フェニックスの巣
一方のフェニックス捜索班はペガサスに跨ったまま移動を続けていた
「師匠。フェニックスさんはどの辺りに居るんですか?」
「もう少しよ~。霊峰ホスピタの頂上に有る、昔の火口の中に巣を作ってる筈よ」
「ホエ~。それは見つからない筈です」
霊峰ホスピタは大陸の北側にある山でこの大陸で一番高い山であるらしい。かつては火山だった事もあり山の近くには人の住むような町や村は存在しない。一番近くの街がユースティティア様のいる法と秩序の街スチルだが、普通に移動すれば一か月は掛かってしまう
その道のりを大陸の南寄りに有るパリヤから移動してきてもう少しで到着するというのだからペガサスの移動速度はかなりの物だという事だ。しかも乗っている三人に疲労の色は見えないので乗り心地も悪くは無いのだろう。一名魂の抜けたような表情を浮かべているが、これは別の問題なのでペガサスの名誉の為にも敢て無視しておこう
目的地の霊峰ホスピタは頂上部が常に雲に覆われ、下界からはその頂上の様子を窺い知ることは出来ないのだが、例え晴れる事が有ってもとも雲が発生する高さよりも高い場所なのでどちらにせよ見る事は出来ないであろう
そう言った場所なので、フェニックスがそのような場所にいるなどという事は誰も知らなくて当たり前だろう。当然徒歩で登れる場所でも無いので、アッティスさんがペガサスを用意したのも頷ける話である
「でも~、フェニックスさんは何でこんな所にいるんですか?」
「あら~ン。ハルカちゃんは知らないのね。そんな事じゃ乙女失格よ」
ちょっとプリプリしながらアッティスさんが説明していくのだが、その様子はあまり見たい種類の物では無いのだが、気を失っているシトールさんを除けば師匠として敬愛しているハルカさんだけなので問題は発生しなかった様だ
話を戻そう・・・
フェニックスは1000年に一度、卵を産む習性があるらしい。寿命が近くなると自ら炎の中に飛び込み再生を果たすフェニックスだが、やはりそれだけでは身体を構築するのに齟齬が発生するらしい
その為、雛からもう一度成長する事で情報の再構築をするらしく卵から雛が孵ると親鳥であるフェニックスは情報を封じて雛の中で眠りにつくらしい。その間はフェニックスとしての特性も一時封印され知能なども幼い状態になり、時間を掛けて成長した暁には封印された情報も解放されフェニックスとしての役目を果たせるようになるのだ
「ほぇ~フェニックスさん、雛になるのですか」
「そうね~。フェニックスの役割は教えられないけど、その間は私達が代わりにその役目を果たすわ」
今は卵を孵化させるのに巣からフェニックスが飛び立つことは無いらしい。その為にゴヴニュ様達ですらフェニックスが何処に居るかを知らなかった様だ
「卵を温めてる時のフェニックスは気性が荒いから気を付けるのよ~ン」
「はい。判りましたです」
「ハルカちゃんなら大丈夫だと思うわ。前に合った時よりも精霊達に愛される様になってるのね」
「イシスちゃんのお蔭です」
「そう、あの子とお友達になってくれたのね」
誇らしげなハルカさん。手綱を握っているので胸を張る事は無いのだが、友人の事が話題になるのが嬉しい様だ。因みにイシスさんもツルツルペッタ~ンな体型だ。その辺りもシンパシーを感じたのかどうかは聞かない方が無難だろう・・・
そんな会話を交わしながら進んで行くとホスピタの頂上の火口が見えてくる。徐々に速度を落としゆっくりと火口へと降りていく二匹のペガサス達。火口まで降りる途中に有る横穴へとアッティスさんの乗るペガサスが先導していき後にハルカさんの乗るペガサスが付いて行く
奥へと続く洞窟の途中でペガサスから降りる。此処からは刺激しない様に徒歩になるようだ
「ほら、シトールさん起きるです」
「フゲッ!。ハッここは何処や?」
「フェニックスのお家よ~ン」
「ヒィ!・・・」
悲鳴の後の言葉をギリギリで飲み込んだシトールさん。奥には気性の荒くなったフェニックスが居るのだ。此処でアッティスさんを怒らせなかったのは賢明であったと言えるだろう。しかし状況の飲み込めないシトールさんの為に説明をするので時間が取られてしまった
