スチル防衛戦
ユースティティア様からの依頼というか、緊急事態の報告に急ぎ転移門を使用してスチルの神殿へと飛ぶ俺達。ってか、こんな便利なものが有るならもっと早めに教えて欲しかったとも思うが一応神さま専用で神殿と言うかあの白い空間に飛ぶようなのだが、なんか色々制約も多いらしい
「状況は?」
「現在、都市を囲む外壁からの迎撃を行っています。ですが・・・」
「効果は思わしくないっと・・・」
デ~ンデンデンデン、ドゥンドゥン、デ~ンデンデンデン、と何処かのアニメの指令室のシーンで掛かる様なBGMが流れる中、ユースティティア様が配下の人?達に報告を受けている。「パターン青です」とか声が掛かりそうだが、残念ながら使徒は俺達だし、後ろにサングラスの司令もお年を召した副指令も居ない
以前訪れた時は只の白い空間だったが、モニターらしきものが並ぶ空間には多数のオペレータが彼方此方と連絡を取りながら邪教徒達の軍団に対応している。こんな空間作れるのか?微妙に余裕ないか??
「神官たちを中心に治安部隊の衛兵たちが迎撃に当たっているわ」
「魔道具が中心ですか?」
「一応、魔法使い達もいるけど数が少ないわね」
現在スチルの街は邪人やアンデットに包囲されている状態だ。幸いにして法と秩序の街としての威厳を出す為の城壁と治安を維持する衛兵が多かった為対応できているのだが、他国との戦争など起きる事の無いこの世界に戦う事を目的にした軍隊がいる訳でも無いので、かなり劣勢になっている。まだ遠くに見える大型の魔獣がが来ればこんな壁など一撃で壊されてしまうだろう
「城門の内側の警備を厳重にしてください。新型のアンデットがいるかも知れません」
「聞いているわ。キュベレー様からの報告を読んでいたから衛兵で囲んで他者が入れないようにはしているわ」
一応神様同士での情報の共有は出来ているようだ。他の神さまは怪しいが流石のキュベレー様ならば重要な報告はしているのだろう。これがアスタルテさま辺りだとどうなるかは考えたくも無い
「儂とハルカは壁の上から、少年とブルーベルで打って出よう」
「ユースティティア様。獣人の戦士団とは?」
「聖女には神託を出したわ。でも移動に時間が掛かるわね」
「転移門を使う訳にはいかないのですか?」
「難しいわね。大人数の転移は無理だし、抑々人が安全に通れるかも判らないわ」
「って、そんな危なげな物を使わせるな!」
言ってから気が付いたのかテヘペロって感じで片目を瞑るユースティティア様。それが通用するのは十代までだと言ってやりたい
「キィー誰が行き遅れの年増よ!」
「ユースティティア様落ち着いてください」
お付きの人?が宥めてくれるが俺は何も言ってないぞ。被害妄想と言うか自覚が有るのだろうな・・・
「では衛兵たちを北側から撤退、街の他の部分への守備に回してください。北側は私達が受け持ちます」
興奮する女神さまを放っておいて副官らしき人に宣言する伶。邪教徒達の軍団は北側、つまりは海の方角から攻めてきている。大型の魔獣や邪人でも上位に入る奴らは北側に集中しているのだ。ゴブリン程度の邪人や普通のアンデッドならば壁の上からの攻撃で防げるので衛兵達で十分だろう。
「ふふ~ン。アンデッドは私に任せてね。フェニちゃん力を貸してくれるかしら~ン」
「きゅるる~」
いつもの口調に戻ったアッティスさん。しかしその身体はいつもより筋肉が隆起していてシャツが破けてしまいそうだ。アンデッドを戦争の道具に使われるのが許せないのだろう
「いい智大?今回は作戦も何もないわ。城壁から魔法の援護は有るけどまずは城門近辺で迎撃よ」
「うむ。決して前に出過ぎるでないぞ。ナティ!!」
「はい。魔王様の許可は得ておりますので魔族の軍団は此方に向かっております。一昼夜耐えて下されば合流できるかと」
「僕達もいるよ」
「儂も手助けするぞ」
ナティさんと共に現れたのはタンドさんとポンタさんだった。ナティさんが連れてきてくれた様だが、ホントこの人って何でも熟すな・・・
