表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/97

 俺は深く目を閉じた。


 いじめられっ子として、佐久間の気持ちは身に沁みるほどわかる。


 坂巻信二の執拗ないじめによって、俺は自殺まで考えた。女の子と目を合わせることができなくなった。人が嫌いになった。


 その大きすぎる心の傷は、たかだか「ごめん」と言われたところで癒えるもんじゃない。


 リア充にはわからないだろう。

 俺たちいじめられっ子が心に負う傷は、並大抵のことでは克服できやしないのだ。俺のように、異世界転移してリア充となり、人の温かさを知らないことには。


「なあ……佐久間」


 俺は静かな声音で問いかけた。


「俺たちはたしかにリア充にはなれないかもしれない。不細工だしコミュ障だし、こりゃもうどうしようもないよな」


「…………」


「だけど人の痛みは知ってるだろ。いじめっ子みたいな野蛮な連中とは違う。だから……誰かを傷つけるのはもうやめようぜ。おまえなら、そこの署長の気持ちわかるだろ? 怖い怖いって、顔が真っ白じゃないか」


 ちらと佐久間は署長の顔を見やった。

 尻餅をつき、怯えたように佐久間を見上げる警察署のトップ。

 ぶるぶると震えていて、佐久間が次に襲いかかってこないかずっと怯えていて。


 そんな姿は、まさに俺たちにそっくりだった。


 常にいじめっ子の言動を気にしていた。あのヒソヒソ話は俺に向けられいるじゃないか、また殴られるんじゃないかーー


 佐久間ならわかるはずだ。あの署長の苦しみが。


「もうやめようぜ。俺たちが他人を傷つけてどうすんだよ」


 俺の言葉を、高城が引き継いだ。


「さっき、吉岡くんは『俺たちはリア充になれない』って言ってたけど……そんなことはないよ。その綺麗な心に惹かれる子は絶対にいる」


 なぜかちらとこちらを見ながら言ってくるので、すこし居心地が悪くなる。


 こほんと咳払いをして、俺は改めて佐久間に向き直った。


「どうだ佐久間。考え直してはくれないか」


「ふん……どうだかね。でも、とにかく」


 ふいに俺は怖ぞ気を感じた。


 佐久間の身体から、底知れない魔力を感じられたからだ。


 ステータスはそこまで高くないとはいえ、さすがはレベル30、熟練されたその力は想像をはるかに超えている。


 ーー戦いは避けられないかーー


 ぞくりという寒気を無視し、俺はさっと構えた。


 禍々しい金色のオーラをまといながら、佐久間はこちらに右手をつきだした。


「俺の考えが正しいのか、君の考えが正しいのか……正直わからない。むしゃくしゃするよ。このよくわかんない気持ちを、いまは発散したい気分だ」


「ああ……受けて立とうじゃないか。絶対に俺は負けない!」


 こうして、俺と佐久間の戦いは幕を開けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