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俺だってこんなくっせー台詞言いたくないんだよ

 俺が頭を抱えていると、珍しくも彩坂から話しかけてきた。


「ね、ねえ……吉岡くん」

「ん?」

「なんであなたは……そんなに私に優しくしてくれるの?」

「あー、んーと……」


 最もらしい返答を考えたが、こんな一瞬で考えつくはずもなく。

 俺は素直に答えることにした。


「まあ……、俺とおまえは前に会ったことがあるからさ」


 我ながらクサいセリフだが、事実なのだから仕方ない。他にどう答えればいいのか。


 実際にも、彩坂はきょとんと目をぱちくりさせていた。そりゃそうだ、俺だってそうなる。


「わけわかんねーって思ってんだろ? 俺もだよ。この状況がいったいなんなのか、俺にもわからない」

「そっか……吉岡くんにも悩みがあるんだね」

「ああ……わかんないことだらけだ」


 妙な沈黙があたりを包んだ。

 けれど気まずくはない。

 この静けさが心地いい。


 それは彩坂も同じだったのだろうか、相変わらずの無表情ではあるが、さきほどよりも表情が緩んでいた。


 合唱の授業でもしているのだろう。音楽室の方向から、優しげな声音が響いてくる。


 ぽつりと、俺は訊ねた。


「いじめられてたのか」

「……うん」

「高城にか」

「うん……」


 答えた彩坂の声に涙が混じっていた。


 いじめ。

 それは学生を鬱にさせる。

 俺とても、前世界で不登校になっていたかもしれない。坂巻が失踪したおかげで、救われた部分が多くあるのだ。


 そんないじめられっ子に大人たちは優しい。

 頑張れ、とか、私は味方だよ、とか、親身になって話を聞いてくれる。


 だが。

 俺たち高校生にとっては、学校こそが社会そのものなのだ。

 いくら大人に優しい言葉を投げかけられようが、しょせんは「部外者」の発言。たいして心に響かない。


 だから俺は言った。


「なあ、ライン交換しないか?」

「……え?」

「正直、高城あいつがいると絡みづらいだろ。だからラインで話そう。辛いこと、嫌なことがあったら相談してくれ」

「え……ええっ……」


 極度の緊張状態なのか、彩坂は口をぽかんと開けたままなにも言わない。そんな彼女を見て、俺はまたも胸が脈打つのを感じた。


「ほら、スマホは持ってきてんだろ?」

「う、うん……」

「だったら早く」

「う、うん……」


 かつての俺が、ひそかに渇望していたもの。

 それは、同じ「社会」にいる生徒たちに認められること。


 だからこそ、屋上で後輩に告白されたときは、疑念もあるにはあったが、素直に嬉しかった。告白されたからではなく、誰かに認められていることが感じられたから。


 今度は、俺がその役を背負えばいい。


 あの告白は偽物だったが、そうではなく、本当に彩坂をひとりの「人間」と認めるのだ。そうすればきっと、彼女の心に響くはず。


「あ、あの」

 ラインのQRコード交換を終え、彩坂は俺を見上げた。目が合うとすぐに逸らしてしまったが、それでも、たしかな声でこう言った。

「……ありがとう」


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