「いいわ。目的は防衛よ。まずは門を守れればいいわ。ローラさん達は大型の魔獣をお願いします。可能ならば倒してください」
「任せておけ。これだけいれば魔法も使い放題だ」
応援も来てくれたので魔法による援護も手厚くなったし、門前の防衛も手分けして行える。数は多いが所詮は雑魚共だ、時間稼ぎ位はして見せよう
「いいですか?俺が門の前の奴らを片づけますのでその隙に出てください。衛兵さんは皆が出たらすぐに門を閉じてください」
門の内側を守る衛兵さん達が頷くのを見て刀を握りしめる。デプスデスマンと戦った時の刃毀れは修理する時間が無かった。代わりにゴヴニュ様の造った剣を借りてきているので何とかなるだろう。今日はポンタさんも重装の鎧を身に着けている。ブルーベルと並んで門前に立てばそう簡単に突破でき無い壁になってくれるだろう
「でもシトールさん。欲張り過ぎじゃないですか?ちゃんと動けます?」
「だ、大丈夫や。まずは身の安全が大事。命あっての物種やからな」
ゴヴニュ様のアーティファクトで身を固めたシトールさんは既に若干息が上がっている。全身を覆うプレートメイルに盾を装備して足元もガントレットで覆ってしまっている。その上で迷宮で手に入れたグレイブを手にしているのだ。どう考えても重さで動けないだろう・・・
「それでは開けます。どうか御武運を」
そういって門の両側にいる衛兵さんが人ひとり分の隙間を開けてくれる。その間を一陣の風と化した俺が走り抜けながら隙間に殺到するゴブリンを一刀のもとに切り伏せスペースを作る。刀が煌めくたびに息絶えるゴブリン達。手にするのは棍棒では無く創りは簡素だがショートソード。皮の鎧も着込んでいるし中には小型の盾を持つ個体もいる
「チッ!装備まで整えてるのか」
邪教徒達は戦力の底上げに装備一式を身に着けさせたようだ。離れたところでは弓を持つ個体もいる。これがゴブリンやコボルト程度だけなら脅威ではないがオークやオーガ辺りまで浸透しているのであればかなり厄介になるかも知れない
突き出されるショートソードの波を『神眼』での攻撃予測で躱していく。そのまま伸びきった腕を斬り裂き身体を斜めに斬り上げ次の相手には顔面に刀を突き刺す。引き抜くと同時に繰り出されるショートソードの波、ステップでそれを躱すと次の犠牲者を量産していく。
壁の上から風の刃が届きスペースを作るのに協力してくれる。魔力の感じからタンドさんだろう。何故か爽やかな風って感じがする・・・キラーンと歯を輝かしながらサムズアップするタンドさんの顔が脳裏によみがえる
ポンタさんとブルーベルも門から出てきてゴブリン達、雑魚邪人と交戦に入った。ブルーベルは大盾と大剣を振り回し、斬るというよりも叩きつける事で邪人たちの波を押し返す。ポンタさんも迷宮で手に入れたハルバードを縦横に振るいながら時折、刃先から炎の槍を飛ばして複数の邪人たちを貫き通す。完全に実力は此方が上だ。大森林の迷宮での探索が俺達のレベルを上げたのだろう、まるでバトル物の漫画にある強さのインフレ状態だ
そんな俺達が武器を振るえば、相手が倒れるという状況で剣戟の音すら響かない。そこに在るのは邪人たちの断末魔の悲鳴だけだ
「キン」
「ギン」
と思ったら後ろから聞こえてくる剣を打ち交わす音
ゴブリン達に囲まれ重さで動けない状態のまま、たこ殴りにあっているシトールさんだった
「「「・・・」」」
だから言わんこっちゃない。満足に動けなければ乱戦で重装なんて意味が無いのに・・・
しかし、流石は神さまが創ったアーティファクト。邪人たちが必死に攻撃しているが全てを弾き返している
「よし、シトールを前に出して囮にしろ。体力は確保しておけよ」
ニヤっと不敵に笑うポンタさん・・・
かくして門前の防衛線はシトールさんを囮に群がる邪人たちを背後から襲うという微妙な展開で始まったのだった・・・
あれ?シリアス先生がいない・・・
読んで頂いて有難う御座います