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仲間

 身体の節々が切り刻まれていく。

 全身に細い傷が無数に生じる。


 身体が熱かった。

 俺は泣いていたのかもしれない。

 こんな激痛は初めてだ。


 逃げだしたい。


 しかし、次々に襲いかかってくる刃物に足を取られ、まともに動くこともできない。むろん《空間転移》で逃走する余裕もない。


 視界の外周が血の色に染め上げられる。WARNINGという警告文が視界に映る。


 どこかで俺の名を呼ぶ声が聞こえた。

 育美だ。

 俺の名前をかなりの声量で叫んでいる。


 返事はできない。

 口を開けてしまえば、瞬時にして刃が口内に入ってくる恐れがあるからだ。


 ほどなくして、その声はぴたりと止んでしまった。

 あちらこちらで、大勢の悲鳴が聞こえる。そのなかに育美の声もあった。


 テロリストにやられたか。あるいは彼らもガラス片に巻き込まれたか。


 わからないが、ひとつだけはっきりしていることがある。


 この戦いは俺たちの負けだ。

 ステータスがカンストに達している俺が負けてしまえば、もう古山に適う者はいないだろう。俺の仲間たちは、大魔王の手によって、残らず刈り尽くされることになる。


 俺のHPはもう残りわずかだ。

 にも関わらず、この好機を逃すまいと、刃が容赦なく襲いかかってくる。短期決戦を望んでいたのは古山も同じだということか。


 終わったーーなにもかも。

 

「そう簡単に諦めるなんて、吉岡くんらしくないよ」


 ふいに女の声が聞こえた。


 と同時に、ぴたりと破片の攻撃が停止する。

 古山が何者かの攻撃を受けたらしい。呻き声が小さく聞こえた。


 誰だ。

 いったい誰がこんなことをーー


「久しぶりね。吉岡くん」  


「あ……」


 この声。間違いない。


「高城……高城なのか?」


 切れた唇をかろうじて動かしながら、俺はそれだけを告げた。

 薄目で声のした方向を見やると、部屋の出入り口に、懐かしい少女の姿。


 高城絵美は小さく微笑んだ。


「そ。また会えるなんて思ってもいなかったけどね」


「おまえ……なんで……」


 一時的にせよ古山を怯ませたのであれば、あの高城は間違いなく魔法が使えるはずで、つまり、死んだはずの高城絵美ということになる。異世界の彼女とは違う。


 俺が黙りこくっていると、高城は驚愕の一言を告げた。


「あなたが生き返らせてくれたのよ。たしかーー《神》っていうスキルだっけ?」


「あ……」


 思わず素っ頓狂な声を発してしまう。


 俺がレベル90で手に入れたチートスキル、《神》。


 その力は万象一切を治癒させ、壊れた街さえも一瞬で蘇らせるほどに強力だ。


 そして俺はさっき、古山たちから被害を受けたすべてのものを蘇らせるようにスキルを発動した。


 つまり、高城絵美までをも蘇生させたのだ。



「彼女だけじゃないぞ。俺もいる」



 また新たな声が聞こえた。

 高城の隣に並んだその人物を視認したとき、俺はまたも素っ頓狂な声をあげそうになった。


 佐久間祐司。

 彼もまた、さっきの俺の能力で蘇ったらしい。眼鏡の中央部分をくいっとおさえながら、不敵に笑いかかってくる。


「古山さんはそう簡単に勝てる相手じゃない。だから呼んできたよ。俺の《使役》の力でね」


「え……」


 ガタガタガタ、と。

 おびただしい数の足音が近づいてくる。


 まさかーー

 思いがけず鳥肌が立ってしまった。


 佐久間の背後に、かつて俺と相対した敵ーー埼玉警察署の職員が数えきれないほどにいたからだ。


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