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始まりの時

 階段に蓋をしては焼き払いというのを何度か繰り返し、やっと階段を下から湧き上がってくるメイズキャンサー達を撃退する事に成功する。撃退といっても親玉を斃したわけではないので暫くすれば同じ事の繰り返しになるのかもしれないが、取敢えずは侵攻を止めれた事は間違いないようだ


「突然なんだったんでしょう?」

「そうだね。いきなり多数で現れるなんて、不思議な奴らだ」


 地下三階の大蜘蛛の部屋で初めてメイズキャンサーを見つけてから此処まで、さっきの様な大侵攻ともいえる現象は今迄無かったし、途中で見つけたキャンサー達も偶に一個体が岩や壁に偽装しているのを見つけた位だったのだ


「ふむ。迷宮の魔物達が始末していたのかもしれんな」

「そうか、魔物達にしてみれば侵入して来れば区別なんかつかへんやろうからな」


 やはり癌と同じなのだろうか。メイズキャンサーの名前を聞いた時から病気としての悪性腫瘍=癌を連想していたのだが同じような事なのだろうか。この場合、魔物=白血球になるのか?う~ん迷宮を生き物として考えるのも何か不思議な感じだ


「私達がいた世界では悪性腫瘍と言う病気が有りました。自己の細胞・・・この場合は肉体を構成する最小単位の物と言えば良いのかしら。それが再生の過程で変化して身体に悪影響を及ぼす病気ね。メイズキャンサーはその病気にそっくりな部分があるわ」

「そんな病気があるのか?。いや、この世界でも判っていないだけで同じ病が合っても不思議ではないのか・・・」


 伶も同じ事を考えていた様だ。簡単にだがみんなに説明すると驚いている。ハイエルフの様に長寿の種族は不思議と病に倒れる事は少ないらしい。特にハイエルフの場合は肉体が世界樹から生み出されることも有って人間族や獣人とはかなり異なってくるようだ。しかし人間族や獣人は原因不明の病で亡くなる事もあり、その中には癌で亡くなっている者も居るのかもしれない


「キャンサーが迷宮の病と言う可能性か・・・」

抑々(そもそも)迷宮の病ってのがピンと来ないね。迷宮が生物(いきもの)って事かい?」

「じゃがそう考えると納得できる部分もあるの」


 これまで、迷宮とはそこに在る事が判っていても、何故だとか、何なのかという事は殆ど判っていない。ただ経験則からこういった事が有るという事が知られているだけなのだ。迷宮の不思議と言われている物達も結局はそういう理解できない事ばかりなのだ


 もしメイズキャンサーが迷宮の病だとするならば、迷宮と人体を比較すれば判ってくる事もあるかも知れない


「魔物も迷宮の一部って事は昔から言われていたよね」

「そやな。迷宮の中に発生する魔物と迷宮の外にいる魔物に共通性が無いさかい、あくまでも迷宮が生み出した魔物や、言われてるな」

「そうすると、魔物達は異物を排除する役目なのかな?」

「え~でも、生物だとするとご飯は何を食べてるんですか?」


 食いしん坊らしい疑問だが言われてみれば尤もな疑問だ。動く事も無くただ、そこに在る生き物・・・植物とかと似ているのか?


「魔力ね。もし迷宮最深部に在る核が迷宮由来の物でないとしたら・・・」

「そうか!核から発生する魔力を取り込むための生き物と言う可能性もあるのか」


 成程、インテリ組の発想は面白い。そんな事を考えた事も無いし考えようとも思わない俺にとっては聞いているだけなら楽しいと思える。勿論聞いてるだけだが・・・


「まぁ迷宮の正体は置いておけ。今は先に進む事の方が大事じゃ」


 またしても引率の先生(ローラさん)の一言で決着がつく。夜襲で目が冴えてしまったのも有って少し早いが軽食を取った後に階下へ降りる事にした。




 準備を整え降りた先は、これまでとは別の世界の様に印象の変わった世界だった。壁や天井を寄生するキャンサー達に埋め尽くされた迷宮は、今までの洞窟といった感じでは無く何かの生物の体内の様になっていた。所々でドクンドクンと脈が打つように鼓動(こどう)する様は如何(いか)にもって印象を誘う


「養分を吸っているのか?」

「少なくても迷宮に寄生しているのは間違いなさそうですね」


 ブヨブヨした身体から生えた足の様な物でしっかりと壁に張り付いたそれは、奥に向かって何かを流すように脈打っている。きっとこの先にメイズキャンサーの大本がいるのだろう。夜襲を掛けてきたキャンサー達は新たな寄生の領域を広げる為・・・癌で言えば転移に当たる物なのかも知れない


