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ゴヴニュとヘスティア

 シトールさんの嘆きは置いておいて、その後も休憩や野営を挟んでパリヤの街に着く。その頃にはスキルもだいぶ体に馴染んできたので、最低限の戦いは行える位にはなっていた。今すぐ何かが有る訳では無いものの、安心感というものが浮かんでくるのは戦いに身を置く事に慣れたせいなのだろうか


 パリヤの街に入ると今までとは雰囲気の違いに少し戸惑う。あちこちの屋根から上る煙は鍛冶屋の炉の煙だろう。少しの煤と鉄の匂いが混じって独特の匂いとして街に満ちている。その中を忙しなく走り回る人達。馬車の行きかいも途切れる事無く引っ切り無しで、道を渡るのも一苦労するほどだ


「職人気質が多い街じゃからな。品質を重視する職人と納期を客に迫られる商人が織りなすこの街の名物じゃよ」


 職人が多いこの街では大量生産の安物は弟子の仕事として回され馬車に満載した状態で各地に供給されている。親方衆はオーダーメイドの高級品を扱うのだが、これが商人たちの頭痛の種であった。なにせ職人気質な親方たちは客の求める品質を超えた出来であろうとも、自分が満足しなければ引き渡そうとはしないのだ。その癖暗くなれば仕事は終わりだと酒場に向かってしまうのだから溜まった物では無い


 結果、納期に間に合わせる為に急ぎの馬車を仕立ててる訳だ。それでもパリヤで作られた品と言うだけで値段も天井知らずなのだから、商人たちも必死になる訳だ。職人が技術を、商人が駆け引きを、それぞれに自分のプライドを掛けて繰り広げられる街、それがパリヤと言う街だった


 俺達が街に着いたのはちょうど夕方に差し掛かる時間、もう少しで職人さんたちの仕事も終わる時間だった。宿に着いた俺達は大事そうに品物を抱えて急ぎ足で宿を出る商人たちでごった返す中、何とかフロントまで進みチェックインできたのだった


「早く食事にしないと席が無くなるぞ。」


 ローラさんの俺達を急かす言葉に従って部屋に荷物を置くと直ぐに食堂に入る


「ローラさんは此処に来たことが有るんですか?」

「そうじゃ。ちょっとした知り合いがいるのじゃが如何(どう)にも(せわ)しい街で性に合わん」


 確かにこの様子では、ローラさんの好きな昼寝という訳にはいかないだろう


「明日は神殿に赴いて、ゴヴニュ様とヘスティア様の所へ向かいましょう」

「おや、お客さん。今の時期の神殿は入れないかもしれないよ」


 料理を運んできた男性が俺達の話を聞いて注意してくれる


「え?神殿に入れないって、何か有るんですか?」

「今の時期は奉納祭で混んでるからね。行くなら時間をずらさないと職人さん達でいっぱいだよ」


 店が混んで来たからなのか、店員さんはそれだけ言うと足早に他のテーブルに向かってしまう。奉納祭が何なのか、混んでいない時間が何時頃なのか聞きたかったが既に満席に近くなってきているお店の雰囲気では聞ける状態では無かった


 結局、宿に戻ってから疑問をぶつけてみるとフロントにいたお姉さんが詳しい事を教えてくれた。奉納祭とは年に一度自分の技術を凝らした物を神殿に寄贈するらしい。するとゴヴニュ様が気に入った品物はその場から姿を消し、天界のゴヴニュ様へと奉納される。


 奉納が叶った鍛冶場は一年間その加護を得られるのだが、その事よりも職人は自分の技量を試す為に、そして商人はお抱えの親方の箔付けの為に必死になるそうだ。その為、日中は人が途切れる事がなくお弟子さんや商人たちが並んでいるという事だった


「空いてる時間ってのは、夜だけって事かな?」

「はい、しかし神殿も閉まってしまいますので時間は限られますね」


 元の世界の様に二十四時間営業って店はこの世界で殆どない。神殿はあくまでも神さまへの感謝を捧げる施設なだけのこの世界、治療魔法とか蘇生とか緊急性が無いので夜には門が閉まってしまう訳だ


