改めて・・・”人の話は聞きましょう”
目の前に有るスラちゃんがたった今開けた穴が逆廻しをする様に修復されていく。折角キャンサーから救ったというのに迷宮を傷つけるような事をしてしまっては、助けた意味が無い様な気がする・・・まさか此処までの威力を発揮するとは思っていなかった。幸い自己修復できるようなので問題なさそうだがお小言の一つぐらい言われそうだ
「なんや出鱈目な威力やな・・・迷宮の壁が壊れるトコなんて初めて見たわ」
「きゅ?」
スラちゃんの様子からは無理した感じも無い。しかし今迄門番たちとの戦いでも壊れる事の無かった壁が崩れるどころか大穴を開けてしまったのだ。俺が考えていた以上にスラちゃん無双への道が近づいた様だ
「魔力が上がっただけでこんなに強くなるんですね~」
「スラちゃんが持つスキル『収納』と『魔力変換』の影響が大きいと思うよ。大体スキルを持つスライムなんてスラちゃんだけじゃないかな?」
まずスライムの生態・・・彼らは食事という物を必要としていない。周囲に漂う魔力を直接、又はその元になる魔素を吸収し体内で変換する事でエネルギーに変えている。食物からエネルギーを摂取している俺達とは根本的に違う生き物だ。
身体を構成するのも魔力から変換した細胞だと考えられている。あえて細胞と表現してみたが実際には細胞の一つも極小のスライムであり、それらが纏まったある意味、群体がその身体を構成しているとも言える。
元の世界ではipsとかSTAPだとか万能細胞が話題になっていたが、スライムの場合それぞれ一個が万能細胞であると同時に意志ある自分自身である訳だ。バフォメットの魔法から俺を守ってくれた時の様に魔力で自分自身である細胞をを増やす事も可能だし、さっきみたいに個々の結びつきを強くする事や壁を壊すほどの威力の突進も魔力で可能という事なのだ
更にスラちゃんの場合、『収納』で魔力を溜め込めるので自身の細胞の強化に無尽蔵の魔力を使う事も出来るし、『魔力変換』で自分の思ったように魔力を自由に操る事が可能だ・・・という事らしい
ハッキリ言ってそんな小難しい話を俺が理解できるはずも無く、取敢えず強く成ったんだから良いじゃね?という受け取り方で十分だ、後はこれで魔法が使えればスラちゃん無双に近付くに違いない。次に向かう神さまは魔法を司るって言うしギフトで魔法を使える様にして貰えるかもしれない。夢が広がっていくな
「智大!聞いてるの?」
「え?何??ごめん聞いてなかった」
「まったく。しょうがない奴じゃな」
どうやらまた妄想の世界に入っていたようだ。
伶とローラさんが呆れた顔でもう一度話してくれた内容は、もう一泊この部屋で泊まって明日にはクビトに向かって帰途につく事、クビトでポンタさんとタンドさんとは別れそのまま魔法を司さどる女神イシスの神殿に向かう事を話していたらしい
「そっか。一旦お別れになる訳だ。シトールさんは?」
「なんや兄さん。邪魔者扱いしよってからに。ドゥルジ様から直接の命令やから兄さん達に付いてくで」
「ああ、そういえばナティさんが言ってましたね」
「付いて来ても良いですけど、ちゃんと食費を入れてくれないと困ります」
「ちょ!嬢ちゃん。そんな殺生な事言わんで飯くらい・・・」
「駄目です!私の分が減りますです」
因みにハルカさんも食費を入れている様子は無いのだが・・・
和気藹々とした感じで話が進んで行く。後は帰るだけだし迷宮の帰り道は魔物も出ない。この辺りは不思議な物で戻りに一度倒した門番が復活している事も無いし通路での罠や魔物にエンカウントすることは無い。
迷宮を散策する者が連続で入った場合はどうなるのか疑問に思ったが、シトールさんによると迷宮に入ろうとする奴がそんなにいる訳ないと一蹴されてしまった。この世界の冒険者は稼ぎよりも命が大事っていう主義だ主流だ。なにせ豊かな世界である、危険を犯さなくても生きていくだけなら十分なのだ。
ギルドに加入している冒険者の大半は使命感や正義感に駈られた者が殆どなのでお宝目当てに迷宮を探索する事などよっぽどの変わり者以外はしないようだ
「・・・忘れてるようだけど出口には土竜が待ってるからね」
「「「あっ!」」」
タンドさんの言葉に絶句してしまった・・・のは三人だけで他のメンバーはきちんと覚えていたようだ。三人が誰かと言うのは今迄のおちゃらけた会話から判るだろう・・・
一夜明けて重苦しい気持ちを隠しつつ先に進む。階段を上っていくだけなので然程時間もかからず一階にまで戻ってきた。迷宮に入った時に走り抜けた直線の通路。まだ遠くに見える光が出口だろう。そしてそこにはお昼寝中の土竜が横たわっているだろう事が予想される
「こう餌とか食べに行ってる可能性とか無いですかね?」
「無いね~。土竜の餌って何か判らないけど可能性が高いのは迷宮から漏れ出す魔力だと思うよ」
「じゃあ、縄張り争いに負けていなくなってるとは・・・」
「そうなると、もっと強力な魔物がいる事になるな」
「え~と・・・」
「少年、諦めろ。土竜を斃そうという訳じゃない。森林に入ればドライアドを呼べる、その間の時間稼ぎが出来れば良い。最悪走って逃げるのも手じゃな」
折角無事進化を果たしたのだから安全に帰りたいのだが、弱気になっているのは俺だけの様で皆どうすれば良いのか話し合っている。いつもの様に難しい話はお任せ状態の俺は、後で決められた役割を果たせばいいだけなので、のほほ~んとスラちゃんと戯れていた
「少年、決まったぞ。一番重要な役割を任せる」
と、思ったらローラさんが悪い笑顔で告げる・・・その笑顔はポンタさん用です!俺に向ける物じゃ無い筈です!!
抗議虚しく作戦は決まってしまった・・・
やはり人の話は聞いておくのは大事なんだなと改めて思った
読んで頂いて有難う御座います