表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/175

最強の存在

 遠くに見えるだけだった光の点がジョジョ・・・違う。徐々に大きくなってくる。あの時は夢中で走り切ったので直線部分がこんなに長いとは感じなかったが、出口付近に居るであろう土竜に気付かれない様に慎重に歩いてるせいもあって大分長く感じられる


 いよいよ出口がはっきりと見えてきて、その向こうには薄い茶色の塊・・・土竜の背中が見えてくる。出口の大きさはブルーベルより少し大きい程度。この大きさなら迷宮の門番やガーディアン等は外に出れないだろう。ある意味、安全装置的な考えなのかも知れない。当然土竜も入っては来れない


「なぁ。迷宮の中から土竜に攻撃すれば倒せるんじゃないか?」

「可能性はあるから検討はしたんだけどね~」

「もし倒せなかった場合、迷宮から出る事はほぼ不可能になるの」


 キャンサーを退治した事で迷宮から溢れる魔力は復活し、それを浴びながら満足げにお昼寝中の土竜。流石に攻撃を仕掛けられれば起きるだろうし倒しきれなかった場合、再び眠りにつくまでは迷宮内に足止めと言う事になる


 邪教徒達への対策の為にもあまり時間を取られるのは好ましくないという理由から却下された。斃すのが無理ならどうするか・・・それはもう、逃げの一手である。迷宮入り口は少し開けた広場の様になっているのだが、そこを突っ切れば深い森になっている。つまりはドライアドを呼び出す事が出来るのだ


 問題はドライアドが道を開くまでのタイムラグにある。入った時の様にハルカさんが天然ぶりを発揮してしまうと、ドライアドが道を開くまでに追い付かれる可能性がある訳だ


 迷宮の様に頑丈な作りで土竜の突進を受け止めてくれるならば逃げ込む事も可能だが、ドライアドは森と森を繋ぐだけだ。最悪ドライアドの繋ぐ道の中を土竜に追い掛けられ、森の出口側つまり迷宮の外までトレインしてしまう可能性まである。そうなれば邪教徒達がやろうとしている事を俺達がやってしまうという本末転倒な結果も有り得るのだ


「事情は判りましたけど・・・」

「智大・・・すまんな」

「少年。適材適所じゃ。お主ならばやり遂げれる筈じゃ」


 すまなさそうなポンタさんと正反対に悪い笑顔で答えるローラさん。まぁ話を聞く限り手段としては悪くないので強く反対もしづらい。しかも話を聞いていなかった俺が今更反対するのも・・・


「智大。気を付けてね」

「大丈夫。君ならきっとできるよ」


 心配そうな伶とサムズアップのタンドさんに見送られながら、一歩前に出て準備を始める


「迅雷」


 呟く様に属性解放するのはいつもの通り。準備と言ってもやる事といえばこれ位だ。出口の外に居る土竜が属性解放した俺にピクッと反応を示す。土竜が頭を起こして周囲を確認する前に奴の鼻先に現れた俺を、キョトンとした表情で見つめてくる


 成龍ではないとはいえ竜種に連なる種族の前に無警戒で現れる奴などいなかったのであろう。普段は気にもしない矮小な存在であろうとも目の前に現れた俺が不思議でしょうがなかったと思う


 お互い眼が合ったまま見つめ合う時間は突然破られる。俺が放った蹴りが土竜の鼻先にクリーンヒットしたのだ。ダメージなんて与えている訳が無い、寧ろ蹴った足の方がダメージを受けているに違いない。竜種たる存在のプライドを傷つけられたのか、一瞬の驚きの後に湧き上がる怒りに大きな咆哮を上げると怒涛の突進を開始する。


 更に挑発するようにお尻を突き出しペンペンと叩いて見せる俺に我を忘れて向かってくる土竜。付かず離れずの距離を保ちながら迷宮の出口から引き離すのが俺の役目だ。


 お判りいただけただろうローラさんの作戦。それは俺が土竜を引き連れている間に他のメンバーが森まで移動しドライアドを呼び出して道を開いて貰おうという物だ。後は俺が飛び込んだ瞬間に道を閉じて貰えば逃げ切り勝ちになる、メンバー中最速を誇る俺にしかできない作戦という訳だ。今は武器である刀も伶に預けてあるので丸腰の状態で後ろに大きすぎる気配を感じつつ疾走中だ


