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スキルの効果

 爪を前に出して威嚇してくるデプスデスマン。その爪は生物由来では無く鉱物特有の光を放ち見るからに堅そうだ、勿論これで土を掻き分け土中を進むのだから当たり前といえば当たり前なのかも知れない。身体も動揺の光を放っているのだが不思議と動きは滑らかだ。しかし身体が鉱物で出来ているのは間違いなさそうでゴヴニュ様が言っていた様に物理的な攻撃は通らないというのも納得が出来る


 敵の正面に立つブルーベルも大盾を前面に出して守りを固めながら様子を見るつもりの様だ。ローラさんが魔法でケリをつけるのだから時間稼ぎという意味でも選択肢としては間違いないだろう


「ザシュッ」

「って、嘘!」


 ブルーベルの持つ大盾に打ち出された爪での一撃。軽く振るわれたその一撃で安易に考えていた俺の目の前で大盾が綺麗に斬り裂かれてしまい、思わず驚きの声が漏れてしまう


「ブルーベル!下がれ!!」


 堅そうには見えたが、まさか一撃であの大盾を斬り裂く程の鋭さを秘めているとは思わなかった。実際に模擬戦で戦ったから判るが、自在に硬さを変えられるあの大盾は簡単に斬り裂けるものでは無い。これが力任せの一撃で凹んだとか砕かれたというならまだ納得は出来る。しかも攻撃を受けたブルーベルの様子からも無理やり切り落とした物では無いのが判ってしまう


 とんでもない鋭さを秘めた爪の攻撃は防ぐことは出来ないと考えなければいけないだろう。こうなれば防御に秀でたブルーベルでは相手が悪い。躱せるだけの素早さを持った俺が相手をするべきだ


 俺の声に素直に下がったブルーベルはローラさんの前に移動する。左手の大盾も再生を始めているので何か有っても彼女を守るくらいは出来るだろう


「さて『剣聖』、俺に力を見せてみろ」


 自分のスキルに語り掛けるというのも変な言い回しになってしまうが、スキルになった『剣聖』でどこまでできるか、何が変わったのか本気で試せる相手が眼前にいる事での高ぶりから思わず漏れだしてしまう


 刀を使った武術としての型や構えなど無視して、刀を握った右手は下げたままデプスデスマンの間合いに飛び込む。迎撃するような爪での一撃、その軌道は『神眼』で攻撃予測の光として視界の中に表示されている。その線を紙一重で躱しながらも刀はまだ下がったままだ。奴の間合いの中で繰り出される攻撃をまるでダンスでも踊るかのように右に左にと躱し続ける。


 剣を使う・・・この意識だけで今まで使っていたスキルが勝手に最適化されたように必要な能力を俺に与えてくれる。そう、俺にはユニークスキル『剣聖』が有るのだと強く強く念じる


『剣聖』という言葉には剣を使う者の最上位というイメージ強い。剣を使った戦いで負ける筈が無い程の力。それを強くイメージする事でその為の力が湧いてくるのが判る。ブルーベルとの模擬戦では感じられなかった力が身体の奥底から湧いてくる


「キンッ!」


 自然体のまま片手で下から振リ上げた刀が澄んだ高音を残す。振りきった軌道の終わりで残心を残す俺の手前にブルーベルの大盾を斬り裂いた爪が落ちている。先程は俺達が驚いたが今回はデプスデスマンが驚愕の表情で間合いを開けようと後ずさるのを、そのままピッタリとくっつく様に追走する。


 何故か斬れるという確信が湧いてくる、この線に向かって打ち込めと心の奥から言葉が聞こえるかのように。ただ、それに従って刀を振るう。型も構えも要らない・・・そう、ただ自然体に


 相手の動きが良く見える、まるで未来予想の様に


 ただ攻撃を躱す


 此処に打ち込めば良いのだと直感する


 そのままそこに刀を振るう。いつも意識していた刃筋も体捌きも気にしない


 しかし相手はその攻撃で致命的なダメージを負っていく


 不思議な感覚だった、スキルを使うという感覚は無い。身体が反応するままに動くだけで結果が付いてくる様な感覚だった


「智大!」


 ローラさんが名前を呼ばれてデプスデスマンの正面から飛び退く


 圧縮された風と炎の渦が、高温を発しながら脇を通り過ぎていくと、俺に四肢を斬り裂かれて身動きできないデプスデスマンの眉間に突き刺さる。それがそのまま突き抜けると圧力だけが頭頂部を吹き飛ばしながら抜けていく


