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ダイヤモンドダストと少女

 ブフォーと鼻息を吐き出すキングトーラスが斧を片手に此方に向かってくる。入り口と反対側、つまりは部屋の奥へと俺が下がっているからだ。痺れたまま動けないブルーベルやポンタさん。それに後衛の皆から距離を取らなければ安心して戦う事も出来ない・・・なにか忘れている気もするが気のせいだろう


 ルビーゴーレム達も吹き飛ばされたとはいえ礫は大盾で防いでいるので損傷などは無いようで、ポンタさんやブルーベルを複数体で抱える様に後方に下げている。一応シトールさんも引き摺られるように運ばれていくが扱いが悪いのは気のせいだろうか・・・


 後衛の皆も深刻なダメージと言う程ではない様だ。伶が最後方にいたお蔭でダメージが少なかったのが幸いして魔法での回復を始めている。これならば後衛組の復帰はスムーズにいきそうだ


 と、確認できたのはそこまでで、キングトーラスの間合いに入ってしまった。鬱憤(うっぷん)は先程の一撃で解消されたのか苛立っている様子は無い。しかしその分冷静になってしまっているので俺としては歓迎したい状態では無い。属性解放も視野には入れているが『迅雷』とあの(いかずち)を纏う事ができるバトルアックスは如何(いか)にも相性が悪そうだし『暴風』に関してはまだ時間制限が有る。両属性の解放よりはましだが、時間内に倒せなかった場合の事を考えれば使い時は今では無いだろう


『神眼』を駆使して奴の攻撃を見切る。冷静になったとはいえども基本的には力任せの攻撃が主体だ。軌道を読んで躱す事は難しい事では無い。ただ尋常ではない速度で放たれる大型の武器での攻撃だ、躱すと言っても精神的に来るものが有る


 自分の三倍以上ある体格の奴が持つ長柄の武器。バトルアックスという見た目にもゴッツイ武器な上に、膂力に任せて片手で振ってきたりと間合いを変えたりして来る。刀で受ければ折れなくとも衝撃で飛ばされるのは目に見えているので躱すしかできない


 ・・・が、そこは高速戦闘を得意とする俺の独壇場でもある。広い間合いで繰り出される片手での攻撃。横薙ぎの軌道で迫ってくるバトルアックスをギリギリで下がって躱す。目の前を嫌な音と風が通り過ぎていくが臆してはいられない。通り過ぎた途端に間合いを詰める為に飛び込む。


 巨体と長柄の武器という組み合わせならば、近い間合いの方が攻撃をしづらくなるはずだ。奴の足元まで飛び込んで一撃を見舞う。シトールさんと同じように脛に思いっきり叩き込む。どうせ斬り裂く事は難しいのだから嫌がらせにしかならないが時間稼ぎならば効果的かもしれない


 そのまま太ももの横にも力任せに叩き付ける、伏兎と言われる急所だ。この急所は人体に致命傷を与えるような場所では無い。ならなぜ急所なのか?単純に痛いのだ。痛すぎて動きが止まってしまう上に鍛えているとか筋肉で防げるという訳ではない、身体付きが人間と変わらないのであればきっと効果が有る筈だ。


「グゥモォオ」


 お?やっぱり効果的だったか。長柄の武器では無く腕を振るって、俺を払い除けようとするキングトーラス。一旦下がって腕を躱すともう一度突っ込む。今度は『縮地』も使って勢いを乗せて同じ場所を攻撃してやる。斬り裂くつもりも無いから刀を返して峰打ちで攻撃だ。


 腕では防げないと悟ったのか、長柄の中心を持って、そこを中心に凄い勢いで回し始めた。唸りを上げる武器を自分の前方に置く事で防御を固めた格好だ。


 しかし前面が駄目なら側面に廻れば済む事だ。真っ直ぐ突っ込むと見せかけて横に跳ぶ。『縮地』で地面を蹴りつけると方向転換。あっという間に奴の横に廻りこめば、再び伏兎へと一撃を加えて後ろに飛び去る。回転させた斧を振り向けた時には俺はそこにはいない。更に廻りこみ反対の足にも攻撃を加えて去っていく


