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【転章】 彩坂育美2

 吉岡くん……!


 私は両手を交差させ、ひたすらに祈った。

 この無謀すぎる戦いに勝てるように。吉岡くんが生きて帰れるように。


 素のステータスでは、両者とも大差ない。吉岡くんのほうがすこしレベルが低いが、それでも勝てないほどじゃない。


 ただ、万全の状態で私たちを迎え撃った古山に対し、吉岡くんは連戦が続いていた。それだけでも不利なのにーーこの状況はあんまりだ。


 周囲を見渡せば、五十人の学生たちが、二人におどろおどろしい声を投げかけている。


 殺せ。吉岡なんて殺してしまえ。古山さん負けるな。


 当然だが、私たちの味方なんてひとりもいない。みんながみんな、古山にエールを送り、吉岡に罵声を浴びせ続ける。


 私ならくじけてしまうだろう。

 でも吉岡くんは頑張っていた。


 飛来してくるトランプを必死に避け続けており、まだ致命的な一撃は受けていない。この情況にあって、圧倒的なまでの精神力だ。防戦一方には違いないが、古山の隙を見つけるべく、懸命に古山の動きを観察しているのが見て取れる。


「おい、賭けてみないか」


 ふいにそんな声が聞こえた。構成員たちの会話だ。


「賭けってなんだよ?」

「吉岡が何分生きてられるか。負けた奴はメシ奢り」  

「へえ面白そうだな。えーっと、俺は三分かな」

「俺は二分!」


 私のなかに怒りがこみ上げてきた。

 なんて馬鹿らしい会話だ。吉岡くんがあんなに頑張っているのに、この人たちはなにも知らないで……! 激情とともに私が歩を進めようとした、その瞬間。


「やめときな」

 隣から声をかけられた。


 佐久間祐司。

 私のクラスメイトであり、リベリオンのナンバー2になるかもしれないと言われている男だった。


「君が下手に動いたら、きっと吉岡は動揺する。その隙を突かれたら危ない」


「……え?」


 思わず目を見開いた。

 ナンバー2らしからぬ発言だ。まさか、私以外に吉岡くんの身を案じている人がいるなんて。


 私がなにも言えないでいると、佐久間はふっと切なげな笑みを浮かべた。


「なに言ってるかわかんないって顔してるな。俺もだよ。吉岡を見た瞬間、あいつの味方をしなきゃいけない気がしてな」


「吉岡くんの……味方?」


「ああ。馬鹿らしいかもしれないが、あいつには、どこかで会ったような気がするんだ」


 そりゃあクラスメイトなんだから当たり前じゃないのか。そう答えようと思ったが、すんでのところで抑えた。きっと彼が言いたいのはそういうことじゃない。


 たぶん、だけれど。

 異世界でなにかがあったのだ。吉岡くんと佐久間との間で。


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