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奉納祭

 伶が作品を奉納して客間に戻るといつものメンバーが揃っていた。それに加えてアッティスさんも優雅に紅茶を飲んでいるし、見た事も無い綺麗な鳥がハルカさんの横で羽繕いをしている。先に戻ってきた智大たちとは食事をしながら話を聞いたのだが、今日になって帰って来たハルカさん達とは話をしていなかった


「おう伶。お疲れ様」

「ありがとう。ところでその鳥は?」

「フェニックスの雛です。私、お母さんになりました」


 伶の頭に?が浮かぶ。そんな光景は珍しいのだが流石にこれはハルカさんの説明不足なのだから仕方がない。代わりにアッティスさんが説明してくれる。フェニックスが1000年に一度卵を産む話から、ハルカさんが里親になったという所まで聞いて、やっと状況を理解する事が出来た


「成長に時間もかかるし、ハイエルフならば丁度いいかもね」

「はい。立派な母親になります」

「あら~ン。その前に立派なレディに成らないといけないわよ」


 ピンと立った小指でカップを口元に運びながらアッティスさんが注文を付ける。やはり母親を目指すならば乙女では駄目なのだろう。レディを目指せと指針が変わった様だ


「それで伶の方は如何なのじゃ?」

「無事に奉納してきましたから、後はお祭りの最終日に発表されますね」

「で、どんな感じなんや?」

「他の工房もざっと見ましたけど大丈夫だと思いますよ。折角ですからお祭りを楽しみましょう」


 伶の事だから間違いなく優勝するだろう。こういった事で彼女が賞を逃すという事が有る筈が無い。ましてや自分から優勝すると言ったのだから、任せて安心だろう



 パリヤの奉納祭は、前夜祭、本祭、後夜祭の二日間で行われる。祭りのメインである各工房主が奉納した品物にゴヴニュ様が順位を付けるのは本祭で執り行われ、各受賞者の作品を見ながら後夜祭で飲み明かすというのが祭りの流れになるらしい。勿論、ゴヴニュ様に奉納できた時点で大変な名誉であり、それだけでも工房に箔がつくのだが、やはり順位という物が着く方が盛り上がるという訳だ


 ともあれ、奉納祭が終わらない事には順位が判らないので試練の結果がどうなるのかも不明だ。予想よりもアイテム取集も早く終わったという事でお祭りを楽しむ事になった。早速ハルカさん(食欲魔人)は出店を制覇しに街に繰り出し、ローラさんはお酒目当てで酒場巡りをするらしい。まぁ神殿に籠っているのも何なので俺も残りのメンバーと祭りを楽しむ為に出かける事にする


「ふ~んこっちのお祭りってのも楽しいもんだな」

「そうね。子供向けの遊びが少なくて残念ね」


 伶の言う通り、元の世界の様にくじ引きや射的、かた抜き等のお店は少なく基本的には飲食店の出店が多い。俺はお祭りというと食べ物よりもそういう物を良く好んではお小遣いを使い果たす方だったので、伶の言葉に含まれる棘を否定できない


 しかし、街のメインストリートの両側一杯に並んだ出店と交差点ごとに有る飲食スペースは元の世界とは違うもののお祭り独特の雰囲気を充分に醸し出している


 元の世界ではお祭りといえば浴衣を着た伶と肩を並べて二人でよく行った物だ。お小遣いを早々に使い果たした俺に、計画的な伶が食べ物を奢ってくれるのが定番で手を繋ぎつつ参道の坂を上り境内のベンチに腰掛け食事をするのが楽しみだった


 流石に異世界で浴衣という訳にはいかないが、こうして二人でまたお祭りを歩くとは思っていなかった。この世界に来てまだ半年過ぎた位だが、元の世界がとてつもなく昔の事に感じる。それだけ濃い時間を過ごしてきたのかと改めて思う。


「チッ!リア充め。砂糖吐きそうやで、ホンマに。ワイたちも一緒って事、忘れとるんちゃうか?」

「あら~ン。もてない男の(ひが)みかしら?そんな事より、ほら二人にしてあげるのよ」


 後ろでコソコソと会話しているのには気付いていたのだが、どうやら気を使ったアッティスさんがシトールさんを何処かへ連れて行ってくれたらしい。この辺の機微は流石と言いたい。お蔭で久しぶりに手を繋いでゆっくりと出店を見て回れた


「お嬢ちゃん、勘弁してくれ!明日の分も有るんだ。それを食われたら・・・」

「ヒィィー。へ、閉店だ。奴がこっちに来る前に店を閉めるんだ!!」

「ヒャッハー。肉~!肉を食わせろー!!」

「きゅる~♪」


 その日、肩に鳥を乗せた食欲魔人が出店を襲い翌日の分まで食い荒らすという奉納祭が始まって以来の珍事が発生したらしいが、幸い俺と伶が回っている処では出くわすことは無かった。


 教団の客間に戻った時、お腹をポンポンにしたハイエルフと、フェニックスの雛が同じ体勢で寝転がっていたが何時もの如くスルー推奨案件という事にしておこう







 翌朝、神殿で働く神官のラディと言う女の子が部屋まで態々(わざわざ)起こしに来てくれた。伶の補佐役として色々助けてくれた子なのでお礼を言うと、何もしてませんからと両手を振りながら慌てて戻って行ってしまった。う~ん妹と同じ様に接する態度が拙かったのだろうか、若干の理不尽さを感じながら身支度を整える