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その頃のブルーベル・・・
「ちょっ!ブルーベル近いって!!顔に近付けるのは辞めて!」
ブルーベルといえどもアダマンタイトを片手で持てる訳もなく、魔法の鞄に入れるには誰かが広げていないといけない訳で、当然ローラさんがそんな事をする訳が無いので俺がその役目を果たさなければならない
感情を表す事の無いブルーベルだが、先程から地味な仕返しをされているような気がしてならない・・・
後でご機嫌を取らなければとは思うのだが、今は如何しようも無い
「だから!近いって!!」
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アッティスさんを先頭に洞窟の奥に進んで行くと、木で編んだ上に羽毛を引きつめた巨大な巣が見えてくる。巣自体が大きいので判らなかったが、近づくに連れてそれが枝では無く幹で作られたものだと判る。フェニックスの大きさから考えれば当たり前なのだが、鳥の巣というイメージからはかけ離れた物であった
洞窟の方から現れた三人組に威嚇するような視線を向けていたフェニックスだが先頭で歩くのがアッティスさんだと認識すると、途端に可愛い鳴き声を上げる
「キュルルル」
「あら~ン。歓迎してくれるの?お久しぶりね」
巣から首を伸ばしてアッティスさんに甘えるように擦りつける。それを逞しい腕で抱きしめると喉元の辺りを優しく撫でてあげるアッティスさん。しかし、残りの二人に気付くと目線が急に厳しくなり威嚇しようと首を持ち上げ・・・れなかった。ガシッと力を込めた腕にフェニックスの顔が先程の安らかな物から苦痛の表情へと変わる
「あら~ン駄目よ。二人は私のお友達よ」
「し、師匠。緩めて、緩めてって」
「そや、締まってもうてるって!」
「あら~ん失敗失敗♪」
解放されたフェニックスが涙目になりながら二人に感謝の表情をする。アッティスさんは軽く締めたつもりだったのだろうが、それは絶妙な角度でフェニックスの首を締め上げる事となり、死と再生を司る幻獣に無慈悲な消滅を与える処であった。テヘペロと首を傾げるアッティスさんに流石のハルカさんもゲンナリとした表情を浮かべてしまうのであった
「フェニちゃん。今日はお願いが合って来たのよ~ン」
「キュ、キュル・・・」
妙なあだ名で呼びかけるアッティスさん。可愛いっちゃ可愛いが相手は伝説の幻獣であるのを忘れているようだ。しかもアッティスさんはお願いしているだけなのだが、先程まで首を絞められていたフェニックスにしてみれば脅迫されている様な物だ。若干・・いや・かなり怯えた表情で言葉の続きを待っている
「貴女の羽をわけて欲しいのよ~ン」
その言葉で明らかにホッとした表情を浮かべるフェニックス
「キュル、キュル、キキュルキュル」
「あらそうなの?でもいいのかしら?」
「キュル!」
「ハルカちゃん。フェニちゃんが雛の里親になって欲しいみたいなの。そうすれば羽くらい幾らでもくれるみたいよ」
「そうなのですか?良いですよ可愛いじゃないですか」
「きゅる~♪」
ハルカさんは簡単に引き受けてしまったが、あくまでも伝説の幻獣である事を忘れているようだ。規格外の二人に付いて行けないシトールさんだが、ここに味方がいない事を察しているので務めて空気でいる事にしたようだ
暫くすると巣の中から、何とも優しく温かい光が満ちてくる
「キュルル~」
フェニックスが一声鳴くと、その大きな身体も光に包まれていく。そのまま光が小さくなって行き手のひらサイズまでになると、ゆっくりとハルカさんの方へと近づいてくる。それを両手で掬い上げる様に下から支えようとすると徐々に光が実体化していく・・・と、ハルカさんと変わらない大きさのフェニックスが現れる
「って、手のひらサイズじゃないんかい!!」
もっともな突っ込みだったが、先程までの空気でいようという思惑からは逸脱してしまう
「あら~ン何か御不満かしら~」
「そうです。シトールさんは黙っててください」
何も悪くない筈のシトールさんは最近の扱いの悪さについ愚痴りたくなる。
「ワイ、何してるんやろ・・・」
思わず呟いてしまうのは仕方のない事なのかも知れない・・・
読んで頂いて有難うございます