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コンプレックスの塊

「……くん! 吉岡くん!」


 甲高い声が聞こえてくる。

 と同時に肩を揺すられ、俺はうっすらと目を開けた。


「うっ……」


 呻きながら上半身を起こす。


 見渡すと、佐久間を含め、リベリオンの構成員たちが俺を囲んでいた。どうやら気を失っていたのはほんの数秒らしい。


「古山は……どうなった?」


「吉岡くんが倒したんだよ……ほんとに、無事でよかった」


 言い終えるや否や、がっしりと柔らかな感触に包まれた。彩坂がぎゅっと抱きしめてきたのだ。


「え……おい、おま……」


「私……怖かった。吉岡くんが、いなくなっちゃうかもって……」


 その背中に手をまわそうとしたが、ギリギリのところで抑えた。こんな衆人環視のなかでできることではない。


 それに。

 俺は油断せずに周囲をぐるっと見回した。


 古山は倒せたが、しかしリベリオンの構成員は残っている。まだ気は抜けない。


 だがその警戒心も、次の瞬間には霧散した。佐久間が切なげな表情で声を発したからだ。


「大丈夫さ。俺たちはおまえを襲わない」


「え……」


「みんな気づいたのさ。自分のやってることの馬鹿らしさにな」


 なにがなんだかわからない。

 俺が首を傾げていると、佐久間は「ま、みんなおまえの頑張りに胸を撃たれたってことさ」と意味深に言った。


「お、おう……」


 俺もぎこちなく返答する。


 ただ、連中が襲ってきそうにないことは事実だった。さっきまでの敵意丸出しの視線はどこへやら、みんな複雑な表情で俺を見下ろしている。そうでなくとも、俺が気絶しているときになにもしてこなかったのだ。


 俺は胸元で泣く彩坂の頭を撫でながら、佐久間に目を向けた。


「教えてくれ……古山はいったい、なにがしたかったんだ」


 いじめっ子ーーもとい《犯罪者》への復讐。

 古山を突き動かしているのはそれだけではない気がした。


 ただ復讐のためだけに、人を殺し、大勢の配下をも引き連れ、巨大なタワーまで創造する。


 それらは、単なる復讐の域を越えている。


 リベリオンのナンバー2は、数秒間考え込む素振りを見せた。やがて、眉根を寄せながら答える。


「目的か……少なくとも、リベリオン発足の当初は《犯罪者への復讐》だったはずだ。だが、次第におかしくなっていたことは否めない。古山さんは強くなりすぎた。いまでも覚えているのが、俺と話しているときの、古山さんの言葉だ」


 言葉……?

 佐久間の話に、全員が耳をかたむけていた。重厚な沈黙が周囲に満ちる。


「僕は日本を支配するーー真面目な顔で、彼はそう言ってたよ」


「日本を……支配だと……?」


 仰天のあまり、俺は目を丸くした。


 日本の支配。《いじめっ子への復讐》から、とんだ飛躍を果たしたものだ。


 だが、単なる笑い話では済まされない。

 実際にも、別世界での古山は、埼玉の警察署を制圧しようと陰で動いていた。


 そう。

 望み行動すれば、たとえば政府高官を《使役》し、日本を裏で操ることだって可能なのだ。


 ひやりと冷たい感覚が全身を貫いていく。


「まあ、ありえない話ではないだろう」


 と佐久間が話を続けた。


「もともと古山さんはいじめられっっ子ーーコンプレックスの塊だ。そんな人間が強大な力を手に入れたら、どんな勘違いしてしまうのかもわからない」


 さっきの俺たちのようにな……と、最後に彼は小声で付け足した。


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