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幕間~ポンタの大冒険

 タンド殿と別れて王国の首都に向かう。彼のお蔭で移動の手間が省けたのは大そう助かった。月一と言われていた聖女様への報告と言う名のお茶会は結局は週一のペースになり調査や戦士団の訓練と言う意味ではかなりの問題が有った


 しかし、会うたびに無邪気な笑顔を浮かべてくれる聖女様の顔が曇ってしまう事を考えると、ついつい無理をしてしまうのだ。


 しかし、智大や伶の頼みとあればそちらにも顔を出さない訳にもいかず、今回は随分と間を開けてしまった。聖女様は許してくれるかもしれないが、イスト殿はきっと機嫌が悪くなっているに違いない。彼女は聖女様が悲しむのを最も嫌う。何とかお土産で喜ぶ聖女様の顔で許してくれるといいのだが・・・







 八柱教団の本部に有る入口へと足を向ける。宿の手配などは後回しだ、街について直ぐにここに来たという事実が大事になる、この辺りは今迄の経験だ。以前、宿に一泊してから訪れた時は大そう怒られた、(いわ)く聖女様の事を考えなさいと・・・


 それからというもの、街に付いたら本部へ向かい聖女様のご都合を聞いてから宿に向かう事にしている。(もっと)もどんな用事があろうとも訪れた時は無条件で通されている事を考えると、聖女様の公務よりも優先されてそうで少しだけ怖い。きっとイスト殿が無理を押してでも調整しているのだろう


「やあ、ポンタ殿。今回は随分と日が空きましたな」

「うむ、少し遠出をしておったのでな。聖女様には申し訳ない事をした」


 顔見知りの衛兵が気さくに声を掛けてくれる。彼も聖女様の大ファンの(たぐい)だ、教皇様よりも聖女様の事を優先しそうな位で衛兵としては如何だろう?と余計な事まで考えてしまう


 しかし、聖女様の事を影ながら支援しているのも教皇様なので問題は無かろうとも思う。きっと孫の事が可愛くて仕方がないのだろうが、残念ながら立場に縛られている以上は表立っての行動は難しいようだ


「お待ちしておりました。只今聖女様をお呼び致しますので少々お待ちください」


 いつもの応接室と言う名の待機部屋に通される。流石に獣人の自分を貴賓室に招く訳にはいかないのだろう。とはいえ、この部屋も随分と立派な部屋なので卑下されている訳でもなさそうだ


 部屋付きのメイドさんがお茶を入れてくれる。最近では紅茶でなく日本茶を用意してくれているあたり、かなりの歓待を受けているとは思う。


「聖女様の準備が・・・「くまたん!」」


 案内役のメイドさんが迎えに来たと思ったら、小さな姿が弾丸の様な勢いで飛び込んでくる。きっと報告があってから儂が部屋まで向かう、その時間すら待ちきれなかったのだろう。少し息を切らせながら聖女様が飛び込んできた


「おお、ミデア様。少し背が伸びましたかな」

「くまたん。お久しぶりなの」


 相変わらずの呼び方だが、お久しぶりとか言葉使いにも成長の兆しが見える。同じ目線の高さまで聖女様を持ち上げると片手で支えながら、一緒に聖女様の私室まで歩いて行く。聖女様は頭に手を廻して儂の顔を抱きしめるように、頬擦りをしてくる。子供特有の体温が心地いい


「ミデアさま、廊下を走ってはいけませんよ。」

「イスト殿、間を開けてすまんな」


 扉を開けた状態で部屋の前で聖女様が来るのを待っていた様子のイスト殿に挨拶の言葉を向ける。儂の顔を見ても最初に話しかけるのが聖女様という所が彼女らしい


「ええポンタ殿。お久しぶりです。今回は使徒様達との行動という事ですからしょうがないですが、もう少し早く訪れて頂かないと困ります」


 この辺りの物言いも彼女らしく、慣れた今では好感すら持てるようになった。それが自分の心境として聖女様が可愛いからなのか彼女に惹かれる思いが芽生えたのからなのかは判らないままなのだが・・・


 部屋に案内されて聖女様がソファーにちょこんと腰かける。イスト殿も聖女様の斜め後ろの定位置で控える。小さい丸いテーブルを挟んで・・・では無く、聖女様の横に腰かける。儂の重みで沈み込んだふかふかのソファー。コロリと転がる様に此方に身体が移動するのが楽しいのか、聖女様がキャッキャと笑顔を浮かべると、その様子を見た部屋の全員が笑顔を浮かべるのだ。まさに聖女様を中心に回っている空間なのだろう


「さっミデア様。お伝えしたいことがあるのでは?」


 楽しそうに(はしゃ)ぐ聖女様にイストさんが言葉を掛け、何かを(うなが)すように聖女様の体勢を整える


「うんと、ポンちゃ・・・ポンタしゃん。お仕事おつかれしゃま」


 ソファーの上で横向きにちょこんと座った聖女様がペコリと頭を下げる。サ行が微妙ながらも練習したのであろう、成長の跡がしかっりとそこには在った


「おお~ミデア様。お挨拶まで出来る様になったのですな。いやいや儂も疲れが吹き飛びましたぞ。ご厚情感謝いたします」


 聖女様は上手くできた?って顔でイスト殿の顔を見上げる、イスト殿はその反応も笑顔・・・では無く目頭をハンカチで押えながら目を潤ましている。護衛役の枢機卿と言うよりもすっかり母親目線だ


