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やっぱりこれは中二病だよな

「な……馬鹿な……」

 思わず俺は数歩後退した。


 心拍数が急激に高まっていくのを感じる。呼吸が乱れていく。

 あの魔法。かつて俺が不審者に向けて放った「魔法」とまったく同質のものだ。なぜ古山がそんなものを……


 ふと、視界上部に見慣れないものが映っているのに気づいた。



 古山章三 レベル1

 HP 59/59 MP 103/110

 MA 2000 MD 500


 一見して、ゲーム等でよくある「ステータス」だとわかる。異世界転移でおなじみであるが、しかし、なぜこんなものが急に現れたのか。


 俺が立ち尽くしていると、古山がふらりと俺に目を向けた。


「……こりゃ驚いた。きみのステータスが見えるってことは、きみも魔法使いなのかい?」

「……どういう、ことだ?」

「なんだ、知らないのか」


 古山はふうと息をつくと、嫌らしい笑みを浮かべて俺に向き直った。さきほどまでの弱々しさはすっかり消え失せ、大胆不敵な態度で俺と対峙する。


「能力者同士だとステータスが見えるのさ。きみにも僕のステータスが見えるだろう? すこしMPが減ってるはずだ」


 その言葉にこくりと頷く。

 たしかにそうだ。さきほど魔法を使用した影響か、古山のMPが七つ減少している。


「じゃあ、おまえもーー」

 俺が言いかけた途端。


 どこかで甲高い悲鳴が発生した。


 ちらりと目を向けると、数人の女子生徒が、転がる死体を見て尻餅をついていた。彼女らだけではない。この惨状を見たすべての生徒たちが、青白い顔で散っていく。スマホを取り出して通報しようとする者もいる。


 それを見た古山が鬱陶しそうに顔をしかめた。


 そう、ここは学校の敷地内だ。殺人でも起きようものなら、大騒ぎになって当然ーー


 俺がそう思ったのも束の間、古山の手の平からまたしても蒼い光が発生した。殺人的なまでに輝かしいそのきらめきを見て、俺は無意識のうちに走り出していた。これ以上、無用な被害を出すわけにはいかない。


「使役するよ……彼らの脳を」


 古山が呟いた瞬間。


 さきほどまで恐慌をきたしていた生徒らが、ぴたりと動きを止めた。かつて俺が相対した不審者たちのごとく、目を半開きにし、寝ぼけたように立ち止まっている。涎を垂らし、深い催眠状態に入っているかのようだ。


 古山は続けて言った。

「この出来事をすべて忘れて。いつも通りに帰って」


 コクコクコク。


 まるで操り人形のように、すべての生徒たちが何度も何度も頷く。虚ろな表情を浮かべたまま、何事もなかったかのように、各々でいずこへと去っていく。


 俺は目を見開いたまま動けなかった。前世界で起きていた、謎の失踪事件のことを思い出していたからだ。


 ーー事件発生の寸前、被害者と一緒にいた友人たちは、みな口を揃えて「覚えていない」と証言している。なにも記憶に残っていない。嘘でもなんでもなく、本当に覚えていないのだーー


 覚えていない。

 それはつまり、魔法によって「脳を使役」され、記憶を消されたからではないのか。


 繋がっている。元の世界と今の世界が。


 古山はふふふと気味の悪い笑い声を発した。

「こりゃすごい。魔法がここまで強大な力を持っているなんてね」


 その口ぶりから、俺はある予感に打たれた。乱れた呼吸で問いかける。


「おまえ……魔法を使うのは初めてか」


「ん?」

 古山が目を丸くする。

「へえ、よくわかったね。その通りさ」


「魔法で人を殺したのも……これが初めてか」

「そうさ。それがなんだい?」


 やはりだ。

 前世界において、坂巻は最初の被害者だった。そしてこの世界においても、坂巻はやはり最初に殺された。


 導かれる結論はひとつ。

 俺は過去の異世界に来ている。

 そしていま、失踪事件の初めての現場に出くわしている。


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