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スクールカーストをひっくり返す

「……ひとつ、聞かせてくれ」


 呟きつつ、俺は古山を睨んだ。


「古山、おまえなにか下らないことを考えていないか。たとえばーー魔法を手に入れた暁に、いじめっ子どもをもろとも掃討しよう、とかな」


 眼鏡の奥の双眸が今度こそ大きく見開かれる。


「なんだ、本気で気味悪いね。なんでそこまで知ってるの」


 その返答に俺はある確信を抱いた。


 前世界における、謎の失踪事件。

 その首謀者が古山章三だ。


 奴が魔法を手に入れたきっかけは不明だが、とにもかくにも、古山はその力を使って世のいじめっ子を消滅しにかかっている。そう思わせるだけの異常さが古山にはある。


 以前、彩坂に言われた言葉を思い出す。


 ーーお願い、私たちを、助けて。


 具体的なことはまだわからないが、この事件を解決することこそが、きっと彩坂の願いである気がした。実際にも、前世界においてはかなりの人数が失踪事件に巻き込まれていた。


 止めなきゃいけないーー必ず。


 俺と屹立する古山章三は、心なしか漆黒の霊気に包まれているように見えた。どす黒いオーラを身にまとい、大それた野望をたくらんでいる最悪の大魔王。


 古山は両腕を掲げ、恍惚じみた表情を浮かべて言った。

「ふん、きみにはわからないだろう? いじめられっ子の苦悩が」

「…………」

「毎日毎日、ほんと嫌になるよ。いじめっ子のせいで自分の将来を潰されるんだ」


 いじめられっ子の苦悩……

 いまでもありありと思い出せる。

 後輩にすらいじめられる自分。それに言い返すこともできない自分。


 正直なところ、そんな彼らを痛めつけてやりたいと思ったことは一度や二度ではない。坂巻なぞは本気で呪い殺してやりたかった。


 酔いしれた表情のまま、古山は話を続けた。


「いじめが原因で人が死ぬ事件だって起きてるだろう? それでもいじめはなくならない。想像力の足りない馬鹿が、また同じ過ちを繰り返そうとしてる。ーーだからさ、これはあくまで正当防衛だよ。殺される前に殺す。馬鹿馬鹿しいスクールカーストをひっくり返してやるんだ」


 気持ちは痛いほどわかる。


 いじめは立派な犯罪だ。直接的に命がなくなることはなくても、いじめのせいで人嫌いになったりすることもある。それだって取り返しのつかない被害のはずだ。


 わからなかった。俺はどう反応すればいいのか。心の一部では、やはり古山に同調してしまうのだ。


 だが、俺のその内心を訴えたところで伝わるはずもない。この世界での俺はリア充。古山からすれば忌むべき存在だ。


 数秒の葛藤ののち、俺は一歩前に踏みだし、決然と言い放った。


「……だからといって、人を殺していい理由にはならない。そうやって傷つけ合っちゃまた同じことの繰り返しだ」


「はっ」

 古山は鼻で笑った。

「なんともテンプレな返事だね。今朝は助けてくれたし、見逃してあげようとも思ってたけど……きみも、殺しちゃおうかな」


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