「俺達の世界じゃ癌は研究も進んでいて、必ずしも不治の病って訳じゃない。大手術で迷宮を救ってやろうじゃないか」

「はい。そして美味しいお肉を手に入れるのです」


 すっかり目的の変わってしまったハルカさんだが、メイズキャンサーを根絶する方針には賛成の様だ。スラちゃんの進化の為にも邪魔者は排除してやろう


 キャンサー達に囲まれながら通路を進んで行く。こちらに対して攻撃を仕掛ける様子は無いのだが、本体に近づけばどういった反応を見せるかは判らない。現にキャンサーに取り込まれてしまった魔物らしきものがはみ出している奴らも見かける。もし魔物に異物を排除する役目が有るのだとすれば、役目に失敗してキャンサーにやられてしまったのだろう


 これから親玉と対峙した時にはきっと攻撃を仕掛けてくる事は間違いない。警戒をしつつ先に進む事にする


「何処も彼処もキャンサーだらけじゃな」

「もしこの階に親玉がいるとすれば・・・」

「門番の所じゃろう。階下からの魔力が流れ込む、一番魔力が強い部屋にいる筈じゃ」


 幸いなのか、罠も魔物も無力化されているので進む分には支障はない。ゆっくりとだが通路を全て廻って一つ一つ確認しながら進んで行くと、おそらくは門であった物。今はキャンサー達がびっしりと張り付いた肉の門の様になっているのを見つけた


 擬態する事も考えていないのだろう、赤黒い不気味な肉々しいそれはドクンドクンと脈を打っている。部屋の中に流れ込む何かの流れが、まるで順路を示すように部屋の中へと続いている。調べる必要も無いだろう、この先にキャンサーの親玉が必ずいる。そう確信させるものが肉の門から伝わってくる


 顔を見合わせ黙って頷くと、いつもの様にバフやステータスアップの魔法を掛けてくれるのだが、部屋から出てこない門番と違ってキャンサーに囲まれているので、どうにも緊張してしまう


「少年、落ち着け。魔法が掛かり難くなる」


 注意されて苦笑いを浮かべるが、なかなか落ち着ける状況でも無いと思うのだが・・・


 魔法を掛け終わった所で皆の準備もオッケーだろう


 既に開いている門から中の部屋に足を踏みこむ。そこに広がる異世界は何とも口にできない不思議な様相を呈してるのであった


 篝火の光は消えている。しかし何かの不気味な明るさが部屋を満たしている、その光の発生源は目の前に存在する不気味な物からだった。いや、それがキャンサーの正体だという事は判る。しかし只の塊では無く、おそらく門番を取り込んでいるのだろう、変な場所から手足と頭が生えているのだ


 塊の天辺から足が生えておりその隣には腕が存在している。後ろ向きの頭が斜めに生えている横には何故か大剣が突き刺さっている。こちらに足裏を向ける様に生えている足がシュールさに拍車を掛けている


 多分この階の門番はリビングメイルかゴーレムか・・・そんな感じの巨大な騎士であったのだろう。生えている大剣と床に転がった大盾。所々虫食い状態の鎧が見て取れた


「気を付けろよ。どんな攻撃なのか想像も付かないぞ」

「様子見で魔法・・・って訳には行かないですよね」

「この階ごと燃やしても良ければいいのじゃがな」


 壁一面のキャンサー達はこの階全体に広がっている為、安易に魔法で燃やす訳にはいかないだろう・・・


「まずは奴を分離する。タンド、奴だけ囲えるか」

「あの足なのか何なのか知らないけど、壁に繋がっている奴。あれを排除できれば何とかなる」


 地面にはキャンサー達は張り付いていないので土を操るノーム達の能力を行使するには問題ない様だ


「ポンタ。奴を牽制しながら孤立させるぞ、指揮は任せた。儂は援護しながら魔力を練っておく」

「判った。智大、ブルーベル。行くぞ」

「今回はワイも魔法で守りを固めるで」


 前衛に俺達三人、今回はシトールさんも魔法を使うようだ。真面目にやれば実力は確かな筈なので問題は無いだろう。ハルカさんも今回は防衛に廻る、直接本体に攻撃では無く後衛陣を守る役割だ。


 地面を除いた全方位が敵だ。気の抜けない戦いを覚悟しながら。始まりの時へと気合を高めていくのだった


読んで頂いて有難う御座います

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