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リア充といじめられっ子

 俺も一歩前に踏み出すと、古山の視線を真っ正面から受け止めた。


 それだけでも尋常ならざる魔力に気圧されそうになるが、ここで引くわけにはいかない。精一杯の気力でもって声を発する。


「古山。おまえの目的はなんだ。ただのいじめっ子への復讐か」


 古山は口元をおさえ、くぐもった笑い声をあげる。


「なにをいまさら。決まっているだろう」


 リベリオンのトップは恍惚とした表情を浮かべるや、天井を振り仰いだ。


「僕の心は決まっている。初めてあのゴミ屑ーーああ、たしか坂巻信二といったか。あいつを殺したときの快感は忘れられない。ははっ、笑えるだろ? あいつが僕に一瞬で殺されたんだ」


 彩坂は怯んだように身を竦ませた。


 俺もなにも言えなかった。

 ここで《殺人は間違っている》なんてテンプレートな発言をしたところで、古山の胸には響かない。それ以前に、俺とてもそんなことは言いたくない。


 俺の沈黙をどう解釈したものか、古山はわずかながら顔を歪めた。


「……なんだその顔は。まるで僕の気持ちを理解しているとでも言いたげだね」


「……まあな。わかるか? なんで俺が真っ直ぐおまえの部屋まで辿りつけたか」


「…………」


 黙りこくる古山に、俺は言葉を続けた。


「俺は二つの異世界を行き来している。その別の世界で、このタワーの内部を見たんだよ」


 そして俺は伝えた。

 別世界において、俺はいじめられっ子であったこと。

 坂巻が憎くてたまらなかったこと。詳しい経緯を知らなければ、俺すらもリベリオンの一員になっていた可能性もあること。


 けれども、俺は見たのだ。

 高城絵美という、素晴らしい女性もいることを。

 彼女はいじめっ子だったけれど、最期には心を改めた。彼女なりに償いの道を探し、足掻いていたのだ。


 いじめられっ子、そしてリア充。

 本来は同時に経験することのできないそのスクールカーストを、俺は味わってきた。


 だからこそわかる。

 どちらの苦しみも。

 どっちも同じ人間なのだ。それなのに憎しみ、果てに殺し合う。そんなに悲しいことがあっていいものなのか。


 俺はその経緯を熱弁した。古山も無駄口を挟むことなく黙って聞いていた。


「だから、もう辞めようぜ。俺たちはいじめの痛みがわかるだろ。それなのにまた人を傷つけちゃ世話がない」


「ーー言いたいことはそれだけかい?」


 しかしながら、またも彼の心には届かなかったようだ。明らかな敵意をむき出しにしながら、小山は俺に鋭い視線を向けてくる。


「なるほど、君のステータスが急に上がっていることといい、たしかに話の信憑性はある。だけど、肝心なことを忘れているね」


「なに?」


「高城にしても、リベリオンに一度痛い目に遭わされたから改心できたわけだ。やっぱりいじめっ子は馬鹿なんだよ。連日いじめ問題の報道がされてるってのに、自分の行動を改めようともしない。そんな《犯罪者》をかばう君もーー同罪だ」


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