物理攻撃無効?
すいません。少し遅れました
翌朝、ゆっくり起きて身体の調子を確かめる。属性解放した影響は特に無さそうだ。スラちゃんも分離したりした割には普通通りにしているので特に問題は無いのだろう
「おはよ。ご飯の準備できてるわよ」
「ああ、おはよう。昨日のご飯は美味しかったもんな」
「まだ、残りも有るから温め直しといたわ」
昨日の晩御飯には念願のオーク肉を振る舞ってくれた伶。ハイオーク達と戦った時に迷宮に吸収される前に確保してあったそうだ。そのままにしておくと迷宮に吸収されるのだが、剥ぎ取って袋等に入れてしまえば大丈夫と言う迷宮の不思議現象なのだが、本で読んだことが有った伶が俺の為に獲っておいてくれたらしい。
大森林で出会った時は手持ちが一杯という事もあって諦めたのだが、悔しそうにしていたのをちゃんと見ていてくれた様だ。
噂のオーク肉の感想はと言うと・・・もう至福の一言だった。オークと言うとブクブク太った上に醜い見た目がアレなのだが、その肉は案外脂身は少なく引き締まった歯応えと肉汁がから溢れだす甘みが、今まで食べた事の無い味わいを醸し出していた
シンプルに焼いただけのオーク肉はサッパリしているのにガツンとくる満足感を齎し、シチューにして煮込んだそれは全体に濃厚な味わいを広げつつも、歯応えと甘みで存在感を主張するのだが、一緒に煮込んだ他の素材を邪魔する事無く、寧ろ引き立てるような味わいであった
昨日の夕食を思い出し、また涎が出てくるのを押えながら伶が運んできてくれた朝食に目を向けると・・・
温め直したシチュー。まぁこれはいい。昨日も食べて絶品だった
更に乗ったもう一品を見て期待感がバク挙げになった。オーク肉をスライスして適当な厚みにした物を焼き上げてパンに挟んである。一口噛り付いてこの味は照り焼き!?そして垣間見える白い酸味を齎す・・・これはマヨネーズだ!
噛り付いたパンと伶を交互に見ながら咀嚼するのは辞めない。眼で訴えかける俺に伶が説明してくれる
「流石にハンバーグって訳にはいかなかったけど、ソースとマヨネーズは作ってあったからね。日本にいた時も好きだったでしょ」
にっこり微笑みながらも、幾分ドヤ顔をしている伶。異世界でも照り焼きとマヨネーズは鉄板の味付けだ。しかもオーク肉から溢れだす味わいが絶品の照り焼きハンバーガーを造り出していた
「ふむ、ハンバガーと言うのか。これはいいのう」
「ハンバーガーですよ」
「ムシャ、そんな、ムシャ、名前ング、なんてどうでも、ハァいいです。もっと欲しいです」
「オーク肉が足りないのよ。昨日もすごい勢いで食べちゃったから」
ハルカさんが、口の中に詰め込みながらも必死で訴える位に美味しいのだ。残念ながらもう在庫が無い様なので一人一個だけだが、シチューも有るので朝食としては重たい方に入るだろう
「シトールさん。この後もオークは出てきますか?」
「そんなん判る訳ないやろ。まぁ出てきたら最優先で素材の確保やな」
色物コンビがオーク肉への執着を見せる中、年長組は落ち着いたもので綺麗に食べつつもそこまでテンションは上がってない様だ
「ま、無理しない程度にね。オーク肉に拘って怪我したら元も子も無いからね」
「ロダの魔境は無理だが、他の場所でもオークは出るから改めて狙えば良かろう」
「駄目です!ハイオークのお肉を狙うのです!!」
ハルカさんの食い意地が此処までとは・・・この後の探索では気を付けておかないと危なそうだな
朝食を終わらせて、次の階層へと続く階段を下って行く。ボス部屋という事でかなり安全が確保されていたので不要な荷物の一部も置いておくことにした。帰りに回収していけば問題の無い物ばかりだし少しでも荷物を減らした方が戦闘などでも有利になるだろう・・・オーク肉も回収しなければいけないしな
階段を下りていくと少し広場の様になっている。その広場から通路が一本伸びていてと・・・迷宮事態の構造はそう変わらない様だ。昨日の様に隊列を組みつつ慎重に進んで行く
「ちょい待ち!罠や」
