乙女再び・・・
すいません、遅れました。
試練と言うよりゲームのクエストって感じだが、ゴヴニュ様とヘスティア様の試練の内容が決まった。伶の場合は試練と言うよりも資格を問うって感じだが、試練の他にと言う意味では予想外の展開になったしまった。他の神さまの時の様にギフトで伶が追加分を徴収すると思うと、二人の神さまがどんな顔をするのかがちょっと楽しみだったりする
「ハルカとシトールがフェニックスの羽を探せ。少年は儂と一緒に鉱山じゃ」
「でも、鉱山では魔法が使えないんじゃ・・・」
「そうじゃな。しかしデプスデスマンを斃すのに魔法無しは無理じゃ。その辺の調整は任せておけ」
アダマンタイトは熱に強く硬度も高いという特徴の他に、とてつもなく重いという特徴がある。運搬を考えると魔法の鞄を使うしかないので、伶が居残りする以上、鉱山に俺が行くのは予想していたがローラさんが来るとは思っていなかった。
折角、スキル『剣聖』を試すのに丁度いい相手と思っていたのだがローラさんに無理と言われては引き下がった方が良さそうだ。そうなるともう一組は・・・
「嬢ちゃんよろしゅう~」
「師匠が居るのでシトールさんはいなくても大丈夫です。シトールさんには留守番がお似合いです」
「師匠?そんな凄い人なん?」
「・・・色々と凄い人ですよ」
ハルカさんの物言いを華麗にスルーしたシトールさん。どうやらハルカさんはアッティスさんと二人の方が良かったようだが、シトールさんもナティさんの手前留守番という訳にもいかないのだろう。アッティスさんを知っていれば反応も違ったと思うが、ここはアッティスさんの詳細もスルーしておこう。それに関しては出会ってからの方が早いと思う、あの人を説明する言葉を俺は持っていないのだから見た方が早いだろう
フェニックスに関しては一切の情報が無い状態だ。しかし死と再生を司る幻獣なのだから絶滅したとかは無い筈だし、きっとキュベレー様かアッティスさんなら情報を持っているだろう。可愛い弟子のお願いならばきっとアッティスさんが手を貸してくれると思う
「スラちゃん、今回は伶に付いててくれるかな?」
「きゅ♪」
片手を挙げるかのように身体の一部を伸ばしながら返事をしてくれるスラちゃん。進化して身体の操作がし易くなったのか、ボディランゲージでのコミュニケーションも豊富になってきた
「よし、炉は神殿に備え付けの物を使えばよかろう。自信の程を見せて貰うからな」
「私の炉も準備しておきますので、フェニックスの羽とアダマンタイトをお願いしますね」
ゴヴニュ様とヘスティア様の二人がそう言って俺達を送り出してくれる。再び白い光に包まれ、それが収まると神殿の参拝室へと戻ってくる。
しかし、無断で侵入した以上、当然コソコソと人目に付かない様に帰るしか無く、神の試練を受けた割にはコソ泥の様にして宿に帰って行くのであった
一夜明けて、出発の時。鉱山に向けて出発を待つ俺達と、シトールさんとハルカさんが宿の前で暫しの別れを惜しむ
「それじゃあ伶、頑張ってな」
「智大も怪我しないでね。あっハンカチ持った?」
別行動をとるので伶がまるでおかんの様に世話を焼いてくる。苦笑いで答えながら手で大丈夫のサインを返す。パーティーを分けての試練は初めてだが、イシスさまの所で新たな力を貰ったので心配はないだろう
「そっちが馬車を使こうたら、こっちはどないするねん」
「大丈夫ですよ。師匠が何とかしてくれます」
ハルカさんの中ではすでに万能超人と化しているアッティスさん。しかし何とかしてくれそうなのも確かなので言及は避けておこう。決して関わり合いになりたくない訳では無い・・・という事にしておいてもらおう
「それで、かの御仁とはどう連絡を取るのじゃ?」
「ふふ~ん。これが在るのです」
ポケットの中から自慢気に取り出したのは・・・虹色に輝く宝玉だ。確かにあれをくれた時には気軽に呼び出してね~んとクネクネしながら言っていたが・・・
「師匠!力を貸してください!!」
虹色に輝く宝玉を胸の前で握りしめながら大きな声で宣言するように叫ぶハルカさん
「ちょっ!もう少し後で・・・」
「呼ばれて出てきてジャジャジャジャ~ン」
何処からともなく微妙に古臭い登場のセリフが響き渡ると、蝶ネクタイにサスペンダー。ピチピチの革製パンツを履いた筋肉隆々の偉丈夫がマッスルポーズで現れる。胸筋をピクピクさせながら幅広のサスペンダーが大事な先端をギリギリ隠している
