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会えてよかった

 高城を宥めるのにはかなりの時間を要した。


 彼女の悲鳴を聞きつけ、血相を変えて駆けつけてきた生徒も数人いた。


 心苦しいところではあったが、闇魔法で記憶を操作し、彼らにはご退場をお願いした。


 高城も同じように記憶をいじろうかと思った。

 だがそれは彩坂の願いによって辞めることにした。彼女にはすべてを知ってほしいと。その権利があるはずだと。


 だから彩坂は、事の顛末をすべて高城に話した。それを聞いた高城はさらに激しく涙を流した。


 数分が経過した。


 いくばくかの余裕を取り戻した高城に、彩坂は隣の席に座りながら優しく告げた。


「大丈夫……?」


「ごめんね……もう、大丈夫だから」


 そこで高城は久しぶりに顔をあげると、腫れた目をこすりながら続けて言った。


「私、彩坂さんに謝りにきたの」


「へ……?」


「今日の朝、もうひとりの《私》と話をして……気づいたの。私、なんでいじめをしてたんだろうって」


 慎み深く脇で話を聞きながら、俺は今日の記憶をたどっていた。ホームルームが始まる前、たしか絵美が高城をトイレに連れ込んでいた。あのときか。


 高城は話を続けた。


「そしたら、本当に馬鹿な理由で傷つけたなって……色々考え始めちゃって。いままで彩坂さんにやってきた色々なことを、思い出してきて……」


 そこで高城は再び目元に涙を滲ませた。彩坂は優しく頷きながら話を聞いている。


「いじめはやめなさいとか、いじめは犯罪だとか。いままで先生に言われてきたけど……全然考えてなかった。傷つけられる人の気持ちが」


「そっか……」


「ほんと、ごめんね。私馬鹿だった。もうひとりの《私》に会って、怖い目に遭うまで、全然気づかなかった」


「うん……いいの。もういいんだよ」


 そう言って彩坂は高城の背中を包み込んだ。


 リベリオン。

 いじめっ子への復讐組織。


 いじめっ子の高城も、自分が《被害者》となることで、いままでの愚かしさに気づいたということか。たしか絵美もそんな理由で改心したはずだ。


 そういう意味では、リベリオンの存在意義はゼロではないーーともいえる。


 俺とても、いじめられっ子として、リア充どもに復讐してやりたい気持ちはよくわかる。


 暴力の仕返しはよくないから、いじめられっ子はおとなしく耐えてなさいーーそんなことはとても言えない。そんな綺麗事をいえるほど精神が熟達してはいない。


 だが。

 俺は横たえられている絵美の遺体を見下ろした。


 それでも、リベリオンは間違っていると断言できる。やりすぎだ。


 彩坂と高城。


 昨日まではいじめの仲にあった二人さえ、こうしてわかりあえた。


 手を取り合うことができるのだ。

 必ず。

 暴力なんて振るわなくても、必ず道はある。


 俺が決意したその瞬間。


 絵美の遺体が、ふいに金色の輝きに包まれた。


 俺が目を見開いている間に、きらびやかな音を響かせながら、輝きは一瞬にして上空へと消え去っていく。


 そこにもう、絵美の姿はなかった。ただ無数の光の粒子だけがふわふわと舞っている。


「ありがとな、高城」


 俺は最後に呟いた。


「……俺も、おまえに会えてよかった。ありがとう」


 続いて、彩坂も振り返って言う。


「私も……ありがとう。あなたのこと、なにも知らないけれど、あなたに出会えてよかった」


 俺たちの言葉に反応するかのように。

 光の粒子はぶるぶると軽く震えだし。

 数秒後には、完全にその姿を消した。


「……よし」


 俺は両拳をガツンとぶつけ、決然と言い放った。


「そうと決まったら、早速古山を止めにいくぞ! これ以上被害を出すわけにはいかん!」


「うん!」


 変わらないひとつの目標に向けて、俺たちは進みだす。


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