新たな仲間
やっとローラさん登場です
もう少し早く登場する予定だったのですが…
さっきの戦闘の後、俺たちは長の屋敷に戻ってきている
先程の部屋のように長が上座に座るのではなく、長机の両面に俺と伶、対面に二人の獣人が座っている
掘りごたつになっており、足のしびれを気にしなくていいのはありがたい
ポンタさんの横に座る獣人の頭にはピンと尖った狐耳、一本一本がキラキラ光る細目の長い金髪を頭の高い位置で縛り後ろに流している。座っていても判る立派な尻尾も同じ毛色
この人が俺たちが探していた魔力の高い獣人『ローラ・マインドル』さんだ
あの後、俺の決め台詞に額を抑えながら呆れていた伶は、すぐに俺の意図を察して怪我をした獣人たちを治療していく
実際、俺はポンタさんを倒した訳ではない
武器もない俺ではポンタさんを戦闘不能にするには攻撃力不足だ
ただ、あれだけ派手に投げられれば、皆の印象として力は示せる
そこで、勝利宣言をして怪我した獣人を回復してしまえば戦いは終わりになると思ったのだ
狡い?戦略と言って欲しいな
役立たずの使徒としては頑張った方だと思うんだよね
「にゃははは、ポンタお前の負けだな」
実際に戦いを終わらせたのは、ローラさんの一言が決め手だったけどね
やはり、この人相当の実力者なのだろう。『神眼』で見ても内包する魔力の底が見えない
ポンタさんの事も呼び捨てだし、どこか偉そうだ
「では、これで獣人の皆さんは協力していただけるという事で宜しいですか?」
「フーム、それ…「もちろんなのだ」
言い淀むポンタさんを遮ってローラさんが了承する
「大体だな、私みたいなのが一人いたって何も変わらんぞ。そんな事より、こいつ等と一緒の方が楽しそうじゃろ」
うん、種族全体の事を『そんな事』とか言っちゃうて凄いな
しかも理由が『楽しそう』って…
なんか他の獣人たちって和風で礼儀正しいってイメージなんだけど、この人だけ随分豪快なんだよな
「フー、長老たちに何て言えば…」
「あんなひよっこども放っておけ」
頭を抱えるポンタさんにこれまた問題になりそうな言葉を投げかける
聞けば、ローラさんもう生まれてから400年程経つらしい
獣人の寿命は200年程らしいのだが極稀に進化する個体がいるらしく、そういった個体はローラさんの様に長寿になるらしい
進化して『妖狐』となったローラさんからすれば半分以下しか生きていない長老などひよっこという訳だ
「進化してから歳など数えるのも辞めってしまった。まだ三尾だからな九尾になるのは何時になるやら…」
言いながら普段は邪魔になるので纏めてるらしいモフモフの立派な尻尾がちょっと短めの三本に変わる
その尻尾を思う存分モフりたいものだが、実年齢はともかく見た目は妙齢の女性なのだから自重しておく
「そろそろ、話を戻して今後の事…「そんなことよりも少年、さっきの動きどれだけ続けれるのじゃ?」
「動きにも無駄が多いし、力がうまく伝わっておらん」
伶の言葉を遮ってローラさんが聞いてくる
かなり痛い所を突かれたのだが、それより伶から不穏な空気が漏れたことの方が気になる
コホンという不自然な咳払いと共に、『いいわよ』という短い念話が届く
「トモヒロ・クロカワと言います。正直あれ以上長い時間発動していれば、今この場でお話しは出来なかったでしょう。動きの無駄はこの世界に渡ってきてから思っていたのですが今までの感覚とズレが有るのが原因でしょう」
「スキルが身体に馴染んでないのだな…」
年齢の差は判っているので少年でも構わないのだが、思春期真っ盛りの俺としては面白くないので名乗ったのだがどれだけ効果があったものか…
ちょっと考え込みつつ此方を見つめるローラさんが色々教えてくれた
複数のスキルを同時に取得した場合や身体能力向上系のスキルは実際に使いこなすまでに時間が掛かる場合があるという事と、俺の場合はスキル自体の理解が足りて無いという事が原因だろうという事だった
「それにだ、せっかく『剣術』スキルを持っているのだから武器も用意した方がよかろう?」
「「!?」」
俺と伶は驚きに思わず絶句する
ニヤニヤするローラさん
ポンタさんが頭を掻きつつ種明かしをしてくれる
「フン、ローラは『魔眼』のスキルを持っているのだよ。こいつはそれで人の心を覗いたり、思考を誘導したり悪戯にばかり使いよる」
「にゃはは、バレたか」
『魔眼』は目があった人物の思考を読み取り、そこに影響を与えたりもできる種族特性に当たるらしい
使い方によっては魅了を掛けたりして人を操る事も出来るらしい
今回はローラさんのはったりに引っかかった俺がスキルの事を考えた内容を読んだのを、さもスキルを見破ったかの様に言って見せた訳だ
しかし、ある意味これがスキルの理解なのだろう。
スキルの及ぼす効果を知り、どうすれば期待した効果を発揮できるかを考えるのが大事だと思う
先程の戦いでそこまで意識していたかというと、何と無く出来そうだで動いていたことは否めない
「ポンタさん、私たちを暫くこの集落において頂けませんか?」
「フム、それは構わんぞ。こいつが言い出した以上どうにもならんのだ、協力しよう」
『智大、暫くこの集落に居候させてもらって力の使い方を覚えましょう。その間に武器を造れるか試してみるわ』
『伶がそういうなら、俺はいいぞ』
「にゃはは…娘、なかなかやるな」
「何のことでしょう?」
「まぁ少年の方が駄目だから見え見えだがな」
どうやら『魔眼』をレジストした伶とローラさんの間にバチバチと見えない火花の様な物が…
まさかニュータイプ!?
そんな良い物ではない異常な緊迫感に俺とポンタさんは嵐が過ぎるのを首をすくめてじっと耐えるだけであった
読んで頂いて有難う御座います
皆さんからのご意見ご感想をお待ちしております