表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/97

現実

「あー、えっと」


 後頭部をかきながら俺はぼそっと呟く。


 これで交際成立。

 晴れて俺たちはカップルになったわけだ。


 理想の恋人。

 かつて俺が欲し、そして諦めた、あまりにも届かなかった存在。そんな女性がいま、俺の目の前にいる。


 それが信じられなくて、だからなにも言えなくて。


 彩坂も同じ状態に陥っているのだろうか。同じくうつむいたまま、こちらを見ようともしない。


 けれども、俺はこの沈黙が嫌いではなかった。

 静かではあるが、心地のよい雰囲気。こんな空気を味わうのなんて初めてだった。


 だが。

 このまま感傷に浸ることはできそうになかった。


 俺はさっと周囲を見回した。


 ざっと三人というところだろうか。俺に気づかれないように気配を消しているつもりだろうが、たしかに微少な魔力を感じる。


「隠れてないで出てきたらどうだ」


 その発言に、まず彩坂が目を丸くした。続いて、「気づかれていたか」という男の声。


 もう隠れる必要なしと判断したのだろう。廊下から、まずは二人の生徒が姿を現した。当然ながら、頭の上にステータスが浮かんでいる。


「あ、あの人たちって……」


 彩坂がかすれた声を発する。


「リベリオン。わかるだろ?」


「そ、そんな……」


 顔を蒼白にして一歩引く彩坂。

 そんな彼女に向けて、リベリオンの構成員は歪んだ目を向けた。


「彩坂、これはどういうことだ。古山さんはそいつを殺せと言っていたはずだ。……まさか、そいつの顔に誑かされたんじゃあるまいな」


「ち、違う!」


 彩坂は怯えながらも、ここは毅然と反論した。


「吉岡くんは悪い人じゃないよ。だからもうやめて!」


「はっ。笑わせるなよ、リア充が」


「ど、どうして……」


 聞き入れてくれない構成員に対し、彩坂の表情が絶望のいろに染まる。


「そういえば、吉岡。さっきおまえの肉便器も殺してきたよ」


「に、にく……?」


 わけがわからず戸惑っていると、構成員はじれったそうに顔を歪めた。


「あいつだよ。えーっと、高城とか言ったか」


「な……!」


 すさまじい衝撃が頭からつま先までを貫いた。


 瞬間。

 さっきまで隠れていたらしい三人目の構成員が、ふいに廊下から姿を現した。


 その構成員はニヤニヤ笑いを浮かべながら、右手に掴んでいたものを放り出した。

 


《 高城絵美 レベル2

 

 HP 0/54 MP 31/60

 MA 1230 MA 210》



 HP……0。


「こ、これは……」

 俺は数秒間なにも言えず、ただ立ち尽くすことしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