ギフト~ゴヴニュとヘスティア
神殿の前庭では後夜祭と言う名の宴会が開かれており、神官達も今夜は仕事を忘れて一杯、と言う流れになっているみたいで、神殿内部は静寂に包まれている、その中を俺達は参拝室へと足を運ぶ。
扉を開けるといつもの様に白い光が俺達を包み込み、それが収まるとこの間と同じリビングの様な空間になっていた。ソファーには普段着のゴヴニュ様とヘスティア様が座っている。二人ともご機嫌なのか非常にいい笑顔を向けてくるのだが、原因が何かが判らない。意味の分からない上司の笑顔には気を付けろと言っていたのは兄弟子のセリフだったろうか・・・
「お久しぶりです。ゴヴニュのおじ様。ヘスティア姉さま」
「おお。アッティスか。久しいなキュベレーは元気でやっておるか?」
「アッティスちゃん、今回はありがとうね」
神の子と言っても、やはり神さまの前では礼儀という物があるのか、普段とは違う口調で挨拶をするアッティスさん。一応服装もピチピチのレザーパンツでは無く礼服といった感じのきちんとした物になっているしサスペンダーでは無くシャツを着こんでいるので余所行きといった感じにはなっている。しかしシャツは袖なしな上に背中がパックリと空いたもので、まるで童貞を殺すセーターのシャツバージョンのようだ。盛り上がった広背筋はセクシーさとは無縁の物なのだが別の意味で誰かを殺しそうではあるのはスルー推奨案件だし、その姿を見ても二人の神さまは気にした様子も無く終始ご機嫌なので問題ないのだろう
「良くやってくれた。最近の工房主達は腑抜けが多かったがいい刺激になった」
「ええ。それにフェニックスまで連れて来るなんて。これで炉の心配は無くなるわね」
二人の神さまはアッティスさんとの挨拶を済ませると、ご機嫌の理由を説明してくれた。どうやら意味の無い笑顔では無くきちんと理由が有った様で少しホッとする
「鋳造であそこまでやれれば大したもんだ。これで奴らも根本的な所から考え直すだろう」
「そうですね。炉の設計から燃料。そこから鋳造の限界と鍛造の可能性へと考えが変われば技術の発展が見込めると思います」
「おう。最近の工房は手先の技術ばかり重視しやがって、根本がなってない。技術って物の根本を思い出すだろう」
どうやら細かい仕上の技術や見た目の細工ばかりが重視されていて、素材や大本の加工といった意味での技術が疎かにされる風潮だった様だ。そこに伶が創った作品に技術の奥深さを知った工房主たちの様子にご満悦のゴヴニュ様という訳らしい
「それにフェニックスの居所も判ったし鉱山の魔物も倒してくれて、私の炉も好きな時に動かせるわ」
「ふふ~ん。フェニちゃんは私といつも一緒です。困ったことがあれば言って欲しいです」
薄い胸を誇らしげに突き出すハルカさん。しかし相手はナイスバディ―な上に人妻のフェロモンたっぷりなヘスティア様だ、まるで子供が親に褒められて調子に乗っているようにしか見えない。しかもフェニックスが凄いのであって別にハルカさんが凄い訳では無いのだ
「見事試練を果たしてくれた。儂らが思っていた以上じゃ」
「そうね。久しく試練なんて出していなかったからギフトは期待してね」
此方から言う前に二人から言ってくれたのだからギフトには期待がもてそうだ。何を貰うかワクワクしてしまう。
「もう知ってると思うけど、この中から選んで頂戴ね」
いつもの様に光が現れると、それが一冊のカタログギフトに変わる。本当はこれの他にユニークスキルの一覧も有る筈なのだが、口にしてしまうとイシスさまが怒られるかもしれない
「こっちは儂が創った物じゃ。好きに持って行け」
そう言ってゴヴニュ様が小さな光を生み出すと此方も一冊の本になる。パラパラと開いて中身を見てみると内容は武器や防具、それに魔道具やアイテムなど様々の物が載っている。中には只の便利グッツまで掲載されているので内容は幅広い
