ポンタの春~2
伶が店の主人と細かな打ち合わせを終わらせてから店を出る。何故かやり切った感満載の伶と何もしてないのに疲労感満載の俺達。お土産と言う名のプレゼント作戦は現物が出来たら説明してくれると言うので、取敢えずは昼食にする事にした
「しまった。グルメマップも貰っておけば良かった・・・」
「まぁ大きな街だし大丈夫よ。そこそこ混んでるお店ならハズレも無いでしょう」
時刻はランチタイムをちょっと過ぎた程度、人気のあるお店ならばまだ客も残っているだろう、そういったお店を探せば良いのだ。相談に乗ってくれたお礼という事で昼食はポンタさんが奢ってくれると言ってくれたので予算は気にしないでお言葉に甘える事にした。プレゼント=高価な物と言う考えだったポンタさんにしてみると伶が注文した品はかなり安かったようで懐には余裕が有るそうだ
「すいません。もうスープが切れちまって。今日は閉店です」
「食材が・・・」
「臨時休業」
道沿いに食堂が並んでいるレストラン街・・・しかし軒並み店が閉まっている。なにか理由が有るのだろうか。って、たぶん、いや、きっと彼女たちの仕業だろう。オニクスキーなだけでなく大喰らい属性まで身に着けたのか・・・
裏路地に在る所謂B級グルメの様なお店まで閉店している。何処まで蹂躙したんだ・・・この調子では美味しいお店は全て蹂躙されていると思った方が良さそうだな
「あっちの軽食のお店は無事そうよ」
「そうだな、もうあそこにしようか。ポンタさんも良いですか?」
「大丈夫だ。だが少し気後れしそうな店じゃの」
解放的なオープンテラスが特徴のお店に向かって歩を進めて行く。可愛い制服のお姉さんが銀色のお盆を抱く様にして整列している。何か特殊な需要を満たす為のお店の様な気が・・・
「お帰りなさいませ。ご主人様とお嬢様」
おふ、こっちの世界にも在るのか・・・
「本日のメニューです。ごゆっくりお寛ぎ下さい」
「「「・・・」」」
無言でメニューを見つめる三人・・・良かった料理は普通の様だった。幸いメニューの内容はメイドさんのピヨピヨひよ子さんらいちゅ、わんわんカレーらいちゅ等の注文に困る様な名称では無い。勿論ラブ注入等のオプションも記載されていないので助かった・・・俺が特殊な需要を満たすお店のメニューに詳しいのは内緒にしておこう
ポンタさんには一品では足りなさそうだったので大目に頼んでシェアをする。当初の不安を余所に結果的には満足する内容だった。値段も良心的だし味も満足できるレベルだ。それでも客が少ないのは特殊すぎるお店の形態の気がする・・・ちょっと時代を先取り過ぎだろう。まさか異世界でメイド喫茶に入るとは思わなかった
その後はプラプラお店を見て歩く。雑貨屋に服屋さん、八百屋さんの様なお店も在り試食の果物を分けて貰ったりとまったり過ごす事が出来た
「お待ちしておりました。どうぞ出来上がりをご確認ください」
日が少し傾いてきた頃に宝飾店に向かってみた。指定された時間よりも早かったのだがきちんと出来上がっているあたり客商売という物に慣れているのだろう。ポンタさんの予算が多すぎたせいで安く済んだ気になっていたが、一応クビトの中でも高級店に分類されるお店の様だ
紫色の布に乗ったデフォルトされた水晶の狸。透明度の高い水晶を計算されたカットでぬいぐるみそっくりに加工してある。光を小さく反射するのか、角度によってはキラッと光るのだが決して派手さは無く上品な感じだ
「久しぶりにいい仕事だと職人も喜んでいました。最近は値段が高ければ全て良し、というお客様が多いので・・・」
店主の言葉に背中に冷たい汗が流れた。まさしく俺の様な存在だろう
「察するにぬいぐるみはお子様。ブローチはお子様に近しい方、お母さまかお姉さまですか?そうするとネックレスは・・・」
「ふふふ流石ですね、正解に近いです。ですがブローチとネックレスは一人の方に送る予定です。これにこのペンダントトップを組み合わせると・・・」
