名誉と汚名。挽回と返上・・・
さて準備が整いキングトーラスへと向かう俺達。気合を入れ直したシトールさんは勿論・・・最後尾だ。今回は今迄の汚名返上に前衛で戦うと言っていたのだが、ヘッポコ精神は変わってないらしい。ただこのままの先に進むと、前にいる人間から後ろに回ってキングトーラスを包囲していくので、最後尾にいると相手の正面を担う事になるのだが・・・
「シトールさん。そこにいると正面に立つ事になりますよ?」
「へ?そやかて、ブルーベルが先制するんやろ。やったらその隙に後ろに廻りこんで・・・」
「でも、反撃があったら廻りこめないですよ」
実際いつもは三人同時に飛び込んでいるのだ。そうして俺とポンタさんが左右に別れて間からブルーベルが先制の一撃を入れる。左右に別れた勢いのまま後ろに回り込むパターンが一番多いのだ。三人同時だと誰が攻撃するのか判りにくいので牽制にもなるし包囲の成功率も高い。仮に相手に先制されても俺達は左右に別れて躱すのでブルーベルが攻撃を受け止めている間に廻りこめばいいのだ
「今迄俺達の動き見て無かったんですか?」
「し、しゃあないやろ練習もしとらんのやから・・・」
それで理解したのか前に出てくるシトールさん。とはいえ少しでも前に立ちたくないのが見え見えで、結局は前から三番目のポジションに落ち着いた。そこの場所の方が相手の攻撃も見え難いし動きを察知されて攻撃されやすいのに・・・
まぁ言っても無駄だろう。魔族なんだし俺達よりは防御も高いだろうし正面を受け持って貰うのも悪くない。一応は汚名返上が汚名挽回にならない事を祈っておいてあげよう
俺達が有る程度まで近づくとムックリと顔をあげるキングトーラス。長柄のバトルアックスを手に立ち上がると吹き出す勢いが見えるくらいの鼻息を「ブフォーッ」と吐き出す。そのまま近づく俺達を見やると身体を逸らし天井に向かって気合?、それとも歓喜?込めた意味合いは兎も角大きな雄叫びをあげる
その声を合図に俺達はそれまでの警戒をしながらの並足では無く最高速へとギアを入れ替えての突撃へと変わる。キングトーラスは俺達が近づくのを良しとしなかったのか、大きく跳び上がると俺達の中央に飛び込んでくる。しかも振り上げたバトルアックスを大地に叩きつけるつもりだろう、大きく振りかぶった姿勢での跳躍だ
「回避だ、距離を大きく取って振動と礫に注意しろ」
ポンタさんが指示を飛ばす。この中では一番身軽な俺が前方へと回避。飛び込んでくるキングトーラスの下を前に転がるようにして潜って奴の後ろへと廻りこむ。左右にシトールさんとポンタさんが回避、ブルーベルは突進の勢いを急制動で止めてその場でガードの姿勢を取る。
「ドゴォーン」
轟音と共に大地が揺れる様に振動する。前に会ったトーラスの時とは比べ物にならない揺れが俺達を襲う。迷宮の床が抜けるのではないかと心配になる程だ
「良し、囲め。シトール殿無理はするなよ」
「言われんでも!」
うん!?、その返答はおかしくないか?。そこは「大丈夫だ!」とか「任せておけ!」の場面だろう。言われなくても無理はしないって宣言は如何なんだ?やっぱり汚名挽回、名誉返上になりそうだな・・・
しかし、魔法の使えないトーラス系の魔物だ。幾らキングであろうとも、そこは変わらないだろう。ならば囲んでしまえば、いつもの様に隙をついてチマチマ攻撃を加えていけば問題ないだろう。一名不安も残るのが今回は四人での包囲だし隙をつくのは難しくないだろう
囲まれた事でキョロキョロと、いや血走った眼はギョロギョロって感じだが、兎も角俺達の動きを見極めようとする様に忙しなく視線を動かすキングトーラス。一番死角になる俺から攻撃するのが一番だろう、視線が前に向いた時を狙って膝裏に攻撃を仕掛ける・・・って、硬ったぁ~
ヒット&アウェイが基本なので渾身の一撃では無いのだが、チョロっとしか傷がつかない。膝裏と言う軟らかい部分を狙っての攻撃で、これでは筋肉の盛り上がっている部分への攻撃は意味を為さないのでは無いだろうか・・・
とは言え攻撃された事で意識が此方を向いたキングトーラスは、重そうな長柄のバトルアックスを俺に向かって大きく振るう。しかし空を切る音と風が通り過ぎる斧の軌道から回避した俺は奴の眼を見て挑発するように刀を構え直す。
俺に目標を定めれば当然、奴の後ろ側になったブルーベルがハルバードで膝裏を攻撃する。俺の一撃よりも重たい攻撃に痛みを感じたのか勢いよく振り向く。するとシトールさんが膝裏では無く、脛にバルディッシュを叩きつける。所謂弁慶の泣き所だ・・・有効だと思うが攻撃がセコイぞ、シトールさん
苛立つキングトーラス。誰かに注意を向ければ他の場所から攻撃を受けるのだからその気持ちも十分に判る。だからといって正面から正々堂々と攻撃をしてやる義理は無いのだ。ルビーゴーレム達を前面に出し防御陣地も形成し終わった後衛の三人からも魔法や天雷弓の矢が飛んでくる。伶も魔法での治療の準備を整えている
天雷弓は正確に眼を狙って飛んでくる上にローラさんは目晦ましになりそうな魔法で視界を奪っていく。その上で攻撃の死角に当たる部分からの近接攻撃が加えられて、キングトーラスの攻撃力は奪われてしまったような格好になっている。しかし俺達も硬い皮膚と盛り上がった筋肉に阻まれ有効なダメージを与えられていない。
苛立つキングトーラスは頭上に高々と長柄のバトルアックスを両手で持ち上げる。ここにきて奴が見せた大きな隙だ。丁度後ろ側に廻っている俺とシトールさんが奴に渾身の一撃を叩きこもうと武器に紅い光を纏わせて突っ込んでいく
「いかん!少年。奴の武器に注意しろ!!」
ローラさんが咄嗟に叫ぶ。視線を上にあげると、奴が頭上に掲げる武器がバリバリと放電を始めているではないか。咄嗟に攻撃を中止、剣技の発動中に強引に止めた為に腕に痛みが走るが、構わずに『縮地』で後方に飛ぶように距離を取る
キングトーラスは放電を纏ったバトルアックスをそのまま地面に叩きつける。さっきよりも強い振動と飛び散る礫、そして雷が大地に落ちた様な音と目に見える程の放電が辺りを蹂躙する。飛び散る礫にも雷が纏いつき飛んでくる速度と威力はとんでもない物になっていた
土埃が落ち着き辺りが静寂に包まれる中、片手に持ったバトルアックスを引きづりながらキングトーラスがゆっくりと歩み出す。その姿は暴走した初号・・・ゲフンゲフン。危ない危ない、大人の事情に引っ掛る処だ
奴の前に居て防御を固めていたブルーベルとポンタさん。飛んでくる礫は防せげた様だが放電をまともに浴びた様で痺れて動けないようだ。身体からも白い煙が上がっている処を見ればダメージも深刻だろう。攻撃を掛けていた事で避ける事も出来なかったシトールさんは「あ~よぅ寝たわ」とかボケをかます様子も無いので気を失っているのだろう。キングトーラスに近かったことが幸いして逆に攻撃の余波は少なかった筈だ
後衛陣も放電の範囲外ではあったが飛んでくる礫に少なくないダメージだ。ルビーゴーレム達が盾で受け止めはしたのだが、軽い身体が災いして吹き飛ばされたようだ。飛ばされたゴーレム達にぶつかる形で皆もダメージをおってしまった様だな
つまり動けるのは俺だけだ・・・
切っ先を奴に向けて闘気を高める。それに反応するように奴が此方に目線を向けてくる・・・
やはり楽な戦いにはさせて貰えない様だな。
みんなの状態が回復するまで引き付けるのが役目になりそうだ・・・
大の字で気絶しているシトールさん見る・・・ナティさんにチクっときますからね
ネタでは聞きますが本当に間違える人っているのか?
と思っていた自分がいました・・・
読んで頂いて有難う御座います