シトール大地に立つ?
すいません 遅れました
俺が何かを言う前に宝箱を調べてコチャコチャやっているシトールさん。やがて昨日と同じく「カチャリ」と言う音と共に宝箱の罠が解除されたようだ
「フゥ~これで大丈夫や」
額の汗を拭って如何にも大仕事を終わらせたかの様なシトールさんに声を掛ける
「仕事したフリしても駄目ですよ」
「な、何がやねん。ちゃんと罠とか解除したやんけ」
「その前です。気合入れたフリして戦ってなかったじゃないですか」
「そやかて、ポンタはんもブルーベルも気合十分やったし、一度切結んでるやから任せた方が・・・」
「ナティさんに報告しときます」
「ちょ~。なんでや!ワイが戦わなきゃあかん理由なんて無い筈や。ちゃんと役に立ってるやろ!」
「そうですか~?。なんか、いなくても何とかなりそうな気がします」
ハルカさんにキッパリと言われてしまいガックリと肩を落とすシトールさんだが、いつもここで同情するから駄目なのだ。敢て冷たい視線を向けておこう
「智大君、ちょっといいかな?」
「何かありましたか?タンドさん」
「ちょっと疑問に思ったんだけど、智大君て必ず両手で武器を振るうよね」
「?。まあ刀はそういう物ですから・・・」
「でもさ、鞘からの抜き打ちだっけ?、その時は片手じゃない。それなら片手でも振れるんじゃないの?」
「そう言われても・・・」
「あぁごめん。難癖を付けてる訳じゃないんだ。ただ片手でも振れるなら攻防の幅が広がりそうだなと思ってね。折角立派な小手なのに使う様子も無いから、ちょっと疑問に思っただけだよ」
そのままごめんごめんと謝るタンドさん。言われてみれば刀を振るう時は両手だが抜刀のままの一撃は片手だし鞘走りなんて言葉も有る位だし、威力が落ちたりする訳じゃないんだよな
「ふむ。少年の戦い方はある程度、条件が揃った環境での戦い方に見える時が有るな」
「条件ですか・・・」
「うむ、相手の持つ得物が限られているとか、約束事の中で成長した流派に見える。元の世界の武術ならば魔物と戦う事など想定しておるまい。少し工夫が必要かもしれんぞ」
言われてみればそうだな。道場は実戦派古武術なんて謳っていたが、それとて戦場の乱戦や型に囚われない戦いであって、人型ですら無い魔物や魔法なんかを想定している訳では無い。スキルの存在とかも無かった訳だからこの世界に合った戦い方が有るのかもしれないな
「智大、追々ね。急に変えると却って良くないわよ」
「そうじゃぞ、難しく考えるのは得意では無いのじゃろ。練習で慣れてからが少年には丁度いいのじゃ」
酷い謂れ様な気がする。先程まで感じていた満足感が何処かに行ってしまった・・・
「そんな事よりも宝箱です!」
「遂にそんな事扱いですか・・・」
興奮したハルカさんは失言だろうがお構いなしだ。楽しみなのは判るがもう少し気を使って欲しい。全身を使って大きく手招きをして、皆が宝箱の前に揃うとせ~のって感じで勢いよく開け放つ。今回のお楽しみは・・・
「これなんですか?」
「あちゃ~、出てもうたか。」
大げさに片手で目を覆って天を仰ぐシトールさん。口振りからはこれが何かを知っているようだ
「これはな、素材なんや」
「素材・・・ですか?何の素材ですか?食べれるんですか?」
「判らん。って嬢ちゃんこんなもん食ったら腹壊すで」
「でも判らないってどういう事なんですか?」
シトールさんとナティさんの迷宮に籠っていた時に教えてくれた物と同種らしい。あの時は防具であったが今回は素材って訳だ
「迷宮の宝箱にはセットになってるもんが有るんや」
「セット?」
「そや。全部揃えると追加効果が出てくるんや。兄ちゃんの防具もそやで」
俺の胸当てをコンコン叩きながら説明してくれるシトールさん。つまり、この迷宮で全ての素材を揃えると何かしらの追加効果がある素材が・・・って素材で追加効果???
