表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/97

【転章】 高城絵美4

「はあ……」

 ぽつりと、私は重たい息を吐いた。


 さきほどの自分自身との会話。

 異世界の「高城絵美」と対話することで、自分の気持ちを整理しようと思っていた。


 すなわち、吉岡くんへの想いをどうするか。このままぐいぐいアタックするか、あるいはもう辞めてしまうか。


 本当は諦めたくない。彼と交際したい。

 だけど彼には彩坂という運命の相手がいる。そこに私が介入できる余地はない。そりゃあ、一緒に警察署に侵入したり、ちょっとドラマティックな出来事はあった。けれどたぶん、あの二人にはそれ以上のなにかがある。


「はあ……」

 もう一度、重厚なため息。


 屋上の柵に捕まり、眼下を見下ろす。こっちの世界もテスト期間中のようで、せっせと帰宅する生徒が目立つ。


 あのなかに、もしかしたらカップルもいるのかな……

 そう考えると、ぎゅっと胸が締め付けられる。


 たぶん、この世界の高城絵美は恋の苦しみに耐えられなかったのだ。だからいじめという手段に出た。


 それがいつの間にか「目的」と「手段」がすり替わり、彩坂への憎悪を溜めていき、ただのいじめっ子になり果ててしまった。それが手に取るようにわかる。


 そこまで考えてふっと笑ってしまった。

 なんて馬鹿馬鹿しい。私はまだいじめっ子の思考から抜け出せていない。こんなんじゃきっと吉岡くんも振り向いてくれない。


 いじめの理由なんて単純だ。


 そのターゲットが、気に入るか、気に入らないか。ただそれだけ。そこに特別な理由なんてないし、私も先日まではそこまで深く考えていじめをしていなかった。


 でも、人の気持ちを知ってしまったいまは。

 自分自身も虐げられ、殺されかけた経験もしたいまは。


 三度目のため息を吐き、私は空を見上げた。

 自分もさんざん人を傷つけてきたのだ。だから今度は傷つけられて当たり前。この上吉岡くんを求めるなんて、きっとただの傲慢だ。


 心のなかでひとつの決断をくだし、私はくるっと身を翻した。


 教室にはまだ彩坂さんがいるかもしれない。

 実際にいじめをしたのは私ではないけれど、私には謝る義務があるだろう。そして彼女に、吉岡くんのすべてを任せよう。


 そう思って歩き出そうとしたときーー


「こんなところにいたのか」


 思わず怖ぞ気が走った。聞き慣れない声が響いたからだ。


 さっと周囲を見渡すと、五人の男子生徒がニヤニヤ笑いを浮かべながら私を囲んでいた。彼ら全員の頭上にステータスが浮かんでいる。


「そ、そんな……」


 物思いに耽るあまりにすっかり油断してしまっていた。いま私は奴らのターゲットになっているのだと。


「やめて……」

 と私はかすれた声を発した。

「そうやって人を傷つけても、あとでまた後悔することになる……だから……」


「っは! おいおい、なんだそのでっかいブーメランはよ!」


「おまえが言うな! この犯罪者が!」


 犯罪者……

 数秒遅れて理解した。

 私たちのようないじめっ子を、彼らは《犯罪者》と呼んでいるのだ。


 そう言われるとなにも反論できない。

 私のやってきたことはたしかに重罪だ。「ごめん」と一言謝ったところで済まされる問題ではない。


 まるで心に重たい雲が覆い被さっていくようだった。抵抗する気力さえも失われていく。


「さあ」

 とリベリオンの一人が言った。

「復讐の時間だ。高城絵美、貴様には死んでもらう」


 瞬間。

 私の意識は暗転した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