衝撃の事実3~新たな誓い
「そっか俺の想像とは大分違った訳だ」
「そうね、今では簡単な攻撃魔法や障壁も魔道具で出来るらしいわ」
大型の獣や魔獣もゴーレムを操りながら障壁を張り、後ろから攻撃すれば済むので警備も女性が少人数で十分らしい
国家間の戦争なんて、お互いに障壁を張るので実際には範囲魔法なんか弾かれる。
戦争になっても長引くだけで決着なんかつかない訳だ
どうせ長引くならば戦争より話し合いの方が良い訳だから平和にもなるよな
「まぁ、人間族の男性には不幸かもしれないけど平和で便利になったのなら問題はないのかな」
「その人間族の男性の中に智大も入っているのを忘れてない?」
そうだった。この世界にいる以上、俺も役立たずな存在になるのか…
いや、でも俺も使徒なわけだしユニークスキルも持っているのだから、役立たずって事はないでしょう
「智大、ちょっと部屋の扉を開けてみて」
「ん!?空気でも入れ替えるのか?」
突然の伶の言葉に不審に思いながらドアノブを廻…らない
ガチャガチャ
何度やっても廻らない
「扉はいいから今度はこっちの明かりを点けて貰える?」
不安になりながらスイッチを押すと…点かない
「実はね、この扉も明かりも魔道具なの」
確かに鍵穴なんか無いし明かりには電気のコードも火をつけるところもない
部屋を出る時にドアノブを握ると魔力が流れ、同じ魔力を流すと開く仕組みになっている
明かりも魔力を流す必要があるという事らしい
「いや、確かに俺の魔力は平均以下だったけど、ゼロじゃなかったぞ」
「そうね、この世界で人間族の男性はかなり魔力の弱い部類よ…、智大はその魔力の弱い部類の平均以下って事よ」
うわ!?言われてみるとやばいかも!? 最底辺の平均以下って事か…
そういえば、魔法の鞄も開かなかったよな
でも、扉を開けるとか明かりを点けるのに、そんなに魔力が要るのか?
疑問を口にする前に伶が腕につけた腕輪を指さす
「もしかしてこの腕輪も魔道具?」
「たぶんね。言葉もそうだし時間とか距離とかの単位が元の世界と同じはずないのに通じちゃうのよね」
そうか、俺のなけなしの魔力はこの腕輪に消費されているのだ
それならば…って外れない
これ一度つけたら外せないの?あんの駄女神さまきちんと説明しとけよ
…はい、説明を聞いてなかったのは俺でした
「そっか、武器も防具も無い魔法主体の世界で魔力の無い俺は役立たずって訳だ…」
「智大その役立たずってのも勘違いよ」
「でも、さっき神官さんが我々は役立たずですからとか言ってたぞ」
「あら、さっきの女性たちも家に帰ると旦那さんとラブラブよ」
伶の説明によると、男女の役割が逆転しているだけで俺達の世界とそう変わらないらしい
まず、女性の方が魔力が強いが男性だって使えない訳ではない。
しかも魔道具のおかげで、仕事自体はすぐ終わるので家で過ごす時間の方が長いのだ
比較的、魔力の消費が大きい物を女性が、消費の少ない物を男性が担当しているので結果として家の中の事を男性がやっているだけらしい
壁際に給仕役の男性が並んでいるのを見ると違和感があるが、メイドさんが並んでいると思えばおかしい事はない
昭和の時代に宴会の席に女性が座らないのと同じで、この世界では男性が座るのがおかしな事だったのだろう
「しかし、伶の口からラブラブとか聞けるとはなぁ~」
「な、なによ人が折角…」
伶が言葉を飲み込む。
そう、伶は俺を慰めてくれているのだ。
この世界の男性が役立たずではないとしても、使徒として世界の危機を救うのに俺の力が役に立つかどうかは別の話だ
伶のその気持ちを察したからこそ、茶化してみたのだが伶は真剣な眼差しを此方に向け、俺の顔を挟み込むようにして固定する
そして、俺の目を見つめながら言うのだ
「智大が私を守ろうとして、スキルを選んでくれたのは判っているわ。でもね小さい時の私とは違う、今度は私が守る」
「伶…」
そのまま、俺の頭を胸に抱き時が止まったように動かない二人
暫しそのままでいた後、俺を解放して伶が話し始める
「それにね、智大のスキルや能力も役に立たない訳じゃないかも」
「だって、世界の危機が何なのか判ってないんだもの。何が役に立つのかなんて判らないのよ」
確かに何が役立つか判らない以上、身体能力自体が頼りになる事もあるだろうし道場で組打術、いわゆる格闘技も仕込まれている
石や鉄で出来たゴーレムを素手で倒せるとは思わないが、野生の獣なら何とかなるかもしれない。
「でも武器が無いのはなぁ~」
「あら、無ければ造ればいいのよ」
「造る?」
「何のために『練成術』なんて取ったと思うのよ」
伶が女神さまに話を聞いて真っ先に思ったのは二人で強力な魔法を覚える事だったらしい
ただ、強力な魔法は魔力の消費も大きい、魔力が切れたとき回復する方法はあるのか
戦闘で魔法が効かなかったらどうすればいいのか
そもそも、敵を倒して解決する種類のものなのか
結果、危機の種類も判らない状態で攻撃に特化するのは危険だという結論に達したらしい
それならば、オールマイティーな能力にしなければ…と考えていた時に俺が勝手にスキルを決定したらしい
「智大が尖った能力にしてくれたおかげで私はスキルを決めやすかったわ」
「尖ったって…」
「いいのよ、私たちは二人で一人の使徒よ。智大にももう少し魔力があった方が良かったけどね」
伶は俺の能力を見て足りない部分を補う事に決めたらしい。
決めやすかったと言っているが、スキルを決めるのにかかった時間を知っている俺はそれが違う事を知っている
「智大が前で戦うなら、戦う前の準備は私がするわ。傷ついたなら直ぐに治してあげる。考えるのが苦手なら私が考えてあげる」
「おう!俺はバカだからな考えるのは苦手だ」
「そうね。それで頑張っても駄目なら、二人でこの世界で生きていきましょ。私が養ってあげる」
「専業主夫だな」
「あら、魔道具を使えないんだからヒモでしょ」
伶の言葉に沈んでいた気分が軽くなる。
俺が伶を守るだけではないのだ。伶も俺を守ってくれる。
二人なら世界の危機も何とか出来そうな気がする。駄目なら伶に養ってもらう
新たな誓いを胸にして心も軽くなった俺は何時もの自分に戻れた気がする。…明日から頑張ろう
(あれ、これだとヒモ宣言になるか!?…)
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