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運命の相手とか馬鹿馬鹿しい

 ーーまたも謎の失踪、今月で十三件目かーー


 帰り道。


 大勢の人々の行き交う大通りで、デパートに設えられた大型モニターがニュースを放映していた。信号待ちの退屈しのぎで、俺はぼんやりと画面に目を向ける。夕陽はすっかり暮れており、あちこちでネオンが輝いていた。


 俺の住む埼玉県を発端として、中学生・高校生が突然失踪する事件が相次いでいる。初めての被害はなんと俺の通う桜ヶ丘高校の生徒だったので、周囲にこの話を知らない者はいない。


 俺とても不安ではある。一体いつどこで、自分が被害に遭うかわからないからだ。


 失踪する生徒には特徴があった。被害者の全員が、不良生徒だったのである。だから事件当初はあまり問題にならなかった。単なる不良学生の家出かと思われたからだ。


 だが二件目、三件目と失踪者が続出し、近隣の学校にも被害が及ぶにあたって、さすがに楽観視はしていられなくなった。現在も警察が全力で捜査中らしいが、いまだ明るい話は聞いていない。


 これを受け、高校は夜六時以降の部活動を禁止した。さらに、今後も午前中のみの授業となるのか、それとも異例の学級閉鎖となるのか……生徒の関心は絶えることはない。


 俺としても、この事件には関心を持たざるをえなかった。

 被害現場が自分の学校だからという理由だけじゃない。聞くところによると、失踪した生徒たちは、不良であると同時にかなり悪質ないじめっ子でもあったのだ。


 実は俺も救われている。クラスで最も不良と呼ばれていた男子生徒が学校から消え、みんなが怯えている一方で、俺だけは胸をなで下ろしていた。どうか、このまま帰ってきませんようにーーと。


 そこまで考えて、俺は自嘲の笑みを浮かべた。


 なんてゲスい考え方だ。いくらいじめっ子であろうとも、こんな事件に巻き込まれていいわけがない。顔が駄目ならせめて性格だけでも良くないと……


 などと下らない思索を巡らせているうち、俺はふいに違和感を覚えた。


 見知らぬ場所にいた。


 さっきまでネオンの輝く人だかりのなかにいたはずだ。なのにいま俺の立っている場所は、人間どころか、あらゆる物が存在しない。霧がかったモヤモヤが周囲を完全に覆っているばかりで、他にはなにも見ることができない。


「どういう……ことだ」

 思わずひとりごちる。

 そもそも俺は、信号を待つために立ち止まっていたはずだ。ただ考えなしに歩いていた記憶はない。なのにーーなぜ?


 なにもできずに立ちすくんでいると、前方で人影が揺れているのが見えた。しかもこちらに歩み寄ってきている。


 訳が分からず、金縛りにあったように立ち尽くしていると、人影がその姿を現した。


 女の子だ。

 黄緑がかったさらりと長い髪。そしてこちらも翡翠にきらめく瞳。透き通るような白い肌に、女性らしい丸みを帯びた抜群のスタイル。それでいて幼さも兼ね備えており、年齢もさして俺と変わらないように思えた。


あや……さか?」

 ふっと名前が口をついて出た。そして驚愕した。

 自分で言っておきながら、その名前にまったく覚えがないからだ。


 なんだ? この少女の名前か? 


 おかしい。こんな可愛い女の子とは、話したこともないし、そもそも会ったこともない。


 しかしながら、俺の口にした名前は、少女の名字で間違いなかったようだ。少女は目を見開いていたが、数秒ののちに天使の微笑みを浮かべた。


「良かった。ちょっとは覚えていてくれたんだね」

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