「時期が悪かったか・・・」

「奉納祭が終わるまで待つか並ぶしかないね」

「いや、もう一つあるじゃろ」

「し・の・び・こ・む・・・ですか?」


 って、それは「お・も・て・な・し」だ!さらっと物騒な事に変換するハルカさんにその知識は何処から仕入れたのか小一時間問い詰めたい





 という訳で、何の因果か身体に馴染ませたスキル『剣聖』のお披露目は夜分に神殿に忍び込むために使われる事になった。『気配操作』が単体で有った時にはそれで足りたのだが、統合されてしまった今では『剣聖』の一部として使うしかない。ユニークスキル『剣聖』この世界で俺だけが持つスキルだ、それを夜分に忍び込むだけに使ったのもこの世界で俺だけかもしれない・・・


 神殿の周りをグルリと囲む壁を飛び越えて敷地内に飛び降りる。幸い侵入者に警戒している訳では無いので別段難しい訳では無い。裏口の通用門に廻りこむと内側からそっと閂を外して皆を中に案内する。神殿の扉は隙間から刀を入れて鍵を切ってしまう。まさか世話になった刀の最後の出番がこんな事になるとは思っていなかった・・・


 気付かれない様に神殿の中を忍び足で歩く。このパターンはハルカさん(天然娘)が何かやらかすパターンだが、そこは伶がキッチリとサポートしてくれている。使徒がお尋ね者に成る訳にはいかないので十分に対策している訳だ


 位置的に石像が安置してある参拝の部屋に当たりを付けてそっと扉を開ける。中に人の気配が無いのは確認済みだが一応念のためだ


 するといつもの様に白い光が目の前に広がっていく。無事に神様との面会が叶いそうだ。白い光が収まっていくと・・・


「何時だと思っておるのじゃ!!!」


 怒号と共に飛んでくる槌を大急ぎで頭を横に振って躱す。目の前を見ると筋肉隆々だが身長は少し小柄なおじさんが怒りで血走った目を向けている


 しかし、よく見ると槌を投げたのとは反対の手には枕が抱えられており、頭には毛糸で編まれた三角帽子、先端のぼんぼりがアクセントになっていて可愛い・・・


 明らかに就寝中だったご様子の神さま。彼がゴヴニュ様で間違いないだろう。確かに夜分の失礼な訪問かも知れないが、街では職人さんたちがお酒を飲んでいるような時間だった筈だ。寝るには少し早すぎないか?


「あらあら、まぁまぁ。ふふふ、ごめんなさいね。この人もこの時期は寝るの早いのよ」


 そう言いながら後ろから出てきた女神さま、彼女がヘスティア様だろう。長身のスラッとした体型を薄い夜着、まぁ一般的にいうネグリジェを着ただけの色っぽいお姉さんにしか見えない


「まったく。使徒たちは常識というものが無いのか!」

「す、すいません。昼間に訪ねたかったのですが・・・」

「そうよ、あなた。この時期は仕方のない事じゃない」


 謝る俺達にヘスティア様がゴヴニュ様の顎の下に指を這わしながら後押ししてくれる。その姿が何とも色っぽい


「う、うむ。お前がそういうなら・・・」

「ええ。明日の夜にまた可愛がってくださいね」


 そう言って頬に口づけをしながらヘスティア様は部屋に戻っていく・・・なんだろうこの空気、ひょっとして最中だった?何の?とは聞けない。だがどうやら最中だったらしい。怒っていた理由もそういう事なのだろう・・・


「仲のよろしい事で・・・」


 思わず呟いてしまった言葉に真っ赤になるゴヴニュ様。


 しかし、夫婦の時間を邪魔したのであれば申し訳ないと思う・・・


 申し訳ないと思うのだが一つだけ言いたい・・・


 ゴヴニュ様、夫婦の時間にその恰好は如何(いかが)なものかと・・・


読んで頂いて有難う御座います

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