振って笑顔で答えつつもそんな疑問が湧いてくる。これだけの数を揃えたのならば王都でも帝都でも幾らでも候補が有ったと思う。女神ゆかりの神殿があるこの街を襲えば俺達使徒が来る事は予想できる筈だ。それとも何か理由があるのだろうか?
そんな事を考えながら歩いていると神殿の前に到着する。中に入って受付のお姉さんに断って参拝の為の礼拝所へと入っていく。いつもの様に白い光が輝くとそこにはユースティティア様が座っており、その横には優雅な仕草で小指をピンと立てながら紅茶を飲むアッティスさんと雛の姿に戻ったフェニちゃんも羽を休めていた
「この街を救ってくれて感謝しているわ。まずは座ってゆっくりして頂戴」
そういって椅子を勧めるユースティティア様。俺達も勧められるままに着席するとフェニちゃんが嬉しそうにハルカさんにすり寄って行った。お付きの侍女?指令室にいたオペレータみたいな女性がお茶を出してくれる。それがみんなの前に並べられた所で本題に入るようだ
「詳しい話を聞かせて貰えますか?」
「ええ、突然だったわ、街道にいた商人たちがこの街に逃げ込んできたのが夕方の事よ。それから慌てて門を閉めて様子を窺っていたらドンドン魔物達の数が増えてきて、これは普通じゃないと思ったのよ」
どうやら邪教徒達は襲撃の気配を見せないまま一挙に押し寄せて来たらしい。とは言えあの数だ、気配すら感じられないというのは絶対におかしい。召喚や転移を行う様な大規模な魔力の行使はイシスさまが規制した筈だ
「魔物が増えているなどの報告は無かったのですか?」
「ええ。この街も観光地として発展していくために領主が中心になって街道の警備は念入りにやってるみたいなの、異常は無かった筈よ。それに邪教徒達は北からやって来たわ」
「つまり海からですか・・・」
スチルの北側には海が広がり、自然発生の邪人等が生息するような場所は無い。
「アンデッドもお母さまと私で念入りに監視していたのよ~ン。でもこの街を襲ったアンデッドの数は異常だったわね」
優雅に紅茶を口に含みながらアッティスさんも今回の襲撃に疑問を挟む。新型の呪術によるアンデッドは確認されなかったが、帝都近くの村の一件からキュベレー様も念入りに世界を監視していたようだ。しかし今回の襲撃には大量のアンデッドが混じっていたのだ
「ユースティティア様、キュベレー様と二人の女神さまが気付かなかった。普通に考えれば有り得ないね、やはりこの街の近くで召喚されたと考えた方が自然だろうね」
「イシスちゃんが召喚を出来ない様にしたはずです。タンドさんはそれが出来ていないと言うんですか」
「いや、そうじゃなくてね・・・」
友達を庇う為か言葉がきつくなるハルカさん。しかし召喚が出来ていないとすれば二人の女神さまがこの事態に気付いていなかった事にもなるし、可能性としてはどちらも考えにくい話なのだ。タンドさんもあくまでも可能性の話をしているに過ぎない
「ハルカよ落ち着け、まだ決まった訳では無い。じゃがおそらくは召喚したと考えるべきじゃな」
「そうですね。イシスさまは召喚や転移を禁じた訳では無いです。大規模な魔力を消費する魔法を無効にしただけですからね」
伶の言う通り、イシスさまが世界に行った事は大規模な魔法を無効にしただけだ。具体的には一定以上の魔力の消費をさせない様にしただけである。本来ならばローラさんの様な攻撃魔法だって使えなくなるのをスキルの調整で魔直消費の効率化を図ってローラさんの攻撃魔法は成立している。邪教徒達が同じ事をした可能性が有る訳だ
「しかし。そんな簡単に出来るのかい?」
「簡単には無理じゃろうな。何かしら秘密がある筈じゃ」
「どうやら一連の事件の事も含めて邪教徒達が、いえ邪神が力を付けてきている秘密はそこに在りそうね」
召喚魔法や転移魔法にしても邪教徒達はいきなり使い始めている。元々一定数いた邪教徒達だが規模拡大の動きが早すぎるのだ。抑々邪神復活など普通の人は望まないのだから狂信者たちの集団であって大規模な動きを起こせるほどの人員も居ないだろう。ましてや新たな魔法や呪術など開発できる様な集団では無い筈なのだ
「一応幹部だと思われる奴を捕まえて、ナティさんに渡しているぞ」
「そうね色々聞いてみたいわね」
「あら~ン。私も混ぜて欲しいわね」
おっと、ここでアッティスさんがやる気を出してきたぞ。可哀想に、ブロックの奴耐えられるかな?更にやる気が出る様に耳寄りな情報を告げておこう
「アッティスさん。幹部の男は中々の色男ですよ」
「あら~ン楽しみね・・・じゅるり」
じゅるりって、よだれ!よだれが出てますよアッティスさん!
「ふふ~ン楽しみね~」
哀れなり・・・
また一人哀戦士が生まれるのであった・・・
読んで頂いて有難う御座います