「少年良くやったの。見事な戦いぶりじゃったぞ」

「いやぁ~。『剣聖』良いですよ、これ」

「うむ。後ろから見ておったが今までとはまるで違う動きじゃ。」

「ええ。考えて動いている訳じゃないんですけど、なんか凄いです」


 まだスキルに振り回されている感覚は有るのだが、それを差し引いても十分な力だ。模擬戦の時には気付かなかったのだが、直感というか感覚の鋭敏化が凄い。この辺りを慣らしていけばきっとこれからの力に成る筈だ


「儂の魔法無しでも倒せたかもしれんな。」

「はい。もう少し使い慣れれば」


 しかし、俺だけでは無くローラさんの魔法もすごかった。デプスデスマンとて極端に魔法に弱い訳では無い。それを崩れそうな坑道に影響を与えずに、かつ一撃で倒すだけの威力を込めて放てるのだからイシスさまのスキルの調整の恩恵は大きかったのだろう。


「しかし、まだまだじゃ。魔力の収束に時間が掛かり過ぎる。簡単では無いようじゃ」


 不満を顔に表しながらそう言い放ったローラさん。まだ感覚に慣れていない様で自分が思っていたよりも時間が掛かったらしい。


 スキルに振り回されていた俺にも不満がある。今の一戦だけで刀に刃毀(はこぼ)れが生じてしまっている。斬れると思う事と武器がそれに耐えれるかという事は別だ。あくまでも感覚だけで戦っていただけで戦略も作戦も何も考えていなかったのだ。デプスデスマンが戦い慣れしていなかったお蔭でそれでも問題なかったのだが、次も上手くいくとは限らない。もっと自分の意思でスキルを操作できなければ何処かで手痛い失敗をしでかしそうだ


 堅い身体を持つデプスデスマン。おそらく知能も高くは無かっただろう、攻撃を防ぐとか躱すという意識の無い相手だから通用しただけの事かも知れない。少なくても迷宮で会った門番たちを一人で倒すまでの自信は無い


「さて、後はアダマンタイトですね」

「まて少年!この隅に固まっているのは・・・」


 坑道の奥。広くなった場所の隅に(うずたか)く積まさっている物があった。それはゴヴニュ様から聞いていたアダマンタイトの特徴によく似ていた


「ブルーベル。斬り付けてみよ」


 ローラさんの指示でブルーベルが大剣を振り下ろす。しかし勢いよく振るわれた大剣は甲高い音と共に弾かれてしまう


「ローラさん、傷一つ付いてないです。それに、これ凄い重たいですよ」

「ふむ、間違いないようじゃな。それがアダマンタイトじゃろう」

「でも、なんでこんな所に・・・」

「流石のデプスデスマンもアダマンタイトは消化できんかった様じゃな。恐らく奴の腹の中で生成されたものじゃろう」


 アダマンタイトの鉱石といっても純度100%という訳では無く。当然他の金属やら不純物やらが混じっている。それを練成して初めてアダマンタイトになる訳だが、今回はデプスデスマンのお蔭でその必要がない物が目の前にあるのだ。


「それじゃあ、これを持って行って蓋に加工すればいいんですか?」

「そうじゃ、これで目的の物は入手できた事になる。問題は・・・」

「問題は?」


 ローラさんの難しそうな顔に俺も眉の間に皺が寄ってしまう。


「これは奴の腹から出てきた訳じゃ。儂は触りたいと思わんぞ」


 そう、目の前のアダマンタイトはデプスデスマンの糞という事になる訳だ。確かにあまり触りたいとは思わない


 だからといって目の前にアダマンタイトが在るのに鉱夫の人たちを呼んで別のアダマンタイトを探してくれともいえる訳が無い


「・・・ブルーベル、頼む」


 表情を浮かべる事の無い筈のブルーベルの顔に困惑の表情が浮かんだのを確かに見たのであった・・・

読んで頂いて有難う御座います

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