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チート VS チート

 ふわりーー


 闇色のオーラが俺を優しく包み込んだ。ほのかな温かさを肌に感じる。


 それと同時に、

「なっ……」

 古山が困惑したように目を見開いた。


 当然だ。

 チートスキル《闇の衣》は、使用者の姿を完璧に消してしまう能力である。相手がいかに最悪の大魔王であろうとも、いまの俺の動きは見切れないはずだ。


 そして。

 さっきまで拮抗状態にあった剣の押し合いは、簡単に決着した。


 俺の剣が思い切り白銀の剣を押しのける。その反動で、古山の半身が大きく仰け反った。


 ーーいまだ!

 俺は残ったほうの剣を高々と振りかぶり、奴の胸を切り裂くーー


 はずだった。


 俺の剣が古山を浅く抉った瞬間、またもガキンという金属音が響きわたった。


 さすがは古山章三。

 体勢を崩しながらも、直撃だけは防いでみせたようだ。俺の剣先は、古山の斬撃によって完全に軌道を逸らされた。


 この反応速度。そして対応力。

 透明状態になった俺にも引けを取らないとは、さすがの一言に尽きる。


 おそらく、俺の剣がわずかに奴の胸に達した時点で、攻撃軌道を瞬時に予測したのだろう。


 本当にすごい奴だ。正直言って笑えない。


 俺は大きくバックダッシュし、古山との距離を取った。

 まだ《闇の衣》は解除していない。こうしている間にもどんどんMPはなくなっていくが、出し惜しみして勝てる相手でもない。


 頬を冷や汗が伝う。

 まずい状況だった。


 さきほど古山が言っていたように、戦力的には敵のほうが圧倒的に有利だ。普通に戦ったところで勝てやしない。


 となれば、俺がいち早く古山との戦いを終わらせて、あとは《光の魔法陣》で敵を掃討するしかない。戦いが長引けば、それだけこちらが不利になる。


 できれば、いまの一撃で古山のHPを半分は削っておきたかった。


 しかし、いま古山の頭上に浮かんでいるHPの残量は、まだ絶望的なほどに残っている。戦いはまだまだ長くなりそうだ。


「ふん、なるほど。姿を消すスキルか。君はいっぱいスキルを持ってるようだね」


「…………」


「うらやましいよ。僕はたいして持ってない。《転移》と《光の双剣》、あとは変なトランプのスキルだけさ」


 姿を消したまま、俺は呆然と古山の話に聞き入っていた。


 なぜだ。なぜみずからの手の内を明かすようなことを言う。それだけ自分が不利になるとは思わないのか。


「そういえば、君はさっき不思議な力で街を癒していたね。たしか《神》っていう名前のスキルなんだって?」


「…………」


 あくまで俺は答えない。喋れば自分の居所が知られてしまう。


 そう。

 レベル90に達したとき、俺は謎のスキルを手に入れた。その名も《神》。正直ダサいネーミングではあるが、しかし同時に、俺の中二心をも揺さぶった。


 効果は治癒。

 万象一切を回復する力。

 生き物であろうとなかろうと、問答無用で治癒させる化け物スキル。


 俺はさっき、古山たちによって被害を受けたすべてのものを蘇らせたわけだ。


「それもずるいスキルだよねえ。ーーでもさ、僕にももうひとつ、あるんだよ。レベル90に達したとき、僕は《それ》が使えるようになった」



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