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99999。ぜーんぶ9。

「さて」

 と仕切り直したように古山が椅子に座り直した。


 そのままこちらに向かって右腕を突き出すと、なんと俺の目の前にパイプ椅子が出現した。


「わっ」

 思わず仰け反ってしまう。


 この一瞬にして椅子を「創造」したらしい。さすがはレベル90、やることが違う。


「ほら。立ち話もなんだし、座って話そうよ」

「……そうだな」


 正直かなり驚いたが、それを悟られないようにポーカーフェイスで頷く。


 俺が腰を降ろしたのを確認すると、古山は頷いて話を続けた。


 いわく。


 古山率いるいじめられっ子のグループは、佐久間の言うように総勢200名で構成されている。その全員が、驚くべきことに魔法を使えるという。


 そのグループの名は「リベリオン」。


 英語で反乱、反抗を意味する言葉だ。


 構成員たちの目的は、やはりいじめっ子に復讐すること。

 初めは古山が自身の高校で仲間を増やしていき、その仲間も人員を増やしていき、波及的にメンバーが集まっていったのだという。


 だが、どうにも腑に落ちないことがあった。


 俺は会話のわずかな間を縫って、

「ひとつ聞いていいか」

 と訊ねた。


「なんだい?」


「波及的にメンバーが増えていったと聞いたが、その全員が魔法使いなんだろ? 日本にはそんなに異能者がいたのかよ」


「ああ、違う違う」


 古山は苦笑した。


「魔法を使える者は、絶大なMPと引き替えに、その力を他者へコピーすることもできる。きみもそんなふうに魔法を授かったんじゃないのか」


 他者から魔法を授かるーー

 そのセリフを聞いたとき、俺は思わずあっと声をあげた。


 あのときだ。

 不審者たちに囲まれ、命を失いかけたとき、彩坂育美から形容しがたい力を授かった。俺が魔法を使えるようになったのは、たしかにあのときからだ。


 だが、そうなるとまたひとつ疑問が発生する。

 すべての始まりとなった古山章三は、いったいどのようにして異能を手に入れたのか。親がいないのに子が生まれることはない。


 俺のその疑問を悟ったのだろう、古山は腕を組んで話を再開した。


「きっかけは道ばたで拾った本だった。中には《この呪文を唱えると、あなたは即座に魔法が使えるようになります》と書いてあってね。もちろん馬鹿馬鹿しいと思ったが、やっぱり中二心が疼いてさ。わかるだろ、その気持ち」


「あ、ああ……」


 まあたぶん、俺だって同じことをするだろう。男子高校生だし。


「そしたら本当に魔法が使えるようになってね。あとは君がさっき言った通りだ」


 俺は無言で頷いた。


 校門での坂巻のいじめはさすがに限度を超えていた。古山もさぞ痛かったことだろう。


 憎しみと痛みが限界に達し、初めてあのとき殺人に手を染めたというわけか……


 いかんいかん。

 またリベリオン側に感情移入するところだった。俺の目的は古山章三を止めることなのに。


 つまりは、《道ばたで拾った本》というのが、すべての始まりであったわけだ。


 現段階で確証は持てないが、異世界なり異次元空間なりで、ぱたりと俺たちのいる世界に紛れ込んだのだと思う。


 俺はもう一度、古山のステータスを確認した。


 99999。

 どこからどう見ても全部9。笑えてくる。


 可能であればこのまま古山と戦っちゃおうかなあなどとも思っていたが、これではいくらなんでも勝ち目がない。レベルをあげる必要がある。


 そのあとで、最初は異世界の古山章三から倒す。異世界での彼はまだレベルが低いはずだし、徒党を組まれて厄介なことになる前に、まずはそちらをどうにかしたい。


 そう思った俺は、ひとつ、古山に申し入れることにした。


「ここの訓練場、借りてもいいか?」


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