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いじめられっ子の欲するもの

 レベル90に達したとき、古山が手に入れたスキル。


「それは《使役》だよ。相手のすべてを、自分の意のままに操ることができる」


 その話を聞いて、俺は首を傾げざるをえなかった。

 使役。

 闇魔法使いの得意とする力。


 たしかにチート級のスキルだし、ここ「光世界」では特に重宝する力だろう。 


 だがーー

 それだけ、なのか。


 レベル90という境地に達したにしては、あまりにも安い見返りだ。第一、こっちの世界の佐久間とて同じことができたではないか。


 そんな俺の思考を先読みしたかのように、古山は続けて言葉を発した。


「いや、正確にはただの《使役》じゃない。すべてのものが、僕に絶対的な服従を誓うことになるのさ。ーーこんなふうにね!」


 パリン、と。

 乾いた破裂音が鳴り響き、俺は思わず首を竦めた。


 目を向けると、異様な光景がそこにあった。

 視線の先にはーー割れた窓ガラス。


 それも奇妙なことに、無数のガラス破片が宙に浮いているのだ。まるで破片のひとつひとつが意思を持っているかのように、ひらひらと不規則な動きを繰り返している。


 まさかーー

 氷のような戦慄が、俺の全身を貫いた。


 古山は言っていた。

 相手のすべてを、自分の意のままに操ることができると。


 その対象は、人だけに留まらず、まさか無生物までーー


「そらよっ!」


 古山が勝ち誇ったような顔で片手をひょいと振る。

 それにつられたかのように、無数のガラス破片が急にあちこちに飛来しはじめた。


 その姿……まさしく舞い散る桜のよう。


 俺は内心で舌打ちをし、思い切り駆け出した。


 古山の狙いは見え透いている。

 無差別にガラス破片を使役し、どこかにいる俺を攻撃することだ。そんな手に引っかかってなるものか。


 しかし、古山のほうが一枚上手うわてであった。

 応接室のすべての窓ガラスや、シャンデリアのガラスの破片など。


 室内にある、凶器となりうるすべてのものが空を漂っている。


 逃げ道がない。俺は無意識のうちに立ち止まっていた。


 そんな馬鹿な。

 いったいどれだけの物を使役しているというのだ。


「これが僕の最後のスキル、《王者》さ」


 古山は天を見上げながら、両手を広げ、恍惚とした表情で言った。


「いじめっ子の呪縛から解き放たれて、今度は僕が王になる! 誰も僕の支配からは逃れられない!」


 王者の力。

 それこそは、長きにわたっていじめられ、ついに人間嫌いになってしまった古山が、心が欲していたものかもしれない。


 逃げ道はなかった。どこをどう逃げようとも、無数のガラス破片が宙を漂っている。


 そして。

 ついに、破片の塊が俺の身体を捉えた。


 避けることなど不可能だった。次から次へと襲いかかってくる刃のごとき攻撃に、俺はなすすべもなく直撃した。


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