 みんな前夜祭を楽しみ過ぎて、就寝したのは夜中をとっくに過ぎた時間だった。お蔭でもう昼を過ぎた時間だという。起こしに来てくれたのも、もう少しで作品の順位が発表されるからで、流石に寝坊が過ぎた様であった


「どないして順位を発表するんや?まさか神さんが降りてくる訳やないやろ」

「順位の書かれた台の上に奉納された品物が現れるみたいですよ」

「なるほど、そいつは判り易い」


 教会の前庭に設置された大型のステージに順位の書かれた台・・・元の世界で表彰式に使われる三段の台と同じ物が中央に置かれ、その横には特別賞とか努力賞等と書かれた台も有る。奉納された品物と比べても賞の数が多いので、奉納さえクリアできれば何かしらの賞が貰える事になるのだろう。そして受賞した工房は一年間、その賞を肩書に使い、また来年は少しでも上の賞を目指して頑張るという事なのだろう



 神官長が長めの挨拶を終えると、それを見計らったように天から小さな光が台に下りてくる。髭面でパジャマと毛糸の帽子の印象しかないゴヴニュ様には似つかわしくない演出だ。たぶんヘスティア様考案なのだろうと舞台裏を想像しながら、降りてくる光を見つめる。その光たちは少しの間を置いて、観客のボルテージが上がる様に絶妙なタイミングで実体化していく。


 それに合わせて歓声が上がり、同時に落胆の声も上がる。観客たちは馴染みの工房への賛辞を、そして上を狙っていた工房主や商人等は狙っていたよりも低い評価に悔しがるという訳だ。


しかし、それがクライマックスの三つの台を残すのみとなった時、雰囲気はガラリと変わる。


 天から三つの光が降りてきて、それぞれ台の上に落ち着く。焦らすような明滅の後、徐々に実体化していく作品たちに観客席は固唾をのんで静まり返っている


 そして同時に実体化された作品たち。その一番高い所に有るのは・・・伶の作品だった


「なんだあれ?なんも変哲もない球と、先端に細い脚が付いていて三角形の・・・なんだ?」

「何であれが優勝なんだ?誰でも作れるじゃねえか」

「それにあれ作ったのって神殿にいる奴だろう。贔屓じゃねぇか」


 観客から不満の声が湧き出る。確かにその声の通り、俺にもなんも変哲も無いものに見える。一応、元の世界の知識から一つは独楽(こま)だと判る。ただもう一つの球体が良く判らない


「うるせぇぞ!、神さまが決めたんだ。文句が有る奴は俺が相手になってやるぞ」

「まぁ、待て待て。神官長さんよ、良く見せて貰っても構わねえかい?」


 声を上げたのは二位と三位の工房主だった。彼らは去年の優勝と準優勝の工房主でもあり、常に奉納祭の上位を占める、この街でも有名な二人だった。彼らが結果に不満を示さない以上観客も静まるしかない


「ふ~む。こいつは・・・回ってるのか?」


 独楽を見た工房主が呻く様に声を出す。まぁ独楽は廻ってなんぼだし、廻るのは当たり前だろう。しかし遠目には廻っている事が判ら無い位ブレが無い。


「こいつは・・・よっぽど均質に鉄を練成させなきゃ、こうはならねぇ。鋳造(ちゅうぞう)で此処まで出来るのか?」


 鉄を溶かして型に流し込む事を鋳造(ちゅうぞう)という。対して叩いて伸ばしたりするのを鍛造(たんぞう)という。どちらにも利点はあり詳しい説明は置いておくが、鋳造には工程上どうしても起きてしまう欠点がある


 鉄に含まれる不純物。これらは溶けた状態で型に流し込むと比重の関係でどうしても下の方に移動してしまう。また、十分な温度を加えてきちんと溶かした上で流し込まないと内部に欠陥を生じてしまうのだ。


 もしその状態の品物を廻すと、独楽は左右のバランスが崩れて振れてしまう。遠目には廻っている事すら気づかない程に静かに廻る独楽はそれらの問題を克服した、つまりは不純物の無い鉄を充分に溶かし込んで作った物だという事が判る


 そしてもう一つの球体を手に取った工房主は、更に驚いた顔をしている


「これは、真球!?歪みがねえぞ。此処までの真球をどうやって・・・」


 完全な真球は元の世界でも作る事は困難だと聞いた事が有る。単純に考えても通常の加工ならば繋ぎ目が出来てしまうのだ。そこに歪みという物がどうしても発生してしまう。それをどこまで減らすかと言うのが技術の見せ処なのだが、此処までの真球は見た事が無いだろう


「チッ!こんなものを見せられたら、自分の未熟さが身に染みるぜ」

「おお。俺達も負けてられねぇぞ」


 二人の様子から観客達も納得したのだろう、惜しみない拍手と歓声が今更だが湧き起こる。


 魔法を使ったのであろうから、ある意味ズルをしているのかもしれないが、それもまた錬金術と言う技術だ


 こうして興奮のまま、奉納祭のメインイベントは終了した。この後も祭りは続くだろうが俺達にはやる事が有る


 夜になり作品を一目見ようと押しかける観客が収まった後に、参拝室へと足を向け二人の神さまへと会いに行くのであった







いつも読んでくださり有難うございます


さて、連休中の投稿ですが、急に投稿が出来なくなる場合があります

何分親戚付き合い等ありまして・・・

仕事なら、休憩時間や終業の目途が立つのですが親戚の場合は上手くいかないので


可能な限り投稿するつもりですのでよろしくお願いします

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