「そうなんや。素材が出てきても加工せな意味ないやろ。でも何が出来るか判らん素材が揃っても加工の仕方が判らんかったらどうしようもないんや」
「それは・・・」
「しかも、全部言うても防具みたいに数が判る訳やあらへん。結局は迷宮全部探索して隠し扉から何やら全て見つけな正解かどうかも判らへん」
うわ!確かに厄介だ。迷宮を隅から隅まで洩れなく探索してやっと素材が揃ってるかもしれない。しかし場合によっては見つけていない物が在るかも知れないのだ。そこまでしても何が出来るかもどうやって加工するのかも不明・・・それをA級魔境に在る「古き迷宮」で行うとしたら厄介どころの騒ぎでは無い
「まぁ所謂ハズレ当たりやな。」
「そんなぁ~」
「私なら複数揃えば判ると思うわよ。『解析鑑定』と『錬金術』で調べれば大抵の事は大丈夫の筈ね」
「本当ですか~」
シトールさんの言葉に表情を曇らせるハルカさんだったが、伶の言葉に花が咲いたような明るい表情に変わる。コロコロ変わる表情は可愛げのあるハルカさんらしい
「そやかて出来上がるもんが役に立つとは限らんけどな」
「なんで意地悪を言うんですか!もうシトールさんなんてナティさんにクチャクチャにされればいいんです!」
「嬢ちゃん・・・洒落にならんからな、それ」
兎も角、今回のお宝にはあまり期待が出来ない様だ。って元々お宝目当てじゃ無いんだからそこまで気にする事は無いのだ。まぁその辺りは色物コンビの二人の特性だろう。妙な所で似た者同士の二人だな
「その辺で良かろう。本筋を忘れては先に進まんぞ」
引率の先生の一言で宝箱の中身については話を終えて探索へと戻る事にした。大方の予想では、罠が有るだけで門番の部屋までは魔物とのエンカウントは無さそうだが、罠の発見も含めて油断なく先に進む事にしよう
っと予想通りエンカウントは無く門番の部屋に辿り着く。昨日の様に中を確認して戦闘と行こうか。時間的にもこの後は野営になるだろうから出し惜しみは無しだ。サクッと倒してゆっくりと休みたい物だ・・・
ゆっくりと門を開けると一階と同じように途中から自動で開いていく。他のメンバーは入り口の所で待機してもらって偵察も兼ねて俺が先に進むのも昨日と一緒だ。
案の定、一階と同じように蹲る様にしている魔物の姿が見えてくる。バフォメットは顔を上げるまで正体が掴めなかったが、今回は何と無く判る。特徴的な角と脇に置いて有る長柄の先に付いている両刃の斧。こんな重量武器を振り回すとと言ったらあいつ等しかいないだろう・・・そうトーラスだ。ナティさんが作った迷宮にも用意した魔物でもあるが、あれと比べると二回りは大きいのではないだろうか。蹲ったままなので正確な事は判らないが奴が顔を上げる前に戻って皆に報告する
「トーラスか・・・まぁ定番って言えば定番なのかな?」
「でもかなり大きいですね。前に出会った奴より二回り位大きいです」
「って事はキング?になるのかな。トーラスキング?それともキングトーラスかな」
顎に手を当てながら如何でもいい事を悩むタンドさん。でもキングトーラスの方が特撮物の怪獣の様で個人的には好きだ
「ほら少年。きちんと話に参加しろ」
先生に怒られた・・・
取敢えず作戦なんかは要らない相手だろう。基本的にというか力押しオンリーの相手だ。魔法を使うトーラスなんて聞いた事が無い。注意しなければならないのは地面に打ち付ける一撃だろう。大地が揺れる程の振動でスタンしてしまう事が有るのと、飛んでくる砂礫でのダメージに気を付けないとあの巨体ならばどれだけの規模になるのか想像も付かない
いつも通りの包囲してのチクチクとダメージを積み重ねる攻撃で良いだろう。デーモンとの時の様な派手さは要らない戦いになるだろう
部屋に突入する前にバフやステータスアップの魔法等を重ね掛けしていく
今回はシトールさんも前線に参加するそうなので何時もよりも楽に捌けるかも知れない
油断せずに確実に倒せるよう気を引き締め、部屋の中央に蹲るトーラスへと向かっていくのであった
読んで頂いて有難うございます