短いながらも鋭く声を挙げるシトールさん。造りとしては簡単な物らしいが警戒しないで足を踏み入れると頭上から矢が飛んでくるタイプの物みたいだ。
「まぁ初歩の罠やな。気ぃ付けとったら問題ないタイプや」
「そうなんですか?」
「厄介なタイプやと罠を解除するともう一つの罠が作動するとか、魔法を使って隠蔽してあるタイプとか色々有るんやで」
役に立つ事を必死にアピールしてないか?ナティさんに昨日の事をチクられない様に大げさに言っているだけの様な気もするのだが・・・
シトールさんが解除してくれた罠を避けながら慎重に進んで行く。どうやら複数の箇所に罠が仕掛けられているようだ。少し進んでは罠を見つけてと言った感じで魔物は出てこないのだが、中々前に進んで行かない
「どうやら結構親切な迷宮の様じゃな」
「親切?」
「ふむ、徐々に慣らしてくれているという訳か」
一階は罠などなく通路にも魔物は出なかった。二階は罠が設置してあるが通路に魔物は出ない。三階になれば・・・って事なのかな
曲がり角や分かれ道等も注意しながら進んで行くが基本的には罠が有るだけで、一階と同じような構造みたいだ
どうやら、宝箱の出る部屋の様な物を見つける。一階と同じく複数の魔物の気配が有るのだが部屋から出てくる様子は無い。門の様な物も無いので宝箱に期待できそうだ
「どれどれ~」
軽~い調子で精霊達を使って部屋の中を調べてくれるタンドさん。
「残念。オーク達はいない様だね。この反応はインプかな?そうだとすると魔法も使って来るから注意が必要だよ」
「オーク、いないのですか・・・」
狙っていた魔物がいない事に気落ちするハルカさん。気持ちは若干判る。ゲームなんかで狙っている素材を探している時に雑魚モンスターばかりだと気が滅入るのと同じだな。まさかリアルでそれを感じる時が来るとは思っていなかったけど・・・
「魔法に注意と言う事なら、儂の障壁から出ない様に気を付けるか狙われない様に動き続けるかじゃな」
「ブルーベルなら気にしなくてもいいかな?ただインプみたいな低級の悪魔だけって事は無いだろうから注意してね」
ローラさんとタンドさんという魔法戦の得意なメンバーからの注意に頷いて部屋に入る。基本ブルーベルと俺は障壁の外で、ポンタさんやシトールさんは障壁の内側で戦う事になるのかな?
部屋に入る前に魔力を高めていくローラさん。先制の一撃をお見舞いするつもりらしい。俺達が部屋に入るまで反応しないのだから、数を減らす為にも丁度いいだろう。卑怯?戦略と言って欲しいな、って誰に対して言っているんだか・・・取敢えずそんな事を思いつつローラさんの魔法の完成を待つ
無詠唱では無い、きちんと詠唱も魔力もたっぷり込めた一撃だ。
それが準備できたタイミングで、俺とブルーベルが部屋に飛び込むと気が付いたインプ達がこちらを指さし何かを叫んでいる。お構いなしに間合いを詰める俺とブルーベルを追い越すようにローラさんの魔法が炸裂する
爆発に指向性を込めた炎の塊。着弾と共に吹き荒れる炎が広がる様に魔物達の方へ向かっていく。同時に渦を巻く風が吹き込む事で炎に勢いをつけ天上の高さまで噴き上がる。魔法で創り上げた火災旋風が一纏めにインプ達を焼き尽くす。風を送り込む事で輻射熱がこちらに来ないよう、しかし固まっていた魔物達を残さずに炎の渦に巻き込むよう計算された素晴らしい魔法だった。
俺とブルーベルが間合いを詰め切ると同時に炎の竜巻は姿を消し去る。後に残っていいたのは・・・
「デーモン・・・」
「少年、気を付けろ。物理攻撃無効を持っているぞ!」
物理攻撃無効ってどうすればいいの?もう間合いも詰めちゃったし最初に言っておいて欲しかった・・・
炎から身を守る様に背中に生えた翼で全身を覆っていた奴らが顔を覗かせる。無謀にも武器で斬りかかってくる俺達を見て笑ったように顔を歪ませる。
考えていても始まらない。刀に闘気を込めて勢いも乗せた斬撃をお見舞いしてやろう
駄目なら他に考える。どうせ難しい事は考えるだけ無駄なのだから
決意と共にデーモン達に向かっていく俺達だった
読んで頂いて有難う御座います