仲良く修行
獣人族の集落に入ってから三日目になる
因みに、この集落に名前はない。獣人は一か所に定住することなく移動するのが常であるらしく集落に居る獣人達は一定期間この集落で過ごすと別の集落に移動するらしい
ポンタさんに理由を聞いてみると、獣人は農耕というものが得意ではないらしく食事は採取や狩猟がメインになるらしい
同じ種族が定住すると森の恵みが無くなってしまうので、常に移動しているとの事だったのだが
「同じ場所だと飽きるのだ」
短く答えたローラさんの言葉が本当の理由らしい。実際この集落も農耕に従事している者も居るし、家もかなりの数が有る
子育て中は移動する事が無いので、結構な人数が住んでいるのだ
それなら名前くらい着けても良さそうなのだが…
俺達はポンタさんが用意してくれた家を拠点に修行をしている
広めのリビングに食堂が有り、個別に部屋もある。
お風呂とトイレは一つしかないが元の世界と違和感なく暮らせるのがありがたい
なんとなく異世界というと風呂はなく食事もパンとか主食が小麦粉というイメージだったのだが、獣人の集落は畳に布団という事を除けば、ほぼ同じ暮らしができるのだ
朝は夜明けと共に起き、基礎体力作り。これは昔から爺ちゃんが早起きだったので特に苦はない
寧ろ、後ろから竹刀を持った爺ちゃんが追いかけてこないだけ楽だ
元々日課だったランニングや木刀での素振りと柔軟を行う。
違うのは身体操作で各種パラを上昇させた状態で行う事と、この世界には木刀すら無かったので太めの木の枝で行っている位だ
朝食の後は伶がスキルの説明や使い方を教えてくれる
学校で授業を受けているよりはよっぽど楽しい。
先生は伶なので教え方も上手だし判り易いが伶なので先生よりも怖いのは内緒だ
午後からはポンタさんと約束組手
一つ一つの動きを確認しながらゆっくりとした動作で申し合わせる
力のかけ方、流れを意識して繰り出す動きを少しずつ早くしていくのだが、スキルを発動した状態だとゆっくりとした動きは中々難しい
ここまではある意味、実家にいた時と変わらない。さっきも言ったように爺ちゃんがいないだけましだ
久しぶりに楽しいと思いながら修行できる
問題なのが夕食からだ
食事中も身体操作を発動している。
漆塗りの高級そうな箸、表面はツルツルで普段使いにはおいそれと出来なさそうだ
おかずは、里芋と鶏肉の煮物、オクラ、納豆ご飯である。わざわざ皮から取り出した枝豆まである
そう、ネバネバ系をツルツルの箸でポンタさんを投げ飛ばす力を発動しつつ食べるのだ
「箸にオーラを流すイメージじゃ。箸で持つのではないオーラで持つのじゃ。こら、突き刺すのは行儀が悪いぞ!」
発案したローラさんが注意してくる
俺は和洋中問わず美味しいものが大好きだ。その食事が楽しめないのだから、これは辛い…
料理は獣人のお手伝いさんと伶が作ってくれている
味は素晴らしいのだ、味は。ただ口に運べないのだ…
そして、入浴中も苦手分野の修行だ
伶がわざわざ作った道具…
透明な箱の中に小さな球が一つ入ったその道具は魔力を通すと球を動かせる仕組みだ
これを途中の仕切り板を避けながら端から端へと動かす、これを三回移動させたら終了だ
皆の食事が終わった後も悪戦苦闘していた俺は当然最後に湯船に入ることになる
元の世界と変わらぬ生活が出来るとはいえ、流石に追い焚き機能なんて物はない
まるで動かない球、冷めていくお湯、冷えていく身体…
想像してみて欲しい…裸の少年が両手で何かの道具を持ちながらブルブル震えながら湯船の中にいるのだ
しかも勇者にだってなっていたかもしれない少年なのだ。どんな物語だよって突っ込みが入るだろう
翌朝、流石に風邪をひくと伶に抗議したら
「あら、湯船の横にボタンが有ったでしょ。あれに魔力を流すとお湯が温まるわよ」
追い焚き有ったのね。でもな、肝心の魔力が無いんだって…
実はこの修行、意外な人物が苦手だった
俺が食事に四苦八苦している時に浴室から聞こえてきた爆発音と「フギャ」というくぐもった声に駆けつけると、あられもない姿で伸びているローラさんがいたのだ…
そう、魔力が強いはずのローラさんが苦手としたのだ。但し理由は俺と逆で、伶が作った魔道具を強すぎる魔力でを壊してしまったのだ
しかも爆発させるというオマケつきで
「何を如何したらあれが爆発するのか理解出来ないわ…」
呟く伶が驚きと呆れを同時に発しながら、やや呆れの方が強い空気を醸し出しながらローラさんの姿を俺から隠す
因みにラッキースケベ的な展開を期待した俺だったが、少年誌に登場するような絶妙な湯気に隠れて思春期真っ只中の俺が見たい部分は見れなかったのだが、伶の虫を見るような瞳に首を横に向けローラさんを見ないようにタオルを差し出すのだった
翌朝、ローラさんに聞いてみると四大属性の魔法を全て使えるそうだが細かい操作は苦手らしく、焚火に火を点けようとすれば火炎球になり、消火の為に水を出せば辺り一帯を浸水させてしまう程らしい
また、ゴーレムを動かそうとすれば過供給を起こしてしまい暴走するか爆発するかのどちらかだというから苦手とかいうレベルではないのだが、何故か自慢げに話すローラさんは「大は小を兼ねるのじゃ」と胸を張ったいた
「フム、あれに魔法を使わせるなと言われた上で、この様な田舎に移動させられたぐらいだからの」
「それではまったく役に立たないのでは?」
「世の中、正直が美徳だと限らない場合もあるからの」
伶とポンタさんが大人の会話を交わしつつポンコツ勇者が二人になった事に頭を抱える事になったのだった
いつもありがとうございます
1000PV達成しました。
十日で達成が早いのか遅いのか…判っているのは皆様のおかげだという事です
拙い自分の小説を読んで頂いているという事だけで感激です
どんな事でもいいのでご意見ご感想お待ちしております