「ヒィ!ば、化けもんや」
「あら~ん。躾がなっていないようね~ん」
クネクネしながらもポーズを変えながら、凄みを効かした漢女が初対面で失言をかましてしまったシトールさんに迫る。尻餅を突きながらズリズリと後ろに下がるシトールさんは両手を前に突き出して、イヤイヤする様に首を振っている
「師匠!お久しぶりです」
「あら~んハルカちゃん。暫く見ないうちに綺麗になったわね」
威嚇を辞めて久しぶりの指定の再会を優先するアッティスさん。良かったシトールさんのライフは既にゼロに近かった筈だ
どうやらトラウマになる前に脅威が去ってくれたようで、お漏らしをしないで耐え抜いたシトールさんを褒めてあげつつ、立ち上がるのに手を貸してあげる・・・あれを間近で喰らったのだ少しくらいは優しくしてあげよう
「な、なんやねん。あのばけ・・・お姉さまは?」
「ああ、あの人がアッティスさんですよ。キュベレー様のお子さんです」
彼、彼女。若しくは息子、娘と言う、性別を表す言葉を微妙に避けつつアッティスさんを紹介する。とはいえまだ衝撃覚めやらぬ彼をアッティスさんの眼の前に連れて行くのは忍びないので簡単な説明だけに留めておく。どうせ一緒に旅をするのだから、その中で仲良くなって貰えば良いだろう・・・決して面倒事を避けた訳では無い
「おひさしぶりね~、智大君。あら!?少し逞しくなったじゃない」
「お、お久しぶりです。今回は別行動ですけどよろしくお願いします」
「聞いてるわ、残念だけどしょうがないわ。ハルカちゃんの事は任せてね」
若干カオスと化してきた宿屋の前に戻って改めてアッティスさんと挨拶を交わす。再会という事も有ってシトールさん程の衝撃は受けなかったので無難に挨拶を交わす。とはいえ全身を嘗め回すような視線には背筋に冷たい物が走ってしまうのはしょうがない。きっと成長具合を確かめただけだと自分に言い聞かせる事で耐えきる事に成功した
「そ、それじゃあ。宿屋の前で迷惑だから早速出発しようか」
「師匠。お願いします」
「いいわよ~ん。ふん!」
本来は忙しく行きかう人の波が、野次馬の列に妨げられているのを見て行動を促すとハルカさんがアッティスさんにお願いをする
鼻息が目に見えるくらいの気合を漏らしながら、アッティスさんが手で空を切るとそこには見事な白と黒の馬の様な生物が現れる。背には翼が生えており只の馬では無いのが一目でわかる
「ぺ、ペガサス?」
羽の生えた馬といえばペガサスしかいない。誰が見たってペガサスだろう。しかしこの世界でのペガサスは幻獣種といわれ滅多に御目に掛かる事は無い生物だ。それが二頭も現れれば更に宿屋の前が騒然ととしてしまうのは当たり前だろう
「ほ、ほら騒ぎになってるから。早く出発ししよう」
宿屋の入口から睨むような視線が突き刺さる。先程から主人が騒ぎに迷惑そうな顔でこっちを睨んでいるのだ
「って、なんで二匹しかおらへんのや」
ハルカさんの班は三人だ。移動手段であるペガサスが二匹という事は当然、誰かが相乗りをしなければならない。問題は誰が誰と、ということだ。この場合、ハルカさんはアッティスさんと一緒は歓迎だが、シトールさんとは御免だろう。シトールさんは・・・言うまでもないな
「しょうがないじゃない。フェニックスの居場所には普通の移動手段じゃいけないし、呼べるのがこの子達しかいないのだから我慢してね~ん」
サッとペガサスに跨りながらアッティスさんは事も無げに言う。そして優しく手を差し伸べる先には・・・シトールさんが首を横に振りながら後ずさっていく
「もう。早くしてください」
シレッともう一頭のペガサスに跨り準備万端のハルカさんがシトールさんを睨みつけるように吐き捨てる
そう、もう逃げ場は無いのだ・・・
「か、堪忍や・・・」
そう呟くシトールさんを後ろからペガサスの方へと押しやる。宿屋の主人の視線が段々殺気立っているのだ、問題解決の為には早く事を進めなければいけない
イヤイヤする様に前に出された手を掴んでヒョイッて感じで自分の前に乗せてしまうアッティスさん
バサッと翼を広げたペガサスが一声嘶くとスッと空中へと浮かび上がり遠ざかっていく
「かんにんや~」
「や~」
「や~」
最後の足掻きで発したシトールさんの声がこだまの様に響き渡ると、やじ馬たちは何事も無かった様にいつもの風景に戻っていく
俺はペガサスの飛んでいった方向に、ささやかな犠牲に対しての敬礼を送っておいたのであった
読んで頂いて有難うございます