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不良とは話す気にもなれない

 情報を整理しよう。


 おそるおそる母に訊ねてみたが、「この世界の吉岡勇樹」は現在高校二年生で、桜ヶ丘高校に通っている。部活には入っておらず、家にいるときはラノベだのゲームだので時間を潰している。そして家事を手伝わない。


 この点は元の世界とほとんど変わっていない。新聞部員でないことを除けば、俺の知る俺そのものだ。


 変化しているのは、顔面偏差値と人間関係。


 かつて俺が望み、そして諦めた、花のリア充生活を送っているという。


 ラインの履歴を辿ってみるに、残念ながら明確な恋人らしき女子はいないように思えたが、好意的なメッセージはいくつか散見された。どうやらここの吉岡勇樹はかなりモテるらしい。


 また、元の世界とは違い、父親のようすもかなり朗らかだった。前世界ではやつれた感が否めなかった父であるが、この世界では母のおかげか、表情にも明るさが見て取れる。ごく自然な笑みを浮かべる父親など、久しく見ていなかった。


 もし元の世界に戻ることがあったら、きとんと親孝行しないとな……


 俺は朝食をかきこみ、制服に着替えると、自転車にまたがって高校を目指した。通学路の風景などはいっさい変わっていなかった。


「よお、吉岡!」

 校門を通り抜けると、何人かの男子生徒に名前を呼ばれた。

 紺色のネクタイーー同級生だ。


「おう」


 ごく自然に明るい声を返せた。ちょっと違うが、これもある意味では高校デビューだ。


 駐輪場に自転車を停めると、またしても声をかけられた。


「おお、吉岡じゃねえか」


 思わずびくついてしまう。

 あまりにも聞き覚えのある声だった。坂巻信二。前世界でも同じクラスの生徒であったが、やはりこっち側にもいたか。


 そう、俺はこいつのいじめのターゲットになっていた。


 すこしばかり体格に恵まれているばかりに、執拗に殴りかかってくるのだ。たしか俺以外の弱そうな奴もターゲットにされていたように思う。


 そしてこいつこそが、不良生徒の失踪事件、最初の被害者でもあった。


「ん? どうしたよ」


 殴られることを予期していた俺は身を竦ませていたのだが、坂巻はそんな俺に気遣うようすを見せた。


「……いや、なんでもない」


 ため息をついて楽な姿勢に戻る。

 ここでの俺はいじめられっ子じゃない。リア充だ。異世界に来てまでこいつに脅かされたくはない。


 俺の隣に自転車を駐輪した坂巻は、俺と並んで歩き始めた。昨日のテレビがどうとか、テストがやべえとか、ありふれた話題を降ってくる。


 かつてのいじめっ子と対等に話すなんて違和感しかなかったが、俺はなんとか会話を合わせた。どうやらこの世界の俺は、坂巻と近しい関係にあるらしい。


 考え込みながら相槌を打っていると、またも坂巻が気遣うような素振りを見せた。


「おい、どうしたよ吉岡」

「な、なにが」

「さっきから元気ねえじゃん。なんかあったのかよ」

「いや、なんでもないよ」


 なにか、どころの話ではない。いろんなことが起きすぎている。


 しかしそれを話したところで理解してもらえるはずもない。さらに言えば、坂巻なんぞに相談する気もない。


「なんか抱えてんならなんでも話せよ。いつでも聞くぜ?」

「あ、ああ。ありがとうーー」


 かつての俺には見せたことのない一面だった。前世界の坂巻は悪魔の生まれ代わりのようにすら思えたのに、こんな一面もあるとは意外だった。それとも、こっち側の坂巻が優しいだけか。

 首をひねりながらも、俺は坂巻とともに教室を目指した。 


 



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