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ゆっくりした時間

 山となった食材・・・というかお肉の山。クビトの街で食べ歩きのついでに仕入れた様だが、よくもあれだけ食べた後にお肉を買おうと思えたと感心してしまう。買い物はお腹が一杯の時にした方が無駄が無くなると聞いた事が有るが、それでもこれだけあるって事は空腹状態で買い物に出たらどれだけ買ってくるのやら・・・


 さらにハルカさんが射抜いた鳥たちは串に刺して焼き鳥にしたようだ、それも結構な量になっている。俺が獲ってきた兎はシチューにするつもりらしく鍋の中でじっくりと煮込まれている。冷凍庫などない世界だ獲ってきた以上は食べるしかない。魔法の鞄に入れておけば少しは時間経過が遅くなるようだが、あくまでも少しというだけで貯蔵目的には使えない


 鉄板からは白い煙が上がり始めている。もう少し時間をおいて色が少し変わるくらいの目安で焼き始めれば丁度いいかもしれない。なにせ薪を使った焚火で温めているので炭に比べると熱が足りない気がする。なにせ突然の事だ、炭までは荷物に入れていない。今後の事を考えると馬車の隅にでも積んでおいた方が良さそうだ


 鉄板の周りには箸を手にワクワク顔のハルカさんが涎を垂らさんばかりに臨戦態勢に入っている。魔王様ことエシュム様とローラさんは本番前の腹ごなしと軽くワインで口を湿らせている、その傍らで復活したシトールさんが直立不動で立っている・・・緊張しすぎじゃないのか?


「さて、下拵えは大体終わりました。もう少しで出来ますから待っていてくださいね」

「うむ。善きにはからえ」


 エシュム様はこう、何と言うかお世話され慣れているというのか、こういう時にも遠慮等はしない。言葉使いも鷹揚なのだが、それがまた様になっている。でもこのメンバーでのバーベキューだと誰も給仕はしてくれないけど大丈夫かな?なんか自分でお肉を皿に入れる姿が想像つかない。お酒は自分で注いでいるけど、それはまぁ呑兵衛だから良いのだろう・・・


 伶がエプロンを外して席に着く。一杯目のスープは装ってくれるが二杯目からは各自でどうぞ、ってのが俺達のスタイルだ。飲み物も同様に自分で注ぐのがルール。目上の人にお酌なんて習慣はこの世界には無い。お酌なんて結婚式などのお祝いの席の時くらいのようだ


「ふむ。まぁ親睦を深める為じゃ。儂共々イシスの事を頼むぞ」


 エシュム様の音頭でバーベキューの始まりだ。早速、箸をお肉の山に伸ばすハルカさん。鉄板に自分の領土を形成して、他のメンバーに手出しさせない結界を張り巡らしている。その眼光は食べ頃のお肉を見極める為にランとした輝きを放っている。てか、真剣過ぎるだろハルカさん。何故こうなってしまったのか・・・


「はわわ。伶さんこのお肉美味しすぎます。味噌に漬けてある・・・こっちは生姜ですか!?」

「は、ハルカさん慌てないで。まだ沢山あるから・・・ね?」


 箸と口の動きを止めずに隣に座る伶に詰め寄るハルカさん。勢いに押され気味な伶は椅子から落ちそうなくらい、後ろに仰け反りながらハルカさんを宥めている


 とはいえ、伶の芸も細かい。味噌漬けは保存を考えての事だろうけど、生姜焼きの他にも下味をしっかりと付けてある。日本にいた時はタレ付きの焼き肉なんてスーパーで幾らでも買えたが、この世界にはそんな発想は無い。自家製のスパイスを使った、たれに付けて食べるだけなのでどうしても飽きが来る。酒で誤魔化せれる人は良いがうちのメンバーはそこまで酒が強くない。それ故の工夫だろうと感心してしまう


「ほらほら、イシスちゃんも沢山食べてね」

「は、はい。」


 うぉっと。神さまにちゃん呼びは(まず)くないのかハルカさん。焼けた肉をイシスさまの皿に乗せながら甲斐甲斐しくお世話している。ただ、自分の領土のお肉は死守するつもりなのか他のお肉乗せてる処が意地汚い・・・それでいいのかハイエルフ!


