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勇気を出して

 透明がかった彩坂は、ふいに彩坂を見やると、輝きを湛えた瞳で告げた。


『あなたにはこれからも大変なことがある。でも、必ず吉岡くんを支えてあげて。できるはずよ。初恋の人だもんね』


「え……えっ?」


 とんでもない爆弾発言に、彩坂だけでなく、俺さえも素っ頓狂な声を発してしまう。


 初恋の人って……。おいおい、まさか。


 俺たちの動揺など意に介さず、透明がかった彩坂は言葉を続けた。


『私の精神も、これで本当に時間切れ。もうあなたの前に現れることはないけれど、信じてるよ。必ず二つの異世界を救ってくれるってね』


「二つの、異世界……」


 そうだ。

 どちらの世界とも、古山章三によってすでに浸食されはじめている。


 そしてあっちの世界では、俺の父親が命の危険に晒されている。


 俺が救わなければならないのだ。両方とも。


 俺はもう一度だけ、透明がかった彩坂を見た。


 これは俺の推測だが。

 彼女はおそらく、時間を操作する前、自分の精神をも分離させたのだ。そしてはるかな高みから俺たちを見守ってきた。だから俺がピンチのときには必ず助けてくれた。


 同じ過ちを繰り返さないため。

 俺が古山に殺されないようにするため。

 自分自身さえも、犠牲にして。


「……ありがとな」


 俺は珍しく素直な気分で礼を述べた。

 透明がかった彩坂はそこで満面の笑みを浮かべ、こそっと彩坂に耳打ちした。


『……勇気だしてね。その一歩が踏み出せなくて、私、後悔したから』


「おい、聞こえてるぞ」


『ああごめんごめん』


 わざとらしく、透明がかった彩坂は舌を出し。


 さようなら。

 最後に小さな囁き声だけを残して。


 すべての始まりである、透明がかった彩坂は無数の光の残滓を残しながら、姿を消した。


 きらきらとした光の粒が俺たちを包み込む。


 沈黙が降りた。

 生徒のさわぎ声が、校庭のほうから響いてくる。


「……あの、高城さんに魔法を使おうとしたときね」


 と、彩坂が話し出した。

「私、実はちょっと怒っちゃったの。吉岡くんに近づくなって言われたから」


「そ、そうなのか」


「だから考えたの。なんでこんなに怒るんだろうって。たったひとりの男の子のためにさ」


 勇気出さないと、勇気出さないと……

 彩坂が小さく呟いた、その後。


「ひょっとしたら、好きになったんじゃないかもって……あなたのことが」


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