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ゴヴニュとヘスティアの試練

 言いたい事も沢山あったが、夜分に忍び込んだ手前グッと飲み込んで話を進めよう。


 いつもの白い空間での邂逅では無く、雰囲気としては一軒家のリビングといった感じだろう。テーブルの対面には寝間着姿のゴヴニュ様が未だに憮然とした表情を崩さずに座っている。俺達の方はソファーを女性陣に譲り俺とシトールさんは木製の簡易椅子に腰かけている状態だ


「ごめんなさいね。大したお構いも出来ないで」

「いえ、夜分にすいませんでした」


 夜着の上にロングのカーディガン羽織ったヘスティア様が入れたての紅茶を運んできてくれた。今迄の神さまとの邂逅では無かった歓待ぶりだ。しかし何かの最中を邪魔されたゴヴニュ様の表情は相変わらずだ


「もう、あなた!いつまでも()ねてないで話を聞いてあげましょうよ」

「う、うむ。して使徒よ何しに来た?っ痛!」

「いや、何しにって・・・っ痛!」

「はい。実は高名なゴヴニュ様のお力をお借りしたく、夜分に失礼させていただきました」


 エシュム様のとりなしでやっと話し始めたゴヴニュ様だったのだが、その対応に不満が有ったのだろうヘスティア様が手痛い一撃を加える。俺も売り言葉に反応しそうなところを伶に(すね)に手痛い攻撃を喰らってしまう。二人とも「おほほほ」とか笑っている処が怖い・・・


「実は迷宮でこんなものを手に入れまして・・・」

「ほう・・・」


 伶が鞄から取り出した素材系のアイテムをテーブルに乗せると、先程までの憮然とした表情もどこへやら、職人の顔つきになったゴヴニュ様が探る様に素材を手に取るとじっくりと見つめ始める


「成程な、これ一つではあるまい。して出来上がりの見当は付いているのか?」

「はい。しかし普通の炉では融合は難しいと考えています」

「儂の、いや・・・ヘスティアの炉を使うか」

「はい。お借りしたく参上しました」


 腕を組みながら背もたれにドッカって感じで背中を預けるゴヴニュ様。その表情はかなり厳しい・・・


「あなた・・・」

「うむ。使徒よ炉を使うのは使わせるのに否は無い。問題は炉の方に有るというか、簡単に言えば燃料が無いのじゃよ」

「燃料・・・」


 ヘスティア様が司るという炉は神々の武器や防具を創る際にも使われたという伝説の存在だ。勿論実物を見た訳では無いのだが、目の前にヘスティア様がいる以上、炉の存在も間違いなくあるのだろう。しかしその燃料が無いというのだが、炉が普通でない以上その燃料も普通では無いのだろう事は想像できる


「普段、儂が使う炉でも可能かもしれん。しかし、これほどの素材ならばヘスティアの炉が最適なのは間違いないな。しかしそれ程の高温を出す為には・・・」

「その燃料とは一体何なのでしょう?」


 通常炉を動かす為の燃料は木炭か石炭を使っていた筈だ。(ふいご)を使って風を送り込んで高温を促しその熱を使って精錬するのだ。この時の温度は炉の構造で更に高められるので、通常は炉の方が大事で燃料の方が問題になる事は少ない


 しかし、ヘスティア様の炉は燃料からして違うようだ。一般的な燃料を使った場合の限界温度ならばゴヴニュ様の炉でも軽くクリアする事が出来るのだが、この素材達を一つの金属に精錬する為には(いささ)か不安が残ると考えているようなのだ


「まずは石炭を蒸し焼きせねばならぬ、これは儂の炉を改造すれば問題無いだろう。鉄ならばこれで十分に溶けてしまう温度にはなるのじゃが、おそらくはその倍、いや三倍位まで上げねばならんとすれば触媒が必要になるのだが、それが手に入るかどうかじゃな」

「フェニックスの羽、それにアダマンタイトの蓋が必要になるわ」


 既に伝説級のお宝の名前の気がするが、それが触媒に過ぎないことがヘスティア様の炉の凄さを物語っている。フェニックスは鷲に似た体型の金色と赤で彩られた羽毛を持つ鳥と(いわ)れ、寿命が使づくと炎の中に飛び込み身を焼きつくし、そこから新たな姿で再生するという。死と再生を体現する幻獣と言われている


