表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/97

【転章】 彩坂育美

 ――異世界、闇の世界にて――






「さあ、いまこそすべてのいじめっ子たちに復讐するときだ!」


 その大声に、みんなの歓声が一際高まる。


 高台に乗った古山章三と、興奮した顔で彼を囲っている五十人もの高校生たち。


 その背後には近未来都市的なタワーがそびえている。初めてこのタワーを見たときはそれはもう驚愕したものだが、みんなすでに慣れたのか、熱狂的な顔で古山に羨望の眼差しを向けている。


 その古山章三の目が一瞬だけ、私に向けられたーーような気がした。ぞくりとした鳥肌が全身を舐めていく。


「おいどうした彩坂、おまえは興奮しないのか」


 隣にいた男子生徒が笑いながら小突いてくる。


「え……まあ、その……」


「おまえは優しいんだな。だが、いままで散々俺たちを痛めつけたいじめっ子どもだ。すこしくらい復讐してもいいと思うぜ?」


「う、うん……そうだね」


 復讐。

 それはつまり、いじめっ子たちに暴力を振るうーーということか。いままでやられていたことを、今度はこちらがやり返すつもりなのか。


 それが正しいことなのか私にはわからない。

 でも、それって本当に良いことなのだろうか? 暴力を暴力で返すということが?


 古山が大きな声を張った。


「さて、ひとつ提案しておきたい。『いじめっ子』という言葉の生ぬるさについてだ」


 いわく。

 いじめは立派な犯罪である。

 いじめのせいで不登校になる生徒がいる。

 自殺したり、果てはいじめによる殺人も相次いでいる。


 そんな凶悪犯罪者を、「いじめっ子」などと呼ぶのは違和感がある。いじめという言葉からして、どこか可愛らしい。


「ゆえに!」


 と古山は声を張り上げた。


「今後は、奴らを『犯罪者』と呼びたい。いじめはそれ自体が犯罪であり、その罪を犯した者は我々が罰する! いじめについてなにもしない、のろまな警察機構は、近いうちに制圧する予定だ。これで、いじめが完全になくなる世界が現実するはずだ!」


 うおおおおお、という歓声が再び巻き起こる。


「君たちには、すでに犯罪者に対抗する力を与えたはずだ! これで思う存分に、犯罪者に対する報復を行ってほしい! だがその前に、ひとつ私からお願いがある」


 そこで古山は一呼吸入れ。

 観衆がいったん沈黙した間を縫って、静かな声音でおそるべきことを告げた。


「吉岡勇樹。こいつは憎むべきリア充だ。こいつを見つけ次第、殺してほしい。以上!」


 吉岡くんーー!

 がくっと膝が震えた。


 そんな。あんな優しい人を、なぜ標的にするのだ。たしかに私たちみたいな底辺には届かない存在だけれど、どうして。


 彼には、高城絵美のいじめから救ってくれたお礼をしたかった。でも昨日から返事がない。既読すらつかない。今日は学校にも来なかった。


 吉岡くん、いま、どこでなにをしてるのーー!

 私はぎゅっと目を瞑り、想い人へ思いを寄せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