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この世界での魔法ってそれだけでチート

 古山をまとっていた漆黒の霊気が、激しさをともなって広がっていく。周囲に轟音が響き渡り、心なしかわずかな地震すら起きているように感じられる。


 その激烈な魔力に、俺の本能が危険信号を唱え始めた。このままでは確実に殺される、と。


 この危機を脱するには魔法で対抗するしかあるまい。

 それはわかっているのだが、俺は魔法なんて一度しか使ったことがないし、そもそも彩坂に譲渡されて初めて使えたのだ。


 ……でも、やるしかない。


 以前の要領を思い出し、俺は右手に意識を集中した。神経を研ぎ澄まし、魔法がわき起こってくるのを脳内で思い描く。


 しかしなにも起こらない。

 失敗したか? と思ったのも束の間。


 見覚えのある蒼い閃光が一瞬だけひらめき、俺の右拳に収束されていく。じんじんと温かい感触が伝わっていく。


「あははは、馬鹿だねえ」

 俺に向けて右腕を突き出しながら、古山が言い放った。

「MDの高い者同士だと使役は通用しないよ。単純な魔力で勝負しないと」


 俺は目を見開いた。

 MD。たしかにステータスにその項目があった。

 それはもしかしてmagic defenseーー魔法防御のことか。


 気づいたときにはもう遅かった。以前と同じように心臓を使役しようとしても、古山の身にはなにも起こらない。奴は奔流のごとく霊気を迸らせながら、着実に魔力をため込んでいくばかりだ。


「くそ……!」

 俺が悪態をついた、その瞬間。


 衝撃音が俺の耳を震わせ。

 黒い可視放射が、空気を切り裂いて俺に迫ってきた。

 情けないことに、俺は棒立ちのまま動けなかった。


 向かってくる光線がスローモーションのように見て取れるのだが、思考が真っ白になってなにもできない。どうすることもできない。これまでの人生経験が、走馬燈のごとく脳裏で高速再生されていく。


 死ぬのか。俺はこのまま……


 俺は可視放射を全身に喰らい、はるか後方に吹き飛ばされた。闇の魔法に身体が蝕まれるのを感じる。


 俺ははるか上空を飛んでいた。


 なにか悪い冗談だと思った。眼下では、ひとつひとつの建物などが点になって広がっているのだ。


 空中で手足を広げながら、俺は薄い笑みを浮かべた。もうなにもできやしない。このまま落下して、俺の人生はあっけなく幕を閉じるのだ。


 瞬間。


「大丈夫だよ」

 耳元で女のささやき声が聞こえて、俺は仰天した。こんな上空でいったい誰が、と思いながら振り向く。

「あなたは死なない。最強の魔法使いだもの。全身に魔力を張って」


「な……」


 彩坂育美だった。

 まるで鳥のごとく、吹き飛んでいく俺の隣についてくる。完全に宙に浮いている。


 わけがわからず、俺はぽかんと口を開けた。


「お、おまえ、彩……」

「早く言うこと聞いてよ。じゃないと本当に死んじゃうよ」 


 その淀みない口ぶり。

 さっき高城絵美にいじめられていた彩坂とはまるで異なる。表情が豊かだし、妙に俺に親しげだ。


 そう。

 俺を異世界へ招待した「彩坂育美」とまったく同じ性格をしているのだ。

 わけがわからないが、それを問いつめている時間もなさそうだ。


「魔力を張るって、どうすんだよ?」

「全身に魔力を込めて。その魔法で自分のまわりに壁をつくって」


 んなこと言われたってできるわけがーー

 なくはなかった。

 ほんのすこし力を込めると、身体の芯から温かいものが放出されてくる。黒のオーラが俺の周囲に発生し、衣のごとく包んでくる。その瞬間から、なぜか死の恐怖心がことごとく消え去った。


 なんだこれは。まるで、前にも同じことをやっていたかのようなーー


「うん、それで大丈夫だね。落ちても平気なはず」

「……マジかよ」

 こんなとてつもない上空から落下しても死なないとは、いくらなんでもチートに過ぎる。


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