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【転章】 古山章三3

 ーー僕の人生はなんだったんだろう。


 巨大な闇の光線に飲み込まれながら、僕はふと、そんなことを考えていた。


 古山章三。

 それが僕の名前だ。


 昔から友達はほとんどいなかった。だがそれを苦に思ったことはなかった。ひとりが好きだったから。ひとりが気楽だったから。


 変化が訪れはじめたのは、小学校の高学年くらいか。


 どうも僕は《普通》の人間ではないらしい。

 顔も醜いし、言動も気持ち悪い。

 僕の何気ない行動すべてが、同級生たちには気味悪かったようだ。


 僕は避けられるようになった。特に女子には菌のように扱われた。僕は人間と見なされなくなった。


 ひとつひとつのいじめが、克明に思い出せる。


 坂巻信二の肩パン。

 教室でズボンを降ろされたこともあったっけ。

 それを見て女子が悲鳴をあげて、男子はニヤニヤ笑ってて……


 いつしか、僕はそんな彼らを敵視するようになっていた。


 僕はなにもしていない。彼らに危害を加えることもしていない。だけどいじめっ子ーーいや、犯罪者たちは、僕を迫害すべき敵と見なして、虫のように扱ってくる。


 意味が分からなかった。

 殺してやりたかった。


 いったい僕がなにをしたんだ。

 なんでそんなに嫌われなくちゃいけないんだ。


 顔が醜いって、それだけで罪に値することなのか。

 それを問いつめてやりたかったが、しかしそんな勇気もなかった。僕はただいじめられる毎日を過ごしていた。


 そんな状況にあって、親だけは大きな存在だった。


 父は友達のいない僕を察して、なにも言わずに欲しいゲームを買ってきてくれたりする。そのゲームでストレスを晴らしていた。


 だけど。


 ある日、そのゲームより、もっと刺激的なものを手に入れた。


 魔法の力だ。


 このパワーさえあれば、いじめっ子に復讐することができる。

 散々僕を痛めつけてきたあいつらを、本当に殺してやることもできる。


 やってみたくなった。

 特に《犯罪者》のリーダー、坂巻信二は、何度殺しても足りそうにない相手だった。


 ーー殺してやろうか。

 そんなことを考えている自分に気づき、ぞっとした瞬間もある。


 この考え方。

 まさしく《犯罪者》そのものだ。僕はあいつらとは違う。あいつらのようにはなりたくない。本当に殺してはいけない。


 そんな葛藤は、もろくも崩れ落ちてしまった。

 坂巻信二が、なかば本気で僕を殺しにかかってきたからだ。あのときは冗談抜きで死ぬかもしれないと思った。


 なかば正当防衛だった。僕は魔法を使用し、坂巻を一瞬にして殺してみせた。


 可視放射によって胸を貫かれた坂巻は、最期に醜くあえぎ、そして動かなくなった。


 ーー本当に、死なせてしまった。

 そんな恐怖は数秒で吹き飛んだ。


 これでよかったのだ。

 そうしなければ自分自身が死んでいたのだから。もしかすると、今後、坂巻によって殺される人間もいたかもしれないから。


 だから、僕がやってやるんだ。


 いじめのない世界の創造を。

 いじめっ子のいない世界を。

 そのためには力が必要だ。何者にも負けない強大な力が……





 ぼくは間違っていたんだろうか。

 ぼくは一般の人には魔王でしかなかったんだろうか。

 



 散々いじめられてきたのに、ぼくの仕返しは、果たして許されないことだったんだろうか。




 誰か、教えて欲しい。

 だれか

 


 そのとき気づいた。

 僕の隣には、もう誰もいなかったことに。


 

 

 

 

 

 


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