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彼女との出会いが、俺のすべてを変えた

 夕暮れ。


 烏の鳴き声が切なく響きわたっている。児童たちのはしゃぎ声がそこかしこで聞こえる。


 夕陽に照らされた住宅街を、俺と彩坂は手を繋いで歩いていた。


 自転車は学校に置いてきた。いまはもう、一時たりとも彼女から離れたくなかった。


 現在、別世界はどうなっているのか。

 俺の父親はどうなってしまったのか。


 それらを考えると、どうしても抑えがたい恐怖感が襲ってくる。耐えられなくなる。


 俺はすがるように、彩坂の手を握りしめる。そうするだけで、心が温まる気がしたから。彼女の全存在を感じ取っていたかったから。


 彩坂とて自転車で登校している。それなのに、俺のわがままを笑顔で引き受けてくれるなんて。本当に、俺にはすぎた恋人だ。


 決戦の日は明日。

 本来は学校に行かなければならないが、そんなことを気にしてはいられない。

 明日の午前九時に、佐久間たちリベリオンと落ち合い、一斉に現実世界へと転移する。


 俺はそれまでに、しっかり休養を取り、ステータスを万全にしなければならない。


「あ、あの……」


 ふいに彩坂が言った。


「あのね。ひとつ、言いたいことがあって」


「ん?」


 俺が見つめると、彩坂は頬を桜色に染め、俯きがちに答えた。 

「改めて言うのもなんだか変だけどさ……会ってくれて、その、ありがと」


 これはまたすごいことを言ってきたものだ。俺が戸惑っていると、彩坂は続けて言葉を発する。


「私、あなたに会えてちょっとは変われた気がする。いままでは人と関わるのも嫌だったのに」


「そ、そうか?」


「うん。だって私、最初はあなたともろくに話せなかったでしょ?」


 言われて思い出す。

 たしかにそうだ。昔の彩坂は、緊張しているせいか、俺ともまともな会話が成立しなかった。


 それがいまや、こんなに自分のことを話している。

 ーーまあ、恥ずかしがり屋なところは治ってないが。


「素の自分を出せるのは、まだ吉岡くんだけだけど……。でも、あなたは私の人生を変えてくれた。だからーーありがとう」


「はは。大げさだよ」


 それに、俺だって彩坂に出会ってから変わった。


 きっと彩坂との出会いがなければ、俺もリベリオンの構成員のひとりになっていたかもしれない。あるいは、古山の手によってすでに亡き者にされていた可能性もある。


 彼女との出会いが、俺のすべてを変えた……


 そう思うと、急に胸が締め付けられる気がした。彩坂育美という少女がどうしようもなく愛しくなって、だから彼女のことをもっと知りたくなって。


 だからかもしれない。

 俺は人生で初めての、大胆な発言を口にした。


「今日は俺の家に来ないか? うまい菓子があるんだ」


「え……?」


 菓子というのはただの口実。

 それくらい彼女もわかっているだろう。俺たちももう子どもではない。


 だが、彩坂は桜色の頬をさらに色濃く染めながら、やがてぽつりと呟いた。


「……はい」


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