表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/97

【転章】 佐久間裕司

 いつからだろう。俺が女性恐怖症になったのは。


 小五のときか。


 いきなり女子に避けられるようになった。


 俺の配る給食だけを、ある特定の女子が受け取らなくなった。

 それに同調するように、他の女も俺から遠ざかるようになった。


 理由は「顔がキモい」から。


 ただそれだけ。


 生まれてくるときに、人は顔の美醜を決めることはできない。

 俺だってこんな顔に生まれたくはなかった。イケメンでなくとも、せめて人に忌避されるような顔面にはなりたくなかった。


 でも、クラスの女にはそんな理屈は関係ない。

 顔が醜いという理由だけで、俺を菌のように扱う。俺の目の前で、俺に聞こえるようにして、俺の悪口を言う。


 中学生になった。 

 俺だって年頃になったし、女の子と仲良くしたかった。

 願わくは恋人なるものをつくりたかった。


 だが人は年を重ねても愚かなままだった。


 顔が不細工という理由だけで、普通に接するどころか、まるで腫れ物のようにあしらってくる。思春期の俺の淡き願いは叶わぬものだと、中一の頃から悟った。


 俺は女嫌いになった。

 初めから相手が嫌ってくるのだ。

 そんなゲスどもと絡むつもりは一切ない。


 女なんて嫌いだ。

 死ねばいいのだ。


 そう思ったほうが楽になる。期待すればするぶんだけ傷つく。

 だったら最初からなにも期待しないほうがいい。女なんて最初からいないものとして考える。


 でも。


 吉岡勇樹。

 おまえはなんなんだ。


 つい最近まで、俺と一緒に女どもに嫌われていたじゃないか。それがなんだ。なんで高城絵美と仲良くなっているんだ。


 それに、おまえを見る高城の目。あれは絶対におまえに惚れている。


 ありえない。


 レベルの低い争いではあるが、俺とおまえなら、俺のほうがまだ見られる顔だ。それなのに。


 なぜ。なぜなんだよーー


 なんでおまえはいじめっ子どもの肩を持つ。そいつらが憎くないのか。坂巻を殺したいんじゃなかったのか。


 そんなふうに考えているうちに、俺は気づいてしまった。


 俺は女嫌いなんかじゃない。

 傷つきたくないから、無理をして遠ざかるようになったのだと。


 本当は羨ましかった。楽しそうにみんなと打ち解けるリア充が。恋愛という土俵に立てる男みんなが。


 そして、もうひとつ気づいてしまった。


 あれほど忌み嫌っていたいじめっ子たち。


 いつの間にか、俺も奴らと同種になってしまっていた。俺たちはいじめっ子を殺すだけに留まらず、本来は無関係な警察まで我が手中に収めようとした。


 あのときの署長の顔は、間違いなく、数年前まで俺が浮かべていた表情そのものだ。


 そんなふうに考えていたから、動きが鈍っていたのかもしれない。


 吉岡の剣が時折俺を掠め、直撃はしないまでも、取り返しのつかないダメージを負ってしまっていた。


 俺の剣先もときどき吉岡の頬を駆けていくが、そもそも、あいつは闇魔法を使っている。ダメージの総量は俺のほうが高い。


 とうとうHPが2になったところで、俺は死を確信した。


 こんな。

 こんな報われない人生ってあるのか。

 誰にも認められず、あまつさえ同じいじめられっ子に殺されるなんて。


 俺は、俺はいったいなんだったんだ……


 気づいたとき絶叫をあげていた。死ぬのが怖かった。 


 だが、吉岡は俺にとどめを刺さなかった。奴も相当疲れ果てていたのだろうが、俺に最後の一撃を見舞わずに、床に膝をついた。


「……なぜ、殺さない」


 小さく、俺は呟いた。


「仲間が、欲しいんだよ」


 同じくかすれた呟き声が返ってくる。


「仲間……? おまえ、本気で古山たちを止める気か」


「ああ。このままじゃ、また多くの被害が出ちまう。その前に……」


 被害、か、

 俺は薄い笑みを浮かべた。


 やはりわからない男だ。その被害者とはつまりいじめっ子のことだ。そんな奴らを救っても仕方ないのに。


 だが、たしかに古山は危険だ。


 このまま警察署を制圧して、いったいなにをするつもりだったのか。明らかに「いじめっ子への復讐」の域を超えている。


 いじめっ子を許すことは到底できそうにない。だが、古山を止めないといけないのは事実だ。


 だから俺は言った。

「古山を止めるという点においてのみ、俺はーー」


 瞬間。

 頭部にすさまじい衝撃が走り、目の前が真っ暗になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