「良い子にしていたミデア様にご褒美ですぞ」


 荷物の中からヌイグルミの入った紙袋を取り出しミデア様に渡す。ぱぁと明るくなったミデア様だったが確認するように「開けていいの?」と視線が訴えかけてくる。こんな所にも成長の跡が見えると微笑ましく思ってしまう儂も親バカだなと思いつつ、ミデア様の頭を撫でながら頷くと、勢いよくビリビリと包装紙を破いていく


 中から現れた儂にそっくりのヌイグルミを愛おしいそうに抱きしめるミデア様。儂の顔とぬいぐるみを見比べて更に笑顔の度合いが増してくる


「此方はイスト殿にだ」


 そう言って小さな箱を渡すと、イスト殿の表情が堅くなる。教団内で権力等と無関係と本人は言っていたが、聖女様付きの枢機卿だ。このようなプレゼントなど幾らでも貰っているのだろうし、(むし)ろその様な下心は忌避するであろう彼女だ。その表情にははっきりと疑心が浮かんでいる


「まぁ開けてみなされ」


 そう(うなが)してみても表情は堅いままだが、取敢えずは中身を見てくれるらしい


「これは・・・」

「イストもおそろいなの」


 横から覗きこんだ聖女様が喜びの声を挙げる。自分と一番近しい人物が、貰ったヌイグルミと同じ物を貰った事で聖女様が一層喜ぶ姿を見て此方の意図に気が付いてくれた。そう、これはあくまでも聖女様へのお土産の一環なのだ。そう思って貰わないと次の作戦に進めない


「イスト、はやくつけるの。わたしとおそろいなの」


 イスト殿は早速右胸にブローチを付ける。輝く水晶で出来た狸のブローチ、言葉だけ聞けば女性のアクセサリーとしては不向きなデザインに聞こえるが、そこは名の通った高級店の品物だ。キラキラと光を反射するそれは十分に、いや、飾り気の一切ない武骨な衣装に栄えるアクセサリーとして最高に機能する物だった


「ふむ。貴殿にしては上出来だ」


 ぼそりと言ったイスト殿の表情は、言葉の短さとは反対に満足げな笑顔を見せてくれた・・・伶に相談して良かった


 その後は大森林の魔境や迷宮での冒険譚を面白おかしく話す。時に目をキラキラさせながら、時にイスト殿の裾を小さな手で掴みながらドキドキした様子で聞き入る聖女様。特にハルカさんのクシャミの辺りではイストド殿の膝に顔を埋めてしまたりと、こちらの話に全身を使って反応しながら聞いてくれる


「くまたん・・・たのし・・かったの」


 (はしゃ)ぎ過ぎたのか、聖女様はウトウトし始めながらもきちんとお礼を言ってくれる。何とか言い切ると電池が切れた様に眠ってしまった。そしてそのタイミングで今日のお茶会はお開きとなる。メイドさん達が聖女様を優しく抱き上げベットへと運んでいく


「今日はご苦労だった。ミデア様も満足されたようだ感謝する」


 扉の所まで一緒に付いて来てくれたイスト殿が珍しい言葉を掛けてくる。今迄は「ご苦労」と言われたことはあったが、感謝するとは言われたことが無かったのでイスト殿も満足したのだろう


「しかし、間が空きすぎだ。もう少し早くミデア様に・・・」


 と思ったら、やはりいつもの小言が出てきた。その言葉を遮る様にネックレスの入った小箱をイスト殿の目の前に突き出すとキョトンとした様子で言葉が止まる


「これは貴殿の分だ。次はもう少し早く来ることにしよう。ミデア様にも会いたいが、それだけでもないのでな」


 それだけ言うと小箱を押し付けて(きびす)を返す。正直恥ずかしくてこれ以上顔を見ていられない


「・・・あ、ありがとう」


 後ろから小さな声で感謝の言葉が聞こえる


 消え入りそうな声で有ったが、普段の気の張った声では無く年相応の女性の声だったことに満足して教団の出口へと向かう


 正面から差し込む夕日に目を細めながら、やり切った満足感が心を満たす・・・


 しかし、ここがスタートだとは気が付いていないポンタだった・・・


 この後伶に呆れられながらも相談する事になるとはこの時には想像も付かなかったのだが、それはまたの機会に・・・・


幕間を挟むにはタイミングが悪かったかもしれませんがご容赦を願います


幕間は筆が進むので書きやすく時間もかからないので書いていても楽しいです


現在日曜日は忙しく中々本編の更新が難しいので今回は幕間をお楽しみいただければ幸いです


読んで頂いて有難う御座います

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