「ははぁ、成程。お子様の保護者としてのブローチと女性としてのネックレスという事ですか、そうですねこのトップならばお若い方にも合うでしょう。大変参考になります。もしよろしければこのアイデアで商品化してもよろしいでしょうか?」
「ええ。年齢別にトップを変えれば御家族向けには丁度いいと思います」
店主と伶の間で話があさっての方向に進んで行く。何と無く伶の考えが読めてきたのだが詳しい説明は後でしてくれるようなので、取敢えずは黙っておく。
ご機嫌な店主とおそらくは作成した職人に見送られ店を出る。この後クビトの宝飾店のトップへと上り詰めるきっかけとなったのだが、それはまだ先のお話しだ
「良いですかポンタさん。聖女様にぬいぐるみ。その後にイストさんに聖女様のぬいぐるみとお揃いのブローチって順番で渡してください。かなり重要ですから間違わないで下さいね」
「う、うむ。しかし、そんなに重要なのか?」
「ええ。最重要項目です!」
伶の説明だと、イストさんの性格では聖女様の前に渡すと、聖女様を蔑にしてると感じる可能性が高い事、イストさんに渡したブローチも、彼女がそれを身に着けることで聖女様が喜ぶ事を目的にしているのだという
「良いですか。あくまでも最優先は聖女様です。ポンタさんもここに不満は無いですよね」
「うむ。正直に言うとな子供の真っ直ぐな感情と言うのは可愛いと思う。最初は対応の仕方も判らず、くすぐったいだけじゃったが、庇護欲?と言えば良いのか今ではイスト殿の気持ちが良く判る」
良かったポンタさんにロリ属性は無い様だ、寧ろ父性に目覚めたみたいだな。
「でもそれならネックレスは要らないんじゃないか?」
「はぁ~だから智大は駄目なのよ」
うわ!でっかい溜息付きで呆れられた。俺だけじゃないぞポンタさんだって理解していないに違いない!
「ふむ。保護者としてだけでは無く女性としても扱う事も大事、という訳じゃな」
「そう!ポンタさん判ってらっしゃる」
な!ポンタお前もか!!
パッと花が咲くような笑顔でポンタさんを褒めちぎる伶、しかし俺は腹心に裏切られたシーザーよりも大きな衝撃に襲われていた
「そうですね。帰り際にそっと渡すのが良いと思いますよ。少し照れながらイストさんの分だって事を強調してくださいね」
「う、うむ。出来るかどうかは判らぬが努力してみよう」
ポンタさん堅すぎるよ・・・まぁそこがポンタさんの良い所なんだろうけどね
「あと、この事はローラには内密に頼む」
「そうですね、今は邪魔されたくないですよね。智大も判ったわね」
「ハイ、ウケタマワリマシタ」
思わず片言になってしまう。あのローラさん相手に隠し事をする自信が無いのだ。不安げに見つめてくる二人に努力はすると言い直しておいたが、宿に戻ってみたらそんな心配は不要だと判り安心した
宿に戻った俺達が見た光景・・・
テーブルに備え付きの椅子に腰かけ優雅に紅茶を飲むハルカさんとタンドさん。紅茶を用意したのはタンドさんだろう。しかしその顔が若干・・・いや、かなり引き攣っている。
タンドさんの視線の先。床に転がるシトールさんと、その奥でソファーに横になっているローラさん。
「なにもハルカさんに付き合って食べなくても良かったんじゃない?」
「そやかて食べへんと嬢ちゃんが怒るんや・・・」
「うむ。なかなかに鬼気迫る物が在ったの」
二人ともパンパンに張ったお腹を擦りながら呻く様に答える。やはりレストラン街を途中で閉店に追い込んだのはハルカさんだったか・・・
色物キャラのシトールさんは兎も角、普段は苛める側のローラさんまでこの有様とは。ハルカさん恐ろしい子・・・
ともあれ、ポンタさんの春を邪魔しそうなローラさんがダウンしているのは好都合だ。
このまま何とかバレ無い様に振る舞えば問題ないだろう・・・
コッソリとポンタさんとサムズアップを交わす。
遅れてきたポンタさんの春に幸あれと願うのであった
後日談はそのうち幕間で書くかもしれません
ポンタさんに幸あれ!
次回から新章突入です
読んで頂いて有難う御座います