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大魔王

 俺たちはひたすらに翡翠色のタワー内部を歩き続けた。


 おそれをなしたのか、構成員たちがこれ以上襲いかかってくることはなかった。


 以前佐久間が言っていた「二百人」というのは、あくまであっちの世界であって、こっちの世界ではそれほどメンバーがいないのかもしれない。あるいはただ単純に、いまタワー内にいないだけか。


「ね、ねえ吉岡くん」


 俺の背後を歩く彩坂が、目を丸くして訊ねてくる。


「ずいぶん自信たっぷりに進んでるけど……古山の場所、わかるの?」


「ん……まあな。《あっちの世界》のタワーに入ったことがあるからさ」


「そ、そっか……」


 あのときタワー内部を案内してもらったのも、あながち無駄ではなかったということだ。死人に詮無いことであるが、改めて佐久間に感謝せねばなるまい。


 永遠にも思われた螺旋の通路を、俺たちはやっとのことで昇りきった。


 目の前には、龍の絵が施された巨大な二枚扉。


 レベルが高くなると、他人の発する魔力にも敏感になるらしい。この先から、なにやら尋常でない魔力の胎動を感じる。ただそれだけで鳥肌が立ってしまう。


 それは隣の彩坂も同様だったらしい。ぶるぶると身を震わせているのが伝わってくる。


「吉岡くん……」


 不安そうにこちらを見上げてくる彩坂。


「あのね……前に古山に見つめられたとき……ほんとに、どうしようもない圧力を感じて、押しつぶされそうだった。……ほんとに、油断できないよ」


「ああ……わかってるさ」


 あっちの世界では、古山はレベル90に到達し、すべてのステータスがカンストしていた。こちら側の彼はそこまで強くはないだろうが、それでも強敵であることに変わりあるまい。


 俺はごくりと唾を飲みながら、二枚扉に手をかけた。

 ギィィィィィィという重たい音に続いて、ドシンと開ききった扉が停止する。


 部屋は真っ暗だった。

 激しさを増す鼓動を意識しながら、俺は声もなく室内に足を踏み入れた。


 瞬間。


「残念だよ」


 どこからともなく低い声がして、俺はぴたりと足を止めた。後ろを歩く彩坂がびくっと身を竦ませる。


「彩坂育美。まさか君がそんな奴と手を組むとはね」


 ぼっ。

 という音を立てて、部屋の明かりが点いた。


 以前立ち寄ったときと変わらぬ書斎。そこに最悪の大魔王、古山章三が立っていた。


「古山……くん」


 彩坂がかすれた声を発する。


「やっぱり……駄目だよ。復讐なんて、いいことないよ」 


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