 先程まではエシュム様にくっ付いていたイシスさまだが、本格的に酒盛りになってきているので構ってもらえなくなったらしい。そこをハルカさんが呼びとめて面倒を見ているようだ


「・・・美味しいです」

「そうでしょ!お肉はね人類を幸せにするのよ」


 ハルカさん(オニクスキー)独自の見解だとは思うが、外で食べる焼き肉は室内で食べるよりも美味しく感じるのは神さまも一緒みたいだ


「こっちのスープも如何(いかが)ですか?」

「は、はい。・・・ありがとう」


 なんだろう?二人掛かりでお世話し始める。


「へへ~私って里でも一番若いから妹が欲しかったんだ~」

「私もこんな可愛いタイプの妹が欲しかったのよ」


 あ~家の妹は可愛いってタイプじゃ無いもんな。どちらかといえば活発な妹だし女の子女の子してるって感じでも無かった。


 イシスさまの雰囲気から庇護欲を刺激されたのかな?ともかく二人掛かりでのお世話にイシスさまも目を白黒させながら食べている


「シトールさん、食べないんですか?」

「あ、アホ言わんといてや。魔王様の前でそんな事できる訳ないで」


 そうなの?別に食べるくらい良いじゃない?まぁ食べないというなら構わないか・・・肩に乗るスラちゃんにも御裾分けだ。


「きゅ♪」


 箸で近くに持って行ってやると上手に身体を変形させてパキュッって感じに頬張るスラちゃんが可愛い。進化して身体の動きが以前よりも滑らかになっている様な気がする


「イシスさまは普段神殿におられるのですか?」

「・・・がいい」

「えっ?」

「・・・普通の話し方がいい」

「ああ。イシス様は普段神殿に住んでるの?」

「・・・ちゃんで」

「・・・」


 ・・・慣れてくると結構自己主張の強い女神さまだな。結局俺もちゃん呼びになってしまう


「うん。・・・天上界に知ってる人いないの。でも相手は私のこと知っているのが違和感あって・・・」

「そっか。それじゃぁ住みづらいか」


 コクって感じに頷くイシスちゃん。どうにも幼い子供を相手にしている様な気になってくる


「こっちだとお姉ちゃんが来てくれるから・・・」

「お姉ちゃん?」

「ん。エシュムお姉ちゃん」


 おっと。魔王様お姉ちゃんしてるんだ。のじゃロリのお姉ちゃんというのも、なかなかマニアックだ。


「他に仲のいい神さまはいるの?」

「キュベレー様」

「あれ、そうなんだ」

「うん。優しいの。あとアッティス姉もおみやげ沢山くれるの」


 ああ、アティスさんも(あね)認定なんだ。漢女(おとめ)エシュム様(のじゃロリ)が並んでいる処を想像してしまう。そういえばアッティスさんも神さまの子供だ。エシュム様と面識が有るのかな?


 ハムハムとお肉を食べていくイシスさま・・・(なご)むわ~


「アッティス様は私のお師匠様なのです」


 薄い胸を逸らして自慢するハルカさん。ほら!焼き肉のたれが服に付いちゃうから箸をおきなさいって


「そうなんだ。アッティス姉も優しいし、カッコいい」

「ふふん。そうなのです。流石私のお師匠様なのです」


 共通の話題が有ると人は一挙に距離を詰める事が出来る。途切れがちだった話し方も大分滑らかになってきている。美味しい物を食べながら机を囲むのは仲良くなるための近道だ。


 呑兵衛二人を見るといつの間にか来ていたナティさんが甲斐甲斐しく給仕している。お蔭でシトールさんが緊張しっぱなしだ。


 あれ程あったお肉もいつの間にか平らげてしまっている


 ハルカさんだけでなくイシスさまも結構食べていた。お蔭で少しは慣れてくれたかな?


 まさかのコミュ障女神さまだったが慣れてくると可愛い・・・


 今日は無理そうだけど明日には話も出来るだろう。束の間の休日って感じになってしまったがこれはこれで楽しめたし良しとしよう。


 すっかり仲良くなったハルカさんとイシスさまは一緒に寝るようだ


 呑兵衛二人の夜は長そうなので、伶と二人馬車の中で寝かせて貰おう


 そうして神殿の前での親睦会は久しぶりのゆっくりとした時間にもなってほっこりする一刻(ひととき)になったのであった

読んで頂いてありがとうございます

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