 大体、奴は俺を斃さねばならないのに防御を固めてどうするんだって話だ。時間を稼ぎたい俺としては大歓迎だが、この辺りは知能があまり働いていないらしい。トーラス系の上位種といえども頭の出来は変わらない様だ。殆ど嫌がらせの攻撃を続けていると、風の渦が奴の頭部を斬り裂く。


「待たせたの」

「私も準備完了です」


 伶の魔法で回復した後衛陣からの援護射撃が始まる。ポンタさん達はまだ動けない様だがローラさんとハルカさんは回復出来たのか頭部目掛けて次々と攻撃を仕掛ける。俺の周りにも土で出来た騎士の様な姿をした物が出来上がる


 どうやらタンドさんが作ったウォーノームだ。サムズアップでこちらに合図を送るタンドさんに片手を挙げて礼を返す。動きとしては遅いウォーノームだが精霊であるノーム本体では無い。あくまでもノームが土を操っているだけなので、攻撃を受けても直ぐに再生する事が出来る。その特性を生かしある時は俺を守る様に、ある時は太もも目掛けて嫌がらせの一撃を加えていく


 嫌がらせと言っても、その痛みは尋常ではないのだろう。何とか防ごうと必死になっているキングトーラス。それを嘲笑(あざわら)うかのように避ける俺と再生するウォーノーム達。大きく振り上げて(いかずち)の纏った一撃を放とうとすれば、ここぞとばかりに足を囲んで攻撃してやれば痛みで集中できないのか上手く(いかずち)が纏わりつかない


 結局振り払う様にウォーノーム達を攻撃するが、やっぱり再生して再度同じ場所を攻撃される。もう太ももは赤黒く変色してしまっているし動きも相当鈍くなっている。まだ立っていられるだけ大したものだ


「少年、合図で下がれでかいのをお見舞いするぞ」

「牽制は任せて下さい」


 ハルカさんからの天雷弓の矢が数を増して飛んでくる。威力よりも早さと数に重点を置いているのだろう、上半身を守れば太ももに嫌がらせを受け、腕を振るってウォーノーム達を蹴散らせば矢が飛んでくる


 四方を囲む事は出来ないが上下に攻撃を散らされる事で、防戦一方になるキングトーラス


「少年行くぞ!」


 その声に後ろに距離を取る様に飛び去る。魔法に巻き込まれても問題ないウォーノーム達は太ももへの攻撃を続けている。そちらに注意が行っているキングトーラスは気付かない、ローラさんの魔法が白いキラキラと光る物を生み出した事に


 キラキラと光るそれは辺りの気温を下げながら次第に大きな礫に変わっていく。ゆっくりと奴の周りを下から渦を巻く様に包んでいく、それが腰のあたりまで来た時だった。突然吹き上がる突風が礫を巻き込んで竜巻となって奴の周りを包み込んでいく。あれ程頑強だった身体を礫が斬り裂き白い竜巻が徐々に赤く染まっていく。斬り裂かれ流れ出した血は、そのまま凍りつき傷口に蓮華の花を咲かせていく


「ブモォオオオ」


 叫び声が響いていく。竜巻が奏でだす轟音すらも打ち消すように響くそれは奴の断末魔の叫びか・・・


 やがて声が消え去ると同じように竜巻も静かに収まっていく。そこに残されたのは・・・


 片手を頭上に掲げ何かを掴もうとする姿勢で苦悶の表情の巨大な氷像


 芯まで凍りついたそれは写実派の芸術家が造り出した氷像の様に、もう動く事の無い作品として、ただそこに立ち尽くしているだけだった。


 やがてピキピキと亀裂が全身に走っていく


「パァン」


 ローラさんが両手を打ち合わせる音が響くと、一瞬で粉々になるキングトーラス。無数の白い細かい粒が篝火に照らされてキラキラと舞い踊る


「綺麗・・・」


 ハルカさんがうっとりと見つめながら呟く


「ファ~よお寝たでぇ、ってグフォ・・・」


 全身を伸ばすように伸びをしながら気が付いたシトールさんを踏みつける様にして黙らせたハルカさん


 そんな事は無かったように、両手を組み合わせて祈る様な姿で舞い落ちる氷の芸術を見つめる姿は絵画にでも出てきそうな姿だった


 足元のシトールさんを除けばだが・・・


読んで頂いて有難う御座います

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