 しかし言うは易し行うは難し。思っていたよりも土竜のスピードが速い。広場を突き抜け森の中に入っても土竜の突進は(いささ)かも緩まる事無く木々をなぎ倒しながら最短距離を詰めてくる。対して俺は木々を避けながらの退避行だ。どうしても距離的なロスは出てしまう。加えて・・・


「ドグォーン」


 奴が吐き出す衝撃波が後ろから襲ってくる。俺の居る場所にピンポイントで収束する衝撃波が炸裂すると爆発したかのように土煙と共に大地が吹き上がる。変な表現かもしれないがそうとしか言えないのだからしょうがない


 うなじの辺りにチリチリとした気配が走ると、(またたき)の間をおいて『危険感知』のスキルが最大限の警報をかき鳴らす。それを頼りに進路を直角に変更して躱していくのだが、土竜はスピードを緩めないまま追いかけて来るのだから性質が悪い。せめて立ち止まって衝撃波を放つのならば距離を取れるのだが、走りながらでも放てるようで徐々に距離が詰まってしまう


 突然大森林の魔境の空を染め上げる大きな炎が引き上がる。俺が待ち望んでいたローラさんからの合図だ


「少年、こっちは準備完了じゃ。後はお主だけじゃ早く逃げ込め!」


 ローラさんの叫びが森に響き渡る。土竜との距離を引き離しそちらに向かいたいのだが、なかなか思うようにはさせて貰えない。それでもジリジリと距離を稼ぎつつ進路をドライアドの方へと向けて疾走していく


「ちょっと~!あんなの聞いてないんですけど!」

「大丈夫だ。智大君が通ったら直ぐに道を閉じるんだよ」

「簡単に言わないで~!」


 追い掛ける土竜を見たドライアドが騒いでいる。俺の後ろから迫る土竜にドライアドも恐怖しているようで今にも道を閉ざしてしまうのをタンドさんが(なだ)めてくれている


「少年!避けろ」


 真正面に立ったローラさんが炎の塊を生み出すと牽制に土竜に向かって放つ。ギリギリで避けた俺を通り過ぎ土竜の鼻先で炸裂した・・・が、炎が二つに割れると無傷の土竜が速度を緩めずに姿を現す。ローラさんが得意とする炎系の魔法は土竜の属性である土系には効果が弱い。対抗するには水系の魔法が一番なのだが水系の魔法は攻撃力が弱いという欠点がある。


 避けた分のロスで却って距離を詰められてしまいながらも必死に走る。見える程近くなったドライアドの道までの距離では今更小細工しても如何にもならない。陸上の短距離走のようなフォームで全力疾走する・・・刀を預けておいてよかった。


 突如低い軌道でドライアドの道から飛び出して来る物体・・・スラちゃんだ!戦闘機のアフターバーナーの様に目に見える程の魔力を吹き出しながら高速で低空を飛びながら此方に向かってくると、一旦大きく迂回しつつ俺と土竜の間に横から割って入る。そして速度を維持したまま軌道を上向きにへと鋭角に跳ね上げるとスラちゃんの身体は土竜の顎にクリーンヒットする


 10mを超すであろう巨体がスラちゃんの特攻に一瞬浮き上がる。勢いそのままに上空へと抜けたスラちゃんがふわりと俺の肩に降り立つと、浮き上がった身体を支える事も出来ずに崩れ落ちる土竜。口元からはだらしなく舌が出ており、怒りに燃えていた眼は白目をむいた状態・・・予想外の方向からの衝撃に目を回し気絶しているようだ


「きゅ♪」


 可愛らしく一声上げるスラちゃん。その勝利の声で皆が安心したようにドライアドの道から顔を出してくる


 迷宮の壁に穴をあける威力は一撃で土竜の意識を刈り取る威力を内在していた訳だ


 囮役として逃げ回る主人公・・・


 一撃で難敵の意識を刈り取る主人公のペット・・・


 今、このパーティ最強の存在が誰かという事が判明したのだ・・・


 って、ちょっと情けなくないか俺。今更な気がしつつも落ち込む俺だった


読んで頂いて有難う御座います



アルティメットスライム・・・スラちゃん参上です

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。こちらも宜しくお願いします
守護霊様は賢者様
↓↓ポチッとすると作者が喜びます↓↓
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