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【転章】 高城絵美 3

「あ、あんた……誰よ!」


 無理矢理トイレに引きずり込まれた高城絵美は、鋭い目つきで私を睨んだ。


 その敵対心まるだしの瞳。まるで数日前の私そっくりだ。


 私とても、リベリオンや警察官に追いかけ回され、実際に苦痛を味わうことになるまでは、きっとこんな目をしていたと思う。


 彼女は恐れているようだった。絶対に存在するはずのない者の存在に。自分とまるで同じ容姿の人間が存在することに。


 まあ、仕方ないかなとは思う。吉岡くんいわくここは《異世界》。私が通常来るはずのない世界。それが古山とのトラブルでこんなことになってしまったのだから、私だって驚いている。


 だからこそ。

 私はどうしても確かめておきたかった。自分とまったく同義の存在に。


「あんたさ」 

 と私は問いかけた。

「あんなことで吉岡くんの気を引けると思ったら大間違いよ」


「な……なにを……」


「吉岡くんを取られるのが怖いからいじめてるんでしょ。彩坂さん、《私たち》よりも可愛いもんね。実際にも彼は、彩坂さんのほうに心が向いてるよ」


 だから私だって、現実世界に彩坂がいたらいじめていたかもしれないーーとは言わなかった。


 現実世界の吉岡くんは、見た目だけで言うならば正直不細工だ。でも私は知ってしまった。彼の男らしさと、人間性を。


 二人の高城絵美。

 吉岡くんに惹かれる理由は別々だけれど、それでもこうして彼に魅力を感じてしまっているのは、ある意味で運命といえるかもしれない。


 そして同時に、その恋は絶対に叶わない。


 路地裏で、突如現れた彩坂と吉岡くんが話しているとき、不覚にもそう直感してしまった。きっと今朝、彼がスマホを見てニヤニヤしていたのも、彼女からの着信があったからだと思う。


 きっと吉岡くんの運命の相手は私じゃない。

 彼女なのだ。


「いじめなんかで得られるものなんてなにもない。だからさ、もうやめてよ。……気持ちは、わかるけどさ」


「なによ……なんなのよ、あんたは……!」


 彼女はそれでも敵愾心のこもった目を向けてくる。多少は感情が揺れたようだが、納得はしていない。そんな顔だ。


 思わず私は薄い笑いを浮かべた。

 自分自身のことだからよくわかる。こんな説得をしたところで、絶対に心が変わるはずもない。


 私は頑固だから。それこそ命の危険にでも晒されないと、一生愚かなままだから。


 私は呟くように言った。


「あんたは……諦めたくないんだね、吉岡くんを」


「だからなに? あんたには関係ないでしょ!」


「……そう。そうね。そうかもしれない」


 ーー私だって本当は諦めたくない。


 もうひとりの自分と話すことで、気持ちの整理をしておきたかった。そのために彼女と二人になった。


 でも、余計にこんがらがっちゃったなーー

 自分でもよくわからない感情を抱きながら、私はまた薄い笑みを浮かべた。


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