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【転章】 高城絵美2

「う、嘘……」


 思わず私は呟いた。


 吉岡の放った光線が、きらきらとした光の残滓を残しながら、薄れ、消えていく。


 そこにはもう、さんざん私を悩ませ続けた化け物はいない。あの不気味な呟き声すらも聞こえない。


 あまりにもありふれた、見慣れた路地が広がっているのみだ。


 ――助けてくれたというのか。あの吉岡勇樹が。


「立てるか」

 そう言いながら、尻餅をついた私に手を差し伸べてくる。


 ーーあれ、吉岡ってこんな奴だっけ。

 暗くてなに考えてるかわからなくて、たまに話しかけてもまったく会話が通じなくて。


 それなのに。


「おい、大丈夫かよ」


 いま私の眼前にいる吉岡は、光の残滓を身にまとい、どこかロマンス的な雰囲気を漂わせながら、私に手を差し伸べてくる。


 その姿は、振る舞いだけで言うなら間違いなくイケメンそのもの。

 そんな吉岡に対し、わずかに胸の高鳴りを感じてしまったことは自分でも驚きだった。


 なんで。

 なんでこんな男に……


「あ、ありがとう。大丈夫よ」


 動揺を隠しつつ、私はその手を取った。ぐいと引っ張り上げられ、なんとか立ち上がることに成功する。


 本当にあの吉岡勇樹だよね……?

 信じられず、私は改めて自分のクラスメイトに目をやる。


「すげえ。これが光の魔法かぁ」

 よくわからないことを呟きながら、自分の手を開いたり閉じたりする吉岡。


 光とか魔法とか、相変わらず意味不明であるが、間違いなく私の知っている彼に違いなかった。


「なあ」

 と吉岡は話しかけてきた。

「あのバケモンが現れたのは、今日の朝からか」


「え……?」


 なぜそれがわかる。彼はなにか知っているのか。


 私の無言を是ととらえたのだろう。吉岡はそれ以上なにも追求してこず、代わりに私にとって重たい一言を告げた。


「あのバケモンが現れたことに……心当たりはないか」

「…………」


 心当たり。

 ある。沢山ある。


 あの黒いモヤモヤの呟き声。


 それは私への罵倒だった。


 私の友達を返して。もういじめないで。あなたはもはや人間じゃない。消えちゃえばいいのにーーなど。


 だからきっと、罰が当たったのだと思った。これまでさんざん人を痛めつけ、傷つけてきたその罰を、死でもって仕返しされるのだと思った。


 そのとき初めて気づいた。


 私がいままでやってきたことのくだらなさに。愚かしさに。


 ずっと自分の都合だけを考えてきた。

 他者の痛みなどまるで見ていなかった。


 人間は弱い。

 誰かに暴言を吐かれたらそれだけで感情が揺れる。

 殴られたら痛いし、泣きたくなるときもある。


 それをわかっていなかった。


「お……おいおい、大丈夫か」

「……え?」


 気づいたとき、目から滴が溢れてきていた。

 ーーいけない。よりにもよって男の前で泣いてしまうなんて。


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