「今迄儂が創ってきた物じゃ。好きに持って行け」
「それって、アーティファクトやないか・・・」
この世界では神々が創りし物を総称としてアーティファクトと称している。迷宮の中から得られる宝箱の中身にもそう呼ばれる物が入っている事が有るが、それは魔力や魔素で変質した結果で付加価値が付いたり性能が良くなったものである。厳密に言えば神が創りし物のみがアーティファクトと呼ばれるのだ
「とは言ってもな・・・」
「そうなのです~」
実際問題、アーティファクト、若しくはそれに準ずる物を既に装備している俺達にしてみるとそれ程欲しい物が在る訳では無い。ハルカさんには天雷弓があるし、ローラさんはオリハルコンの腕輪がある。俺に至っては、魔法の腕輪にナティさんから貰った防具一式、武器はこれから伶が作ってくれる。要は全身アーティファクト状態だ
「そ、そうか・・・」
かなりショックを受けているゴヴニュ様。まぁそうだろう、普通アーティファクトを貰えると言えば喜んで装備を一新するのが当たり前だ。しかし実際性能にそれ程の違いが無いのであれば、やはり使い慣れている物の方が良い訳だ
「皆、何言うてるねん。お宝の山やないか!おおこっちは探索に便利やないか。こっちは・・・なんやこれ?」
「おお。わっかておるなお主。これはの、魚を付けて回転させることで・・・」
「って、一夜干しマシーンかい!!」
海岸線沿いの露店でたまに見かけるあれだ、正式には電動回転魚干し機と言った筈だ。爺ちゃんが通販で買おうとして母さんに怒られていた記憶があるのだが、こっちの世界ではアーティファクトになるらしい・・・
しかし興味を示さない俺達よりもシトールさんの反応が嬉しかったのか、ゴヴニュ様は嬉々として解説を始めている。あの様子だと今回はシトールさんもギフトを貰えそうだ。イシスさまの所でスキルの調整をして貰った俺達は今回の試練であまり苦労した感じは無かったのだが、唯一シトールさんはかなりの苦悩を乗り越えたと言える。アッティスさんの胸に抱かれての霊峰ホスピタまでの移動をしたのだ、少しくらいはご褒美があっても良いだろう・・・
と、割かし和気藹々とした空気を醸し出していたリビングに突然鳴り響く警報。そいて赤い光の乱舞が室内を照らす
「なんじゃ?」
ゴヴニュ様が不審そうに室内を見渡す。ヘスティア様もゴヴニュ様の腕を掴んで不安そうにしている。何気に見せつけてくれるなこの二人・・・
「大変よ!!スチルが襲われたわ。早く助けに来て」
現れたのは駄女神二号ことユースティティア様だ。ちょっとセクシーな寝間着姿で片手に猫のヌイグルミを抱いている。どうやらお休み中だったらしい。しかしその頭に有る三角の帽子に毛糸のボンボリ・・・神さま達に流行ってるのか、それ?
「邪教徒達よ。アンデットと邪人の軍団がスチルに責めて来たわ。大型の魔獣も確認できているのよ」
「間に合わなかったのか?」
大型の魔獣の召喚や転生は、イシスさまが対策を講じた筈だ。しかし現実にはスチルを襲撃している軍団の中にそいつらが確認されているらしい。
「今は町の周囲の壁で防げているけど長くは持たないの。早く助けに来て」
涙目でそう訴えるユースティティア様、彼女のスチルの民に対する愛情は深い。俺達に対する試練もスチルの民を思っての事だった
「よし。ギフトは後じゃ。スチルへと行くぞ」
「転移門の使用許可は出ているわ。このまま行くわよ」
「まぁ、待て。取敢えず武器だけでも持って行け。」
「炉の準備はしておくから、無事戻って来てね」
慌てるユースティティア様を宥める様に二人の神さまが準備をしてくれる。必要になりそうなアーティファクトを借り受け急ぎ転移門を潜り抜けるのだった
急展開!次回バトル、久しぶりのシリアス先生の出番です
読んで頂いて有難うございます