 炎の上位精霊として召喚される場合も有るのだが、その場合の姿は身体を炎に包まれた火の鳥として召喚されるので、ハルカさんが召喚できたとしても羽の入手には(いた)らないだろう


「フェニックスの居場所について心当たりは?」

「ない。正直まだこの世界に居るのかも判らんな」

「でも死と再生を司るんならキュベレー様なら何か知っていないかな?」

「はい。師匠に聞いてみます」


 いや、キュベレー様だよ?アッティスさんじゃ無いよ!勘違いしないでね!!漢女(おとめ)の再臨は必要無いです!!!


「後はアダマンタイトの、蓋?ですか」

「ええ、(まさ)しく蓋よ」


 本来、高炉で鉄を溶かす場合は蒸し焼きされた石炭、コークスが鉄から酸素を奪う事で発生する熱と一酸化炭素や二酸化炭素を生成する。この反応こそが鉄を溶かす為の化学反応で、内部で連続反応をを起こさせることで高温を発生させて、高炉の底部から融けた鉄を取り出す


 しかし、これは鉄の場合だから起きる反応であり、ファンタジーな物質の場合このような化学変化で高温を発生させることは出来ない。ヘスティア様の炉は燃料とするコークスと触媒のフェニックスの羽、そして魔法を用いて高温を発生させる。その際、重量が有り高温に耐えるアダマンタイトを蓋にする事によって、圧力を掛け続け。蓋が温度に耐えきれなくなり一挙に噴き出した高温高圧の燃焼ガスを循環させることでうんちゃらかんちゃら・・・するらしい。俺にしては理解した方だが良くは判らないのはいつもの事だ


「アダマンタイトのある場所は判っておる。閉鎖された鉱山の深奥にまだ在った筈だ。ただ・・・」

「あ~想像がつきます。魔物が住み着いたんでしょう?」

「そうだ、デプスデスマンという鉱石を食べる、まぁモグラだな。鉱石を餌にしとるのだから身体も鉱石で出来ておる、したがって非常に硬い。鉱山の奥に棲むのだから魔法なんて使えんから倒すのは困難だな」


 さて、必要な物は判った。判ってしまえば行動あるのみだ。


「そうじゃな、二か所に向かうのならばパーティを分けるか。ハルカ、シトールと共にフェニックスの羽を探せ。少年は儂と鉱山に向かうぞ。伶は・・・」

「おっと。使徒の姉ちゃんはこっちで預かる」


 ゴヴニュ様が突然言葉を挟む


「姉ちゃん。鍛治の知識が有りそうなのは判る。しかし簡単にヘスティアの炉を(いじ)らせる訳にはいかねえ。まずは奉納祭、これに参加して実力を示してもらおう」


 突然の提案だった。伶の実力は疑うことは無い、と言うのは俺達の認識であってゴヴニュ様にしてみると実力不明という訳だ。これもある意味、力を示せ!って事なのかも知れない


「判りました。今年の奉納祭で頂点に立つ事で私の力を示しましょう」


 って、おい!自分でハードル上げてどうする!


「ほう、面白れぇ。駄目だった時には素材は儂が貰うぞ」


 ニヤっと不敵に笑うゴヴニュ様を黙って見つめ返す伶。


「では私達からの試練です。フェニックスの羽と必要なアダマンタイト、それに奉納祭での優勝を為して御覧なさい。さすればギフトを差し上げましょう」


 (おごそ)かに宣言するヘスティア様。その高貴な雰囲気は正しく神々しいと言えるものだった


 前半はとんでもない神さまばかりで不安になったが此処に来てまともな神さまに会えたような気がする。やっぱり使徒に試練を授けるというのはこうでなければいけない



「ブェックション!!」


 寝間着姿で冷えたのかゴヴニュ様の盛大なクシャミが全てを台無しにする


 帽子に着いたぼんぼりが揺れるのを冷めた目で見つめるのであった・・・


読んで頂いて有難う御座います

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