スチル防衛戦~2
北側の門の前で始まった戦いは若干微妙な展開を見せつつも、確実に邪人達の数を減らしていく。しかし街を囲む様に邪人たちが数に物を言わせた包囲網を敷いており、他の門を担当する衛兵達には早くも疲れの色が見え始めていた。
彼等は智大たちが到着する前から防衛戦を行っており、魔道具や魔法を放っているので魔力の消費が著しい物になっていた。
「隊長!このままでは、防衛線を維持できません。撤退を・・・」
「馬鹿者!!何処へ逃げるというのだ。街の住民を守る事こそ我らの使命だぞ。魔力が付きたら石を投げろ、熱湯でも油でも掛けてやれ。最後の一兵になるまで持ち場を離れるな!!!」
そこには熱い男たちのドラマが繰り広げられていた。そうなれば俄然やる気を出しそうな漢女は街の中央でフェニックスの雛であるフェニちゃんと何やら集中している最中だった
「あら~ン。何か熱い波動を感じるわ~。乙女の心にビンビンと伝わってくるのよ~ン」
「きゅる~」
普通の人が行う精神の集中とは様子の違う、セクシーポーズを繰り返しながら魔力を高めるアッティスさんの表情は何処か恍惚としたものが浮かんでいく。壁の上の衛兵さん達もまさか自分たちの決死の覚悟が漢女のパトスに火を点けているとは思いもよらないだろう
「フェニちゃんいくわよ~」
自信の魔力の高まりと共に湧き上がってくる虹色の闘気をフェニちゃんにも纏わせる。そのまま臨界まで魔力を高めたアッティスさんは野太い声で高らかに宣言する
「邪な者よ、安らかな輪廻に帰れ!ムゥ~ン 可憐悩殺撃滅拳!!!」
何処かの世紀末覇者の最後の様に突き上げた拳から天へと向けて放たれる闘気を纏った一撃。邪教徒達にアンデッドへと変えられた村の住民を救ったそのピンク色のオーラは夜の闇に包まれていたスチルの空を染め上げる。同時に羽ばたいたフェニックスの雛、フェニちゃんの姿はアッティスさんの闘気を受けて一時的に成長した神々しいフェニックスの姿で街の上空を旋回する
旋回するフェニックスの羽から漏れ出すピンクの光の粒子が地上に達するとそれに触れたアンデッド達は浄化された白い光となって安らかな表情を浮かべ消え去っていく。更に天へと放たれたアッティスさんの闘気が拡散された光となってアンデッドたちに降り注ぐ
「隊長!敵の半数が消滅。更に衛兵たちの魔力も回復していきます」
「おお!このまま守りきるのだ。」
何故かマッスルポーズで報告する衛兵に、同じくマッスルポーズで指示を出す隊長さん
「隊長!切れてます!!」
「ナイスポーズ!!」
普段とは違う声が掛かる壁上で衛兵たちの士気はうなぎのぼりに上がっていく。その様子を北門の上に陣取るハルカさんは感心したように声を上げた
「流石は師匠です。」
「えっと・・・衛兵さん達は大丈夫かな?あれ元に戻るんだよね???」
タンドさんの疑問に答える者は残念ながらここにはいない。ローラさんは魔法の集中に入っているし、伶は戦局を見極めようと前方に意識を向けている。決して意図的に見ないふりをしている訳では無い・・・と思う
「私も負けていられないです。炎の聖霊よ、私に力を貸してほしいです!」
ハルカさんが両手を広げ天に向かって祈る様に呟くと、魔物達の群れの中に炎を纏った魔人が出現する
「イーフリート?ハルカちゃんもやるね。でも今日は僕も負けないよ」
そう言いながら杖を片手にタンドさんも詠唱を始める。エルフの里に伝わる技術と精霊の力を込めたその杖は世界樹の枝から創られた秘宝ともいえる物だった。魔力との親和性が高く精霊との交信を容易にするというそれを持ち出したタンドさんは自身の得意とする精霊を呼び出す
「大地の根源、その力を示せ!ベヒーモスよ力を貸したまえ」
現れたのは巨大な二対の角を生やした四足の獣。しかしその身体は獣と言うには似つかわしくない大きさで筋肉の鎧に包まれ、獰猛な牙を生やした口元からは魔力が煙の様に漏れ出していた。高らかに挙げた咆哮が大地を振るわし、そこに立っている物の自由を奪うと口からブレスを吐き出し辺り一面を殲滅していく。更にそのまま大地を駆け回るとその勢いで生まれた衝撃波を周囲に巻き散らかす
「まだまだです。風よ、風よ。そこに吹き荒れ我が敵を巻き上げろ!」
「うそぉ~・今度はジン?風の上位精霊!?。上位精霊を二体も使役するのかい?ねえハルカちゃん、僕の立場は?もう少し年長者を敬おうよ」
「知った事じゃないです。タンドさんが修行不足なのです」
「えっと・・・これでも僕、ハイエルフの中でも屈指の実力なんだけど・・・」
ハルカさんが呼び出した二体の上位精霊。イーフリートが辺りを煉獄の炎で包み込みジンがその炎に風を送り込み更に周囲へと拡散させる。巻き込まれた魔物達は一瞬でその高熱に消滅させられる。因みにハイエルフといえども上位精霊を使役できるものは少ない。そういった意味ではタンドさんが優秀なのは間違いないのだが、イスト様に調整されたスキルを持つハルカさんはその上を軽く飛び越す実力になっていた
「儂も負けてられんの」
若干の苦笑いを浮かべつつローラさんは完成した魔法を前方の大型の魔獣に向けて放つ。高密度に圧縮された炎が渦を巻いて飛んでいく。青白い高温を発するそれは細い槍と化して真っ直ぐに進んで行くとサイクロプスの単眼に突き刺さる。そのまま後ろに突き抜けた炎の槍はサイクロプスの顔面に大穴を開けてしまう。スプラッターな筈の傷は高温で焼き尽くされ、血の一滴すらも出る事も無く巨人の長い生を断ち切ってしまった。さらに炎の槍を生み出し大型の魔獣に向けて放って行くとそれに抗う事が出来た魔獣はおらず、ただその巨体を大地に投げ出す事しか出来なかった
門前で微妙な戦いを続ける俺達。周りの邪人達も後方で繰り広げられる魔法の威力に動きを停めてしまう程の驚愕を受けていた
「ぽ。ポンタさん。俺達ももう少し・・・」
「そう、そうだな。よし、打って出るぞ」
このまま、シトールさんに群がる雑魚を後ろからチマチマと倒しているだけだと後から何を言われるか判らない。無理をする必要はないだろうがもう少し真面目に戦うべきだ
「シトール!お前も準備しろ!!」
「・・・」
重装の兜の中で何事かを発するシトールさんだったが、くぐもったその声は周囲の音にかき消されて届くことは無かった。しかしモソモソと重装を脱ぎ始めたのでこちらの言いたい事は判ったのだろう
門を守る俺達四人も活躍しなければ後が怖い。武器を構え直した俺達は吶喊の声を上げるのだった
「に、兄さん・・・脱ぐの手伝うてや」
雰囲気ぶち壊しだよ、シトールさん・・・
あれぇ~真面目なバトルの筈が・・・シリアス先生助けて下さい!!
読んで